24 シャル、覚醒
ユサ対シャルの試合が始まって数分。
2人は会場の観客を虜にしていた。
もちろん、僕も含めて。
しかし、ヒジリは少し退屈さが薄れたかな程度だった。
「あの2人、良い動きはしてるんだけど、まだ足りないのよね。このまま行くならユサが勝つかな」
「ふーん」
戦いの行方なんて、その道の素人が見てもわからないのだが、ヒジリはわかるみたいだ。
優勝するだけの経験をし、さらにはシャルもユサも普段から近くで見てきたのだろう。
なるほど、それなら予想は僕でもできる。
かもしれない。
「このままなら、ね...」
「?」
ヒジリが何やら意味深なことを言うと、ユサがシャルを追いこんでいた。
長剣を振りまわし、シャルを壁へ壁へと追い込んでいく。
身体強化でもしているんのか、ユサの振りまわすスピードがかなり早い。そのせいで、シャルは逃げることで精いっぱいのようだった。
このままでは、あと数秒で壁に追い詰められてしまうだろう。
しかし、シャルの瞳から、諦めた感じは伝わってこない。
「ふふ、面白いわね」
「え?」
ヒジリがぽつりと漏らす。
相変わらずヒジリの面白いのラインがわからないが、これはもしかして、戦闘狂からしての面白いなのだろうか。
だとしたら、理解は一生したくない。
「ほら、みてみて」
「うん?」
ヒジリの促されてみた先では、まだシャルが逃げている。
...まだ、逃げている?
「あれ、さっきまではもう壁際だったのに、なんで中央でお互い動かず...」
「そりゃ、ユサが決め手に欠けてあんだけ振りまわしたら、いやでもあのスピードに慣れちゃうって」
「なるほど...」
それって、慣れたから今すぐどうにかできることなのか?
「だから、このままいけば、って言ったの。ユサはたしかに強いけど、戦ってきた相手が私だけだったから、長期戦のやり方は誰とも練習していないの」
「なるほど...」
短期決戦タイプてことかな。
まあ、戦闘での駆け引きなんて、誰かに言われて出来るようになるなんて稀だし、基本は自分で見つけていくものだ。
自分で見つけていく機会を、シャルの方が経験していた、というだけの話。
...また、経験か。
「そりゃ、経験してる方が有利なのはわかりきってることだけどさ...」
僕は、そういうのはあまり好きじゃない。経験してるから有利って言うのは、少し違う気がする。
まあ、それで負けてたら、実戦では死んでるのと同じなんだけど。
「さ、ここからが面白いよ」
「ここからねえ」
ヒジリがそういうと、シャルの動きが突然、目に見えて良くなり始めた。
ユサの持ち味であるスピードを、上回ろうとしているのだ。
ユサの斬撃を、見てから回避するようになっていく。
シャルが何かを纏っているように見えるのは気のせいだろうか。
「追い詰められて覚醒への扉が開いたか」
「覚醒への?」
僕達のそんな会話のの中でも、戦況は一気に変化していく。
今度はユサが逆に追い詰められ始めたのだ。
一見、ユサが長剣を振りまわし、シャルがそれを避ける。それ事態に変化は無い。
だが、シャルがどんどん接近していくのだ。
ユサが剣を振れば、シャルはそれを避けて一歩、また一歩と踏み込んでくる。
そうなると、獲物が長い分ユサには不利だ。
それを理解しているのか、はたまた本能か、ユサは剣を振る度に、後ろへと下がっていく。
今のところは、シャルのスピードがこれ以上上がる様子は無いため、近づいては離れてを繰り返しているが、それも時間の問題だ。
ユサの後ろに壁が迫る。
「っ!」
ついに、ユサの背中に壁がぶつかる。
ぶつかった瞬間、ユサの意識が背中に向いた瞬間、シャルは一気に距離を詰める。
ユサはそれに慌てて気がつき、長剣を無理に振るが、それも無駄に終わる。
余裕のある避け方でユサの攻撃を避け、首元に手を添える。
決着がついたみたいだ。
「ふぅ...」
「はあ、はあ」
ヒジリはその結果を見届けると、寝るとだけ言い残して再び戻っていった。
「そういえば、リナとサリナは出るのかな」
あの2人のことだ。
サリナは『眠い』とか言ってでなさそうだし、リナは『ご主人様の隣を離れるわけにはいきません』とか言いそうだ。
まあ、リナとはここ最近離れているし、もしかしたら出ているかもしれない。
「お、噂をすればなんとやら」
そんなことを考えていたら、前方にリナとサリナの姿が。
サリナが起きているのは珍しい。いや、起きているのが当たり前だし、最近はどうなのか知らないけどさ。
「おーい、リナー、サリナー」
「あ、ご主人様。お久しぶりです」
「...ん、久しぶり」
「うん、久しぶり」
リナもサリナもいつもと変わらず安心したところで、2人は何に出るのか聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。
「眠い」
「うん、そうだろうと思ったよ」
「ご主人様の隣が私の場所です。先ほどまでは、サリナ様の隣でしたが」
「うん、リナも予想通りだね」
この2人は元気そうだ。
さて、ユサの様子も見に行った方がいいかな。
「いえ、ユサはしばらく放置していた方が良いかと」
「なんで?」
「あれでいてユサは、悔しいときはすごく泣きますから」
「...なるほどね」
確かに、僕も高校時代の時の部活で、最後の試合で負けたときは悔しくて1日中泣いていたな。
ちなみに、その時所属していた部活はサッカー部。ポジションはど真ん中。ボランチと言うやつだ。
とまあ、思い出を振り返るのはやめて、次の予定を一応2人にも聞いておくとしよう。
「私はこのままご主人様についていきます」
「...私も」
「そっか、わかった」
まあ、1人で見るのもいいんだけど、さみしいから、ありがたい。
時間は既に昼過ぎ。いったん昼食を取ることにした僕達だった。
しかし、試合は続く。昼の時間でも、選手は昼食の時間をずらして行わなければならない。
苦行だ。
いや、そうでもないか。
「しかし、なぜご主人様は出なかったのですか?」
この学校では生徒として扱われているリナだが、さすがに僕が近くにいるとそういうわけにもいかないのか、僕が椅子に座ると、その隣で立っている。
出来れば座ってほしいのだが。
「いや、少し事情があってね」
「なるほど、ご主人様のお考えがあったのですね。大変失礼いたしました」
「あ、うん。それより、座ってよ。せっかく食べ物も持ってきたんだし」
今回の昼食は、カレー。に似た何か。
においも味もカレーなのに、名前が違うという謎の食べ物。
ちなみに、名前はカルェー。カレーで良いじゃん。
これはもしかして、シャルがヒジリに勝つパターン来た...?
なんだか、最近は本当にあついですね。
熱中症にならないように、しっかりと水分補給もしていきたいと...あれ、なんだか前にもこんなこと後書きに打った記憶...




