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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第2章 学校編
37/79

26 なんやてヒジリ!

その事件は、唐突に起こった。


「あああああああ」


「!?」

「何、今の声」


ヒジリが優勝し、今はそのお祝いということで、授賞式の前に食堂で小さい祝勝会を開いていたのだが、どこかから女子の悲鳴が聞こえたのである。


声の方向からして、外?


「ヒジリ、外から...」

「みたいだね。いこっか」


僕とヒジリは、その声が誰なのか、確かめるために外に出ることにしたのだ。

しかし、それは確かめられなかった。


なぜなのか。


「あ、あそこに人だまり。たぶんあれかな」

「みたいね」


答えは簡単である。


「ちょっと通してね...って、これは」

「...まさか、こういうことが起きるとはね」


その悲鳴をあげたのであろう女性は、死んでいたのである。






「んで、なんで死んでんの?」

「見たところ、誰かに刺されたっぽいけど」


この世界で誰かが死ぬことなんて珍しくない。問題なのは、学院の中で、死んだということだ。

しかも、よりによってたくさんの人がいる中で。


ルノウ会長に知らせたら、すぐに解決されるだろう。

だが、あれでいて忙しい人だ。僕の部屋の前に来るけど、忙しい人なのだ。

なら、僕達で解決できるのなら、解決してしまったほうがいいだろう。

そして、事後報告だ。


「何で刺されたかまではわからないけど」


本当はわかるが言わない。言えない。

自分で自分の力を隠している以上、ここで変なことを言うのは避けたい。

うっかり属性は持ち合わせていませんから。


「私が見た感じ、短剣ね」

「なんやてヒジリ!」

「...しかも、斬れ味は抜群なのに、下手な奴が使ったのかしら。刺し傷が多いわね」


渾身のネタをヒジリにスルーされてしまった。

しかし、ヒジリの言うとおり、この女性の体には5か所もの刺し傷があった。

殺すのに手なれた人であれば、のど元掻っ切るかなんかですぐに殺すのだろうが、悲鳴をあげさせる時間を与えていることから、その類の人では無いと推測できる。

だけど、なんのために?


「この被害者の関係者を集めよう」

「そうね」


そうと決まれば、善は急げだ。






「なあ、俺たち関係ないぜ」

「ああ」

「まったく、こんなことで呼び出さないでほしいわね」

「...」


太陽もすっかり隠れ、夜になったこの学院の敷地内。

近くの建物に背中を預け死んだ女の人。

その関係者が、4人集まった。


被害者の女の人の服装は、制服では無かったため、すぐに情報が集まった。

この学院の生徒はめったに外に出ないのだ。


「せっかくお気に入りの酒が入ったってのに」


1人目の容疑者のこの男。

見た目は普通の平民といった感じだが、情報を集めている最中に、この男は平民に扮した貴族だということが分かった。

いかにも怪しい。

まずはこの男からである。


「まずは、この女の人が死んだ時間帯、あなたは何をしていましたか?」

「何をって、いつだよ」

「...」


穴だらけの事情聴取である。


すぐさま遺体に駆け寄り、死亡推定時刻を測定。しようとしたけどその道の知識が無いことに今更気づく。

仕方ないので、創造スキルにお任せで鑑定スキルなるものを造る。

パッシブではないスキルなので、任意で使用可能だ。

Lv.は10。


「わかりました、今からちょうど30分前です」

「なんでわかんだよ」

「機密事項です」


別に話してもいいのだが、理解はしてもらえないだろうし、ヒジリが何らかしら感づく可能性がある。

迂闊なことはできない。


「さ、そんなことより、さっさと話しなさいよ」


ヒジリもこの取り調べごっこにでもはまってきたのか、ノリノリで聞く。

うーん、さっきの悪魔みたいにはならないでほしい。


「その時は...お気に入りの酒が入ったって連絡を前もって受けていたから、酒場に行ってたはずだぜ。というか、お前らが来た場所もそこだったろうが」

「...さて、酒場に聞きに行きますか」

「お任せください。ご主人様」

「あ、リナ。じゃあ、お願い」


酒場はここから数分で着く場所にある。

学院の生徒がここから抜け出していくのではないかと心配する人もいるみたいだが、酒場のおっちゃんは学院から生徒全員の顔写真と名前を配布されており、すぐにばれて連絡が行くようになっているので安心だ。

