20 教えて、ヒジリせんせーい!
少し間抜けなチャイムが鳴る。
なんだ、このチャイム。というか、スピーカーも何も無いのにこんなに音が綺麗に聞こえるのか。
魔法ってすごい。
「ちなみに、このチャイムは」
「授業開始5分前ね」
「...急がないと!」
僕は慌ててヒジリの腕を掴みながら、部屋を飛び出す。
どっちに行けば教室だったかはもう忘れてしまったが、感応スキルの出番だ。
サンバールを探す。
「どこだ...いた!」
見つけたサンバールは、僕が走っている方向とは真逆だった。
なんてこったちくしょう。
「こっちか」
「あら、気づいちゃった」
「間違って走ってたの気づいてたの!?」
「何も言わない方が面白いかと思って」
「何を言っとんの本当に!」
ヒジリは楽しそうに手を引かれ走る。
うん、ヒジリはあまり信用出来ないな。僕をからかう傾向がある。
教えて貰ったことで不安なことがあったら、リナにでも確認しに行こう。
「つ、ついた!」
「あら、時間も間に合っちゃったわね」
「間に合わなかったら困る」
とりあえず、扉を開いて中に入る。
すると、中にいる生徒全員が一斉にこちらを見た。
...なんだ?
生徒達はひそひそと喋り出した。
「今までどこにいってたんだ?」「おい、顔が赤くないか?」「後ろにヒジリ...まさか!」「ゆるさんぞ!」「うらやましい!」
「...は?」
「要するに、みんなあなたのことを心配してたのよ」
「なるほど」
心配する理由はいまいちピンと来ないが、まあ心配かけたのなら謝らなければ。
僕はみんなの前に出て、上半身を前に倒す。
「えっと、ごめんなさい。僕が迷惑をかけてしまったようで...」
すると、生徒全員はなぜか、逆に謝ってきた。
その中で、リースが気まずそうにこちらを見ている。
なるほど、告白して、半ばフラれたことになっているようなものだし、気まずいよな。
ここは、僕が一言言ってやるべきだ。
僕は意を決すると、歩いてリースのそばまで行く。
「あの、リースさん」
「な、なんスか?」
「えっと、気にしないでください。私も気にしてませんから」
「.......」
よし、これで解決だな。
しかし、リースは呆気にとられたような顔でこちらを見つめてくる。
その顔をしたいのこっちなのだが。
解決したと思ったら疑問が1つ増えたのだ。最悪だ。
そんなことを考えていると、リースは泣き出してしまった。
え、なんで?
「えっと、なんで泣いてるんですか?」
「いや、なんでもないんだ。うん、本当に…」
そうは言われても、リースの泣き方がすごいガチの泣き方だし、目にゴミがとかでごまかせるレベルじゃない。
はて、僕が何をしただろうか。
「アイラちゃん、鬼ですねえ」
「なにがさ...」
ヒジリの鬼認定されたが、そんなものはまったく嬉しくない。
せめて戦闘で認定されるならわかる。だが、日常生活で鬼認定はつらすぎる。
つらいむ。
「おいお前ら、1回席につけ」
サンバールがそう言うと、全員が一斉に静かになり、座り出す。
さすが教官、この中では1番強いんだな。
いや、ヒジリがニコニコしながらこっちに手を振っている。
あれは先生をなめとるな。
後で言ってやる。
「さて、改めてお前らに言うことは1つだけだ...わかってるな?」
わかりません。
というか、今更僕だけ座っていないことに気づき、慌ててヒジリの隣に座る。
「何の話?」
