19 「ねえお願いがあるんだけど」「等価交換」
学食でエビピラフに堪能した僕は、ヒジリと2人で会長の部屋の前まで来ていた。
用件は、部屋のこと。
しかし、僕はまだしも、ヒジリはいいのだろうか。既にいるルームメイトはどうなるのだろう。
追い出されるのだろうか。
「あの、ヒジリ」
「なんですか?」
「ヒジリのルームメイトって」
「...ああ、私のルームメイトはいませんので」
なるほど。寂しいのかな。
そんなヒジリは僕が慰めてあげよう。
よすよす。
「あら、ありがとうございます。しかし、まだルームメイトになれると決まったわけではありません」
「そうなんですよね」
そう、最大の関門であろうルノウ会長だ。
最悪実力行使だ。この学校は実力主義なら、多少のワガママは力技で解決できるはず。
あれ、このルールってかなり僕にしっくりきてる?
「それじゃあ、行きましょう」
「あ、はい」
考え事をしていたら、ヒジリに先を越されてしまった。
いや、先もクソもないのだが。
ドアを2回ノックし入る。
「「失礼します」」
2人で仲良く入室。
奥の机には誰も座っている気配はない。はて、外出中だろうか。
確かに、今は昼時だ。会長も人間だし、昼ごはんを食べに行ったのかもしれない。
そう思い、ヒジリを見ると同じようなことを考えていそうな顔でこちらを見ていた。
「ルノウ会長はお昼かもしれませんね」
「そうですね」
僕が聞いてみると、ヒジリはそれに賛同してきた。やはり、同じだったようだ。
何となく嬉しい。
「それじゃあ、また後で来ましょう」
「別に今でいいわよ」
「か、会長!?」
方向転換し、ドアを目指そうとしたら、そこには会長がいた。
これで驚かない方がすごいと思う。
「それで、私に何か用ですか?」
「あ、僕ヒジリさんのルームメイトになっていいですか」
「ええ、いいわよ」
なんとなく軽く聞いてみたら、軽く了承を得てしまった。
なんだ、この、ラスボスの前にレベリングしすぎて肝心のラスボスが雑魚に思えてしまうのに似てる感情は。
というか、まさしくそれだ。
「別に、私はあなた達のことを監禁しているわけではないのよ?」
「はは、そうですよね」
そりゃそうだ。会長だって人間だろう。
何を言っているのだろうか、この人は。
会長はいつものように、紅茶をティーカップの注ぐ。
出てくる紅茶は、先程沸かしたわけではないはずなのに、湯気が立っていた。謎である。
今の僕には、魔法ってすごいなぁ、が関の山だ。
「だけど、私より大変な子がいるわよ?」
「えっと...誰だろう?」
「思いつかないなら、それはそれで幸せかもしれないわね」
なんだか、会長までサンバール先生同じようなことを言い出した。
はて、僕は何かを見落としている?