変装してもなぜかばれるし、魔法をかけても無効化するアイテムが入口に張ってあるらしく、ばれる。

安心安全の酒場だ。


さっき行った時も、僕とヒジリの名前を憶えていた。

ヒジリはともかく、僕の名前まで憶えられているのだ。信頼できるだろう。


「さて、次の人だね」

「次は女の人にしましょう」


そこで、僕はさっきの人の名前を聞いていないことに気づく。


「あの、名前は」

「俺の名前はリリックだ。なんで最初に聞かねえのか不思議だったぜ...」

「...」


さて、リナにも知らせないと。

ユサを呼び出す。


「ユサー」

「なんですか、ご主人様」

「ちょっと頼みごとが」


頼みごとは、さっきの男の名前がリリックだということをリナに伝えてほしいという内容だ。

しかし、リリックってなんだか宝箱に紛れてそうだな。


「がってんしょうち!」


ユサはそれを聞くと、猛烈なスピードでリナがいるであろう酒場の方向へと走って行った。

これで安心だ。


「なかなかのスピードね。将来有望なんじゃない、ご主人様」

「ヒジリまでそれで呼ばないでよ...」


さて、次の人だ。


「私の名前はグリル。町でアクセサリーを売っているわ」

「なるほど」


またしてもここで、相手の職業を聞き忘れることに気づく僕。

穴だらけである。


「その店、短剣とか売ってない?」

「ええ、売ってるわよ」


この野郎墓穴を掘りやがったな、という顔をするヒジリ。

だが、それは無いと思う。普通に売っている短剣で、あんな斬れ味が出せるとは思えない。

まあ、僕の短剣なら簡単に可能なわけだが。


「さて、今から30分前、何をしていましたか?」

「確か...寝てたかしら」

「それを証明できる人物はいますか?」

「いないわよ、独身だもの」

「...ごめんなさい」


独身の部分を激しく強調するグリルの顔に押されて、つい謝ってしまう僕。

地雷を踏んでしまったかもしれない。


「ふーん、独身とかつまんなさそう」

「!」


そして、爆弾を投下するヒジリ。

どうやって処理しよう。


「あんた、喧嘩売ってんの?」

「あら、私は思ったことを言っただけなのだけど」


処理する前に爆発しそうです。助けて爆発物処理班。


仕方がないので、爆弾は見過ごして話を進めることに。


「ま、それは置いといて...そうですね、証明できる人がいないと、犯人になってしまうかもしれないですねえ」

「...まあ、私もこれ以上は何も言えないし、どう判断してくれても構わないわ」


さて、次の人を呼ぶとしよう。


「次は誰にする?」

「そうね、次は男ね」


ヒジリが男というので、男を連れてくる。


「俺の名前はドバイ。普段はここから少し離れた場所で働いている」

「ちなみに、何をしていらっしゃるんですか?」

「果物の販売だな」


何の果物を売ってるのか気になる。聞いてみてもいいかな。

いいよね。


「ちなみに、お勧めの果物ってあります」

「プァインだな」

「プァイン?」


なんか、聞いたことがあるような名前だが。

まあ、お勧めというのだ。おいしいのだろう。どんな食感なのかも聞いておこう。


「どんな感じです? その果物」

「そうだな...この果物の特性なのか、温かいところでしか育たないらしく」

「...うん?」


なんだろう、その果物、なんか見当がつくような。

いや、気のせいだろう。


「皮のような部分はとげとげしているんだが、中身は黄色く柔らかいんだ。中心部分は少し硬いから、それはくりぬくけどな」

「なるほど。それって、輪切りにして食べます?」

「お、よくわかったな。プァインはそうした方が、果汁が出てうまいんだ」

「なるほど、よくわかりました」


よくわかっただけじゃない、その果物は僕の大好物でもある。

パインだ。


この世界は、現代にあるものに似せてくる傾向があるな。

もしかして、過去に日本人でも送り込まれたのか?


