25 まさに悪魔なのでは
ただ目の前で2人の生徒が戦い、シャルは圧倒的大差で勝利を収める中、決勝戦まであと1試合となっていた。
あっという間である。
「いやはや、シャルがなんか覚醒してから随分強くなったね」
「はい。ですが、ご主人様の方が...」
「シーッ!」
現在、僕が強いというのは秘密なのだ。
対人戦だって、前回のリースとの1回だけだし、情報が広まっている感じでもない。
まあ、誰にもバカにされなかったから、周りの反応が身に見えて、とはいかないのはわかっていたのだけれど。
「あ、シャルさんが勝ちましたよ」
「みたいだね」
今回も、シャルは相手の全てを完封した試合だった。
しかしそれ、わざとやっている節がないだろうか。
「決勝まで少し時間が空くみたい。リナはどうする?」
「いえ、私はご主人様についていきますので」
「まあ、予想していなかったわけじゃないけどね」
そんな感じで、学食へと戻ってきた僕達。
見ている最中にお腹が鳴ったら恥ずかしいし、それにおそらく、決勝戦をやっている時間と夕食の時間が被るのだ。
なら、先に食べておく方がいいだろう。
「あれ、シャル」
「あら、アイラにリナさん。2人も学食を?」
「うん、そう」
今回頼んだのは、さんまの塩焼き。
正確にはさんまではなく、スンマというらしい。さんまで良くないだろうか。
「しかし、シャルは強いね」
「まあ、そうですわね。私でも驚いていますの」
「シャル自身でも?」
自分で自分の強さに驚く人が僕の他にもいたのか。それこそ驚きだ。
「いえ、先ほどのユサさんとの1戦ですわ」
「それが何か?」
「私は負けると思いましたのに」
なるほど、本人も思いがけない成長だったわけだ。まあ、そういう追い詰められて時に覚醒する力って、本人の意思とは関係なく発動したりするしな。
それを言えば、今回は覚醒するべくしてした、という感じがする。
「突然、相手の動きが遅くなりましたの」
「なるほど...」
試合中にヒジリが言っていた、『慣れ』とはまた別のものだし、ヒジリも僕とやる時にそれになるかもしれないし、少し注意しておくか。
「まあ、後はヒジリを倒すだけですわね」
「勝てるの?」
「勝つしかありませんわ」
なるほど、確かにそうだが、それを口に出せるのか。強い人だ。
でも、実際にはそう上手くいかない時だってある。
現代社会では、そういう思いをたくさんしてきた。
「そのうち、アイラともやれる日を楽しみにしていますわね」
そう言うと、シャルは皿を片づけにいった。
僕としては、やる日が来ないことを祈っているよ。
「ご主人様、もう少しで決勝戦が始まります」
「うん、行こうか」
ヒジリとシャル。かなりレベルの高い戦いになるはずだ。
少し、いや、かなり楽しみだ。
「まあ、実際にやれと言われたら絶対いやだけど」
見るのが好きなのと、やるのが好きなのは必ずしもつながるわけじゃない。
「あ、2人が出てきた」
時刻は18時。予想通り夕食と被る時間帯に、2人の決勝戦は始まる。
遠目から見てもわかるように、シャルの顔には闘志がみなぎっている。
対するヒジリは、あまりその様子はない。
しかし、そのうちではどうなのか知らないが。
「戦闘開始!」
再び、録音されているであろう声で始まる。
「行きますわよ!」
「舌噛むよ」
「...っ!」
先に仕掛けたのはシャル、自前の剣を抜き、接近しようとしたその瞬間、ヒジリに逆に距離を詰められ、それに驚いたシャルは、ヒジリの攻撃を防ぐので精いっぱいだ。
あの様子では、魔法を詠唱するのにもう少し時間がかかりそうだ。
魔法の詠唱には、いくつか種類がある。
僕らがいつもやっているのは、『略式詠唱』と呼ばれるものだ。
魔法名を唱えるだけで、すぐに魔法が発動する。
そして、魔法名を唱えずとも魔法を発動できるタイプ、『脳内詠唱』だ。
頭の中で魔法を構築するため、負担はそれなりにかかるが、発動した後じゃないと、何の魔法なのかわからないという利点がある。
魔法が不得意な人は普通に『詠唱』があるらしいが、それは普通の『ファイア』でもくそ長いので、余程の人じゃない限り使われない。
シャルやヒジリは、『略式詠唱』タイプだ。
しかし、それも少なからず頭の中での構築が必要となる。
今現在、ヒジリの達人レベルに匹敵するかもしれないレベルの剣さばきをかろうじて捌けているのは強化魔法のおかげだが、それだけだ。それ以上のことはできない。
逆に、強化魔法を使って剣の実力ではイーブンなのだ。このままでは不利であることには変わらない。
「こ、んのぉ...」
シャルもそれを理解しているらしく、少し焦りの色が見えてきた。
地力の体力では、ヒジリには勝てないのだろう。
距離を取るべく、自身を多少巻き込むのも承知の上で、範囲魔法を使うようだ。
なんでわかるかって?