しかし、考えてもわからない。
能力オールSのくせして、思考力はもとのままってか。
ランク分けしたら、僕の思考力はCぐらいだ。多分。
「それじゃあ、僕達はこれで」
「ええ。またいらっしゃい」
会長の友達のような喋り方でわからなくなってしまうが、一応、会長なんだもんな。えらいんだよな。
「しかし、思ったよりうまくいきましたね」
「そうですねー。それじゃあ、私の部屋にご案内いたしましょう」
ヒジリはウキウキステップで歩き出す。が、僕にはその前にやらなければいけないことがある。
リナたちだ。特にリナ。
リナは僕が何も言わずに帰ってこないとこの学校を破壊しながら探しそうだ。
「あの、僕は少し話をする相手がいるので少し待っていてもらってもいいですか?」
「もちろんです」
ヒジリは優しく了承してくれた。この世界には基本的に優しい人が多い。
そんな気がする。
さて、ヒジリに了承を得たとはいえ、あまり待たせるのもいかんだろう。
自室の扉を開き、中に人がいるかを確認する。
すると、リナがいた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「うん、ただいま」
かくかくしかじか。
事情を説明したあとのリナの雰囲気は、僕についてくると言い出しそうだったが、それは思いとどまってくれたようで。
「わかりました。ご主人様が決めたことなら、私は反対しません」
「そっか。ありがとう」
しかし、サリナとユサのことも心配なので、ちゃんと面倒を見ておくように言っておく。
あの2人は放っておくと、片方はずっと寝てそうだ、もう片方はずっと鍛錬してそうだ。
「ご主人様の代わりと思ってお世話させていただきます」
「うん、よろしく」
これであの2人のことは安心だ。しかし、リナも働きすぎは良くないので、1週間に1回は休みの日を取ることを命じた。
命じないと、リナはやってくれないのだ。
別に、僕の言うことを聞いてくれないというわけではない。
リナが僕のことを、自分の身を犠牲にしてでもお世話しようとするから、こちらが止めるしかないのだ。
「あ、終わりましたか」
「はい。お待たせして申し訳ないです」
「いいんですよ。それで、荷物とかは…」
「ああ、後で運んでもらうんで大丈夫です」
アイテムヴォーックスがあるし。
必要なものは創造スキルで作ればいいことも学んだ。
僕に死角は無い。
「それでは、行きましょうか」
「そうですね」
今は現代でいえば昼休みになるのだろうか。
昼休みと言えば、小学校の時は校庭に出てサッカーだった。懐かしい。
そんなことを考えながらヒジリの後ろを歩くが、壁は未だに白いままだ。
というか、寮は校内にあるのか?
まあ、広いって言ってたし、あるかもしれないが。
「見てください、アイラちゃん」
「あ、呼び方ちゃんに戻したんですね」
「ええ。こっちの方が可愛いかと思って」
可愛さは求めてないんだが。まあいいや。好きなように呼んでほしい。
ヒジリが見てくれといった先には、人が5人分は入れるような横の幅で、奥行もそれぐらい。高さは2mと言ったところの謎のスペースだった。
「これは?」
「エレベーターです!」
はえー、エレベーター。
現代の科学の結晶だが、これは科学で動くんだろうか。
見た目が全然違うんだが。
「昔ここに学院を建てた人が、これを建設したようです。残っている文献にエレベーターと表記されていたので、名前はわかりますが、魔力を通すような場所もありませんし、ただの置物ですね。
たまに、研究者が来ますよ」
「あー、そうなんですか」
魔力を通せない。ということは、電気で動く可能性が高い。
昔の人は現代人だったのだろうか。
しかし、僕が無理に電気を通すわけにはいかない。もし加減を間違えると、普通にぶっ壊す可能性がある。
「まあ、そのうちわかるかもしれませんね」
「私もこれが動いてるのを見てみたいんですけどね」
「私も見たいわね」
「あれ、ルノウ会長」
いつの間に。というか、この話聞いてたのか。
別に聞かれたら困るような内容じゃないからいいけどさ。
ルノウ会長は、髪をかきあげてながら言う。
「だけど、これはそのうち撤廃することが決まっているから、動くよりも無くなるほうが先かもしれないわね」
「そ、そうなんですか」
なんとか無くなる前に動かそう。
じゃないとエレベーターも作った人も可哀想だ。
「それじゃ、また後でね」
「はい、会長」
ルノウ会長は凛々しく、この場から去っていく。
しかし、神出鬼没なので、ルノウ会長に関することは部屋で話そうと思う。
「というか、アイラちゃんは会長とは仲がいいんですね」
「そ、そうかな」
仲がいいように見えてしまったか。それはなんとも。
しかし、嬉しいものだな。会長エンドあるかもしれない。
「会長は優しい人ですからね」
「ふーん、そうなんだ」
...あれ、なんか、ヒジリが不機嫌だぞ。
私が何かしただろうか。
「あの、ヒジリ?」
「なんですか?」
「なんか、怒ってます?」
「ふーんだ、怒ってませんよー」
「怒ってるじゃないですか」
「怒ってませんよーだ」
いかん、何か僕の知らないうちに怒らせてしまったようだ。
せっかくできた初めての友達。こんな序盤で失うわけにはいかないぞ。
まだ何もイベントとか起きてないし。
「あの、ヒジリ」
「なんですかー」
「...いや、やっぱりなんでもないです」
ダメだー!