「そんなことより、30分前は何をしていたの?」

「はっ、忘れてた」


ヒジリの一声で、我に戻る僕。

捜査が穴だらけなら、それを行っている人も穴だらけである。


「ああ、その時は客がいなかったもんで、店の中で娘と遊んでいたはずだ」

「なるほど...」


既婚者か。

なら、女トラブルがあるかもしれない。


「ありがとうございました」

「...アイラ、何かわかった?」

「なーんも。最後の人を呼んでみてかな」


怪しい人はいる。だが、最後まで話を聞いてみないとわからないこともある。


ああ、最後の人に聞きに行く前に、その娘さんとやらにあってこないと。


「でしたら、私が行ってきましょうか」

「あれ、リナ、戻ってきたの?」

「はい」

「それで、どうだった?」

「はい、確認は取れました。私の名前も知っていたことから、信頼は出来るかと」


なるほど、リナがそういうなら問題は無いだろう。しかし、ユサはどこに行ったんだろう。


「ユサはその場でお酒を飲み始めています」

「...」


まあ、放置かな。

お金は後で自己責任で払ってもらおう。体での方向は無しで。


「じゃあ、またお願いしちゃおうかな」

「わかりました」


そして、リナはすぐに走って行った。

うーん、忠実な犬と化している気がする。

まあいいか。可愛いし。


「ところで、なんでご主人様って呼んでるの?」

「あー、まあ事情があってね」


今はそれを話している状況では無いだろう。

自分のことは棚に上げるとして、次の人だ。


次の人は、驚く職の人だった。


「私の名前はコーラ。普段はギルドで受付嬢をしています。30分前も、私はギルドで作業を」

「なるほど。ちなみに、なんで30分前だってわかるんです?」

「あ...」


なんともあほな人である。人のことは言えないが。

なにはともあれ、これで犯人は決まった。後は、ルノウ会長に突き出すだけである。

まあ、最後に理由だけ聞いておこうかな。


「さすがですね...もしや、この辺りでは名探偵として有名な方なのですか?」

「いえ、違いますけど」

「そんな方がこの国にちょうどいた。それが私の運のつきだったのでしょうね」

「え、いや、あの」


なんだか、僕の話も聞かずに喋り出したコーラさん。

ヒジリの方を見ると、肩をすくめていた。


「あれは、半年前です」


理由を聞いていないのに話し始めた。

まあ、聞きたかったから別にいいんだけど。


「私は、ある人と付き合っていました。ですが、あの女が、私の彼を、自分の体を使って誘惑し、さらに奴隷へと落とそうとしたのです」

「そりゃひどい話d」

「詳細は私の口からは言えません。ですが、そのことにひどく憤慨した私は、彼女を殺す算段をつけました」

「まあ、それだけ彼のことが大切だったんでs」

「ついに準備が整ったこの日。ちょうど学院の大会開催日で、他の人も試合に目を奪われている中、やってしまおうと思ったのです」

「...」


どうせ喋っても途中で遮られてしまうのだから、喋らないでおこうと思った僕だった。


「しかし、私にも予想外のことが起きてしまいました。私は、試合に夢中になってしまったのです」


なんともあほな人だ。人のことは言えないけど。


「気づけば決勝戦が終わり、人々は次々と授賞式の会場へと足を運んでいきます。

これでは、なんのためにこの半年間も準備してきたのかわからなくなってしまう。

その一心で、私は彼女を見つけ、刺しました」

「なるほど」


まあ、結局女関係だったというわけだ。

しかし、他の人たちも十分怪しかった。

というか、彼女と関係がある人たちを集めたのに、どういった関係なのかを聞いていなかった。

唯一判明しているのはこのあほな人だけだ。人のことは言えないけど。


「しかし、慌てていた私は、何回も刺してしまい、あまつさえ悲鳴をあげさせてしまいました」

「まあ、その悲鳴のせいでこうしてばれているわけですからね」





あほな人が自分で自爆した10分後、ルノウ会長が走ってきた。


「話は聞いたわ。それで、どうなったの?」

「この人が犯人です。自分でも認めています」


あとは本人から聞いてくださいと、会長に丸投げし、僕達は後を去った。


こうして、穴だらけな警察ごっこは、あほな人のおかげでなんとか幕を閉じたのである。

2人が今回学んだことは、自分たちはこういうことに一切向いていないということだった。


授賞式まで、後1時間。

この2人はこういった頭を使うことは苦手なようです。

僕も苦手です。

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