なんとなくだよ、なんとなく。
未だに判明していないスキルのせいかもしれない。
「『エクスプロージョン!』」
ヒジリの近くで爆発が起きる。
その爆発はかなりのもので、普通の人が当たれば木端微塵だろう。
腕輪は機能しているのだろうか。
決勝戦だから、少し甘くしているのかもしれない。
国王が来ているのだ、多少のことは目をつむってでも、何かしらアピールをしたいのかもしれない。
「!」
その爆発は予想外だったのか、ヒジリが慌てて後ろに飛ぶ。
しかし、その着地した足元に、トラップの魔法。
「ランドマイン!」
ランドマイン、日本語で地雷のことだ。
その名の通り、ヒジリの足元でかなりの爆発が起きる。
現代の地雷とどっこいだ。
いよいよ腕輪の効力が切れているのではないかと疑うレベルである。
しかし、ヒジリはその爆発の中から猛スピードでシャルに向かって飛び出す。
その行動を予測していたのか、ヒジリの足に、魔法で出来た蔦を絡ませる。
それ自体の耐久性はあまり高くない。しかし、一瞬だけ、動きを止めることができた。それで十分である。
「『アイスバースト』!」
シャルの手のひらから、かなりの威力の魔法が放たれる。
基本は5属性の魔法だが、その属性が判明したのは数百年も前だ。
それだけあれば、魔法も派生するのだろう。
しかし、基本の5属性は強いらしく、もとより存在したと伝えられているその5属性には、どんな派生した属性でも勝てないらしい。
ちなみに、その派生した魔法の中で、闇魔法なるものがあるとか。
いいね、中二心をくすぐるよ。
「甘いわね」
シャルの完全なる作戦勝ち、それを誰もが確信した時、ヒジリは笑った。
まるで、『こんなものか』とあざ笑うかのように。
「ふん」
剣を振る。
その1振り1振りで、シャルの構築した魔法が崩されていく。
「なっ」
「今度はこっちの番」
ヒジリがそういうと、一気に形勢は逆転した。
まず、魔法が効かないこと。
どんな魔法を唱えても、攻撃性の魔法なら剣で切り捨て、妨害性の魔法ならまるでそこに唱えるのがわかっているのかのように避ける。
ヒジリの勝利は目前へと迫っていた。
「こ、こんなこと...!」
「あり得ないと思う? でも、私があなたにしていることは現実だよ」
ヒジリは、容赦なくシャルの体に剣を打ちつける。
強化魔法が張ってある今、かろうじて刃が体を傷つけることは無いが、それでもダメージは入る。
圧迫されるのだ。
「がぁっ...」
「ほら、ほら、なんとかしないと死んじゃうよ?」
これ以上はまずい、そう僕が思った時、教師が止めに入った。
すると、ヒジリは先ほどまでとは別人のように、シャルの心配を始め、回復魔法まで使い始めた。
「ごめん...」
「...いえ、いいんですの」
シャルもそれを知っているのか、特に何も言おうとはしない。
だが、僕はあのヒジリを見るのは初めてなのだ。誰か説明してほしい。
まあ、それはそのうち部屋で聞くとして、今不安なのは1つだけ。
僕は、あんなのとやるんですかい...?
この間サッカーをしていたら、つま先に思い切りボールが当たって、親指の爪の中が内出血パーティでした。
うーん、痛い。