「あなたは知りませんでしたわね」
ヒジリに聞いたのに、その奥にいたシャルさんから返事が帰ってきた。
まあいいか。答えてくれるなら誰でもいい。
「この学院での頂上を決めるのですわ」
「はえー」
最強決定戦かな。
しかし、僕はあまり出たくないな。
力加減を間違えて殺しちゃっても困るし。
「前回はヒジリが優勝しましたのよ」
「えへへ」
「そうなの!?」
ヒジリ、このクラスの中でじゃなくて、この学院の中で1番強かったのか。
恐るべし、ヒジリ。
「だけど、前回優勝者は決勝シードなのよねぇ」
「ああ、そうなんだ」
それはまあ、良いのか悪いのかよくわからないが、決勝まで上がってこれる実力があるのに、早いうちにヒジリと当たっても可哀想だとは思う。
僕と当たっても、負ける気は無いから可哀想だと思うけど。
「残念だわあ」
「ああ、さいですか」
やりたいんかい。戦闘狂かな。
「次こそ、私が優勝致しますわ」
「ふふ、負けないわよ」
早くも、シャルさんはヒジリと火花を散らしている。
まあ、それはいいんだけど、その前に僕とあたってもしらないぞ。
「それはともかく」
「なんです?」
「アイラさん、私も敬語は無しにして欲しいのですけれど」
「あー、うん。わかった」
「よろしい」
まあ、友達なのに敬語で話すのも変だしね。こっちの方がいいよね。
「あー、アイラ。後で俺のところに来てくれ」
「あ、はい」
また何かあったんだろうか。
思い当たるのは、サリナたちについて。
ヒジリがどれだけの強さなのかはしらないが、僕とほぼ同年代の子どもたちがそんなに強いとも思えない。
あの3人は優勝はどうかわからないが、いいところまで行くだろう。
まあ、問題を起こしたとしたらユサなんだろうけど。
『かいちょーさんって強いの?』
『そうね、そこそこ強いわよ』
『ならやろう!』
みたいなね。
「アイラちゃん、何かしたの?」
「ちゃん!? ちゃんって呼んでいるんですの!?」
「あー、身に覚えはないんだけどね」
とはいえ、身に覚えがないのは本当のことだ。
アニメじゃない。
「まあ、多少の怪我なら俺たち教師がなんとか出来るから、お前らはいつも通り全力でやってくれ」
そう言うと、サンバールは教室から出ていった。
少しの間が空いた後、教室は一斉にうるさくなった。
「よし、俺が優勝するぜ!」とか、「前回は油断しただけだ」とか、「俺の封印されし力が...」とか言っている奴がいる。
うん、最後のやつは病院に行くべきだ。
「それで、アイラは呼ばれていたんではなかったんですの?」
「あ、忘れてた」
サンバール先生に呼ばれていたことをすっかり忘れていた。
慌てて立ち上がり、教室を出る。
辺りを見渡すが、既に先生の姿はない。
また使うとするか。感応スキル。
何度か使っているが、感応スキルは、魔力の感じで誰かを感じ分けるスキルだ。
これはレベルとかは無いので、上手くなっているかどうかは目に見えてわかるわけではない。
これに類似した空間スキルというものもあるが、こちらはマップのようなものが主になってしまうし、誰かがいるのはわかるが、それが誰なのかの確証はあまり持てなかったりする。
範囲としての差はない。
「あの、サンバール先生」
「ん、ああ。アイラか」
サンバール先生の場所を見つけ、走ると、そこにはサンバール先生とルノウ会長もいた。
会長と先生は何か相談事かな?
「あら、アイラさん」
「こんにちは、ルノウ会長」
しかし、何を話していたんだろうか。気になる。
ルノウ会長少し考える様子を見せた後、サンバール先生に「またね」と言いながら歩いていってしまった。
サンバール先生はそれを見送り、僕に向き直る。
「呼び出して悪かったな」
「いえ、別に。それでなんですか?」
「ああ、お前の実力についてなんだが」
サンバールは、なぜかそこまで言うと口ごもってしまう。何か言い出しずらいのだろうか。
「大丈夫です、僕のことは気にしないで言ってみてください」
「ああ、ありがとう。今回の大会なんだが、決勝戦の後、ヒジリと戦ってほしいんだ。全力で」
「...つまり、大会には出ず、そこで戦ってくれということですね」
「ああ、本当に申し訳ないんだが...」
別に僕はなんでもいいんだが、サンバール先生のこんな弱気なのは初めて見た。
これで、場を温める事件も水に流してあげるとしよう。
考えていた報復は、禿げちゃう魔法。
しかし、それも不要になってしまったか。いずれ誰かに使うとしよう。
「いえ、平気です。それって、黙ってた方が良かったりします?」
「...まあ、サプライズがいいならそうするが」
「それじゃあ、その方向で」
しかし、どうやって大会に出ないことをごまかそう。
ヒジリに迫られたらつい言ってしまいそうだ。
自分で言っておいてそれかと思うが、しょうがない。僕だって1人の人間だ。
「いや、助かった。それじゃあ、また明日だな」
「はい、先生」
サンバール先生は、気が楽になったのか、少しリラックスした顔で歩いていった。
「しかしまあ...どうしたもんかね」
少し訓練が必要だ。手加減の。
僕は1度部屋に戻ることにし、作戦を練ることに。
部屋の扉を開けると、まだヒジリは帰ってきていないようだった。
ここからは僕の推測でしか無いが、僕とヒジリエキシビションマッチは、僕の実力をみるためだと思う。
教師ですらヒジリに勝てないのは、サンバール先生が喋っている時でも笑顔でこっちに手を振ることからなんとなくわかる。
だが、やはりわからないのは、実力だ。
どこまでできるのか知っておきたい。
「たっだいまー。アイラちゃん、早かったね」
ヒジリが扉を開けて入ってくる。
その顔は幸せそうだ。
幸い、僕とヒジリは同じルームメイトだ。
それとなく聞き出すことができるはずだ。
「ね、ヒジリ」
「んー?」
「ヒジリってさ、どれくらい強いの?」
「んー、そうね」
ヒジリは少し考える素振りを見せ、僕に笑顔で言う。
「この国を炎で包み込むぐらいなら朝飯前よ?」
「さいですか...」
やばい。僕でもまだ炎で包むことはまだ難しい。
いや、そりゃ魔法を知らないからなんだけど。
...いかん、早めに魔法を教えてもらわないと。
「まあ、それはいいや。早速なんだけど、教えて貰っていい?」
「私に教えられることならねー」
というわけで、ヒジリ先生に教えて貰ったことをまとめるとしよう。
「魔法って?」
「魔法っていうのは、基本は5つの属性でなりたっているわ。
神話とかに出てくる魔法は超越魔法っていうのもあるんだけど、それは今は関係なし。
5つの属性はそれぞれ、火、水、雷、木、土よ。これが基本の魔法」
なるほど、相性とかあるのかな。
「相性は?」
「火と水と木は三すくみの関係。言わなくてもイメージはできるわね。残りの2つは、お互いがお互いを打ち消し合うから、魔法戦ではあまり使われないわね。
ただ、不意打ちには雷属性は有効ね」
使ったことがあるんですか。
そんなことを思ってたら、ヒジリは不敵に笑った。
「ふふ、実際に使ったことはないから、安心していいよ?」
信用出来ない。
...気を取り直して、続きを聞こう。
「属性が分かれているといっても、ただそれだけよ。
『ファイア』『ファイアウォール』『ファイアボール』『ファイアストーン』『ファイアバースト』『ファイアブレイク』今言った順に威力が強くなっていくわ。
属性を変えるには、『ファイア』の部分を『ウォーター』『ウッド』『サンダー』『サンド』に変えるだけよ」
「ははー」
難しい。
つまりなんだ?
パンチはパンチでも、ファイアパンチかサンダーパンチかみたいな違いか。
よくわからん。
「ちなみに、属性が火に限り、『ブラストバーン』があるわ。威力は最上級ね。
そして、土魔法に限り、『ウォール』はただの『ウォール』に。『ストーン』も同じくただの『ストーン』になるわ」
土属性で作ると、意味が二重するってことだろうか。
まあ、なんでもいいんだけども。
「そして、これらの5つの属性からなりたつ基本の魔法の他にもいろいろあるんだけど、聞く?」
「あー、はい。一応」
「おっけぃ」
以前、僕が魔法を使おうとした時、『アイシクルブレイク』なるものを使ったのだが、それは一体なんだったのだろうか。
魔法を使おうとしたら、勝手に呪文名が浮かんでくる。
だけど、もうそれは起きない。これは一体何なのか。
先にこっちを解決したい。
「ねえ、ヒジリ。『アイシクルブレイク』って聞いたことある?」
「うーん、私はないなぁ。もしかしたら、会長が知ってるかも。それがどうかしたの?」
「いや、聞いてみただけ」
「そう?」
あまり自分から変なことを言うとボロを出してしまう。
僕も学習するのだ。
ほら、もうヒジリが怪しんで、こっちの顔を覗き込んでいる。
やめて、そんなに僕を見ないで。顔に穴が空いちゃう。
「ま、いいか」
「...」
ヒジリは興味を無くしたかのように、自分が持っているノートに視線を落とす。
助かった、のか?