ヘタレだ僕は!
しかし、改めて考えると何を言ったらいいのかまだ決まってなかったな。
ふむ、そう考えるとヘタレじゃなかったかもしれない。
さすが僕。
「まあいいです。部屋に向かいましょ」
「あ、はい。でもいいんですか?」
「何がですか?」
「授業ですよ」
「ああ、今は昼休みですからね。この学院は昼休みも特訓に当てるために昼休みも少し長くなっているのです」
「なるほど」
「時間にして1時間です」
「なが」
「ここが私の、いえ、私たちの部屋です」
「おじゃましまーす」
ヒジリが開けるドアは緑で、いい目印になりそうだ。相変わらず廊下の壁は白かったが。
中に入ると、手前と奥に机が1つずつ、ベッドは大きめのベッドが1つだ。
シャワールームやトイレもついている。
大部分はサリナたちとの部屋と変わらないかもしれない。
「アイラちゃんは奥の机を使ってください」
「わかりました」
机は現代の勉強机とさほど変わらない作りだ。なかなか丁寧に作られている。
まあ、頑丈に丁寧に作らないと、ここの生徒はすぐに壊してしまいそうだが。
いや、偏見か(n回目)。
「よいしょっと」
「ヒジリ、何をしているんですか」
見ればヒジリは、自身の机を持ち上げ、こちらに移動させようとしているところだった。
まあ、多少動かすくらいならいいんだろうけど、なんのために動かしているのか気になる。
「何って、机をくっつけようとしてるんです。嫌でしたか?」
「あ、いや、嫌じゃないですけど」
「なら良かったです!」
すると、ヒジリはとても嬉しそうに机を合わせた。
まあ、なんかヒジリも楽しそうだしいいか。別に僕は気にしないし。
それに、勉強を教えてもらいやすくなる。
そういえば、どうやって頼むんだろう。
「あ、あのさ、ヒジリ」
「なんですか?」
しかしまあ、ヒジリは可愛い顔をしているなあ。まるで小動物。
しかし、どこか包容力を感じさせる。矛盾した生物、ヒジリか。
いや、何を考えているんだ僕は。
「あの、私に何か?」
「ええっと…」
ええい、ここは勢いでいくぞ。
いいか、僕とヒジリはもう既に友達。なら、もっと気軽に行くんだよ!
「えっと、勉強を教えてくれたらなあ、なんて」
「もちろんです!」
「あ、ありがとう」
頼み事を言うと、ヒジリは食い気味に了承してくれた。
いやはや、持つべきは友かな。
「それでは、私からもお願いが」
「お願い?」
ヒジリからのお願いはもう聞いたはずだが。
それとは別のお願いということか。まあ、持ちつ持たれつ的な関係かな。
「敬語やめましょう」
「敬語をやめる?」
「はい。私もやめますので」
なるほど。更に友達っぽいな。
というか、こんな簡単に友達が作れるなら、現代であんな寂しい思いはしなくて済んだのかもしれない。
「なるほど、わかりました」
「ほら、敬語」
「うっ」
つい無意識で言ってしまうのか、敬語っていうのは。
これは、しばらく苦労しそうだぞ。
「わ、わかった。ヒジリ」
「うんうん、よろしい!」
しかしまあ、また無意識に出ている可能性もあるから、それは見逃してもらおう。
「それじゃあ、早速、教えてほしいことがあるんだけど」
「あら、勉強熱心なのね」
いきなりで嫌がるかもしれないと思ったが、すぐに了承してくれた。
ヒジリは椅子に座り、僕にも着席を促す。
「ありがとね」
「いえいえ、友達の頼みですもの」
そういうヒジリは、本当に嬉しそうだ。
そんなに寂しかったのか。改めてそう思ってしまうな。
「でも、何を聞きたいの?」
「えっと、すごい初歩的なこと」
こうして、僕はなんとか当初の目的を果たそうとしていた。
セリフとセリフの間って開けた方が見やすいんですかね