まあそれはいい。まだ教えてもらってないことがあるなら教えてもらわないと。
「あとの魔法は、契約魔法と、回復魔法、強化魔法が主に使われてるわ
「強化魔法?」
契約魔法は、前にリナたちの件で知ったし、回復魔法に至っては『オールヒーリング』なる魔法を創造した。
しかし、強化魔法は聞いたことがない。
もしかしたら見たことはあるかもしれないので、見たこともないとは言わない。
「ええ。自分の能力を強化するの。全部で5つあるから、それも魔法が5つあるわ」
「はえー」
全部をいっぺんに強化できる魔法があればいいのに。
そしたら、複数かけたい時とか、時間の短縮になるだろうし。
「それはもっともだし、それを実行した人がいたわ。でも、自分にその魔法をかけた途端、自分の体が耐えきれないのと、過剰な魔力消費で死んだわ」
「...マジ?」
「マジよ。だけど、私はそのうちしようと思うわ。どうやら、そこら辺の人よりは強いみたいだし」
しかしまあ、なるほど。
既存の強化魔法(同時全種類)はあまり信用出来ないな。
一応調べて、僕が創造スキルでちゃんとしたのを作成。何が違うのか比べてみよう。
まあ、比べてわかったところで、発表も何もしないけど、友達のヒジリがやるって言ってるんだ。
危険性は調べておきたい。
「でも、こんなことも知らないでここに来たの?」
「はは、まあ」
「よく来れたわね」
ヒジリはそう言いながら、ベッドに身を投げる。
なんか、呆れられたって感じかな。
まあそりゃそうだ。僕もそう思う。
魔法を知らずに生きるなんてこと、よほどの僻地にいなきゃできないんだろうし。
それに、魔法を使わないでここまで来たということは、それ以外の腕に自信があるということにもなる。
まあ、僕自身の力だったらもう死んでるようなレベルではあるんだけど。
「それより、晩御飯にして、もう今日は寝ない?」
「確かに、僕もお腹がすいたかな」
時間はもう夜の7時すぎ。
勉強って、集中してたら時間があっという間に過ぎちゃうんだよね。
特に、自分に興味がある分野は。
現代では、科学が好きだったかな。
学食に移動し、今回頼むのはオムライス。
うん、うまい。
「料理人を雇ってるの?」
「いや、普通のおばちゃん達だよ。ここで長年料理してる間に、上達してプロ並みになっちゃったみたい」
「ふーん」
まあ、何十年もその仕事をやってたらそうなるか。
僕も...いや、僕は料理を習わなくても出来ちゃうから怒られそうだ。
料理をなめてんのかー、ってね。
というか、料理スキルってあるんだろうか。
「それじゃ、部屋に戻ろうか」
「そだねー」
食器を戻し、おばちゃんに感謝を伝える。
そして、部屋に戻り、シャワーで汚れをあ落とし、寝る。
睡眠したら、勉強したことを覚えるって言うし、しっかり寝ないと。
明日は何時起きだ?
「明日って...」
「7時起きだよー」
「なるほど」
ベッドの上で、寝返りをうつ。
今日は、少し衝撃的なことが多かった。
明日は、リナたちの様子を見に行くことにしよう...。
なんとか今日中にあげることができました。
この調子で行くと、一気に100まで行っちゃいそうですね
100まで行くと学校編は多分終わってるんですけどね。




