0-2 やはり詰んでる
「あてっ」
かなりの時間落ちていたはずなのだが、それを介せず、30cm程の高さから落ちたような痛みが背中を襲う。
青空を背景に、何も無い空間にぽっかり空いた大人1人通れる大きさの穴。
「……」
その穴は、瞬きした時にはもう無かった。
恐らく僕が通った穴だろう。
「いや消えんの早。……まずは情報収集かな……」
こっちでの戸籍が無い以上、新しい名前と、稼ぎ場、そして宿を見つけなくては。
そして、自分が女の子だということを忘れずに。
「というか、自分がどのくらい可愛いかわからないじゃないか」
いくら女神公認のチート能力を持っていると言っても、鏡を生み出せるわけでもあるまい。
しかし、ダメ元で言ってみる。
「鏡よ、いでよ」
……はい、ダメ。
まず魔法を使うにはそれなりの詠唱が必要だろう。
というか、その方がかっこいい。
例え詠唱せず使えたとしても、僕は必ず詠唱する方を取るだろう。
その方がかっこいい。
そう、見た目重視。
「んで、ここは……」
辺りを見渡せば、今僕が寝っ転がっているところは、一本道だと言うことがわかる。
見にくいから立とう。
「どっこいしょ……いや、そんな年じゃねぇってな」
女の子として生まれ変わったからには、僕としても譲れないことがある。
……まぁそんなことは後回しだ。
譲らなければ死活問題なのである。
もう一度見渡すと、ここは草原と草原に挟まれた土の一本道、特に横に柵はなく、どこまでも一本道だ。
見たところ、前にも後ろにも何も無いが。
「さて、どっちに行くかだよなぁ……」
ここで棒でもあれば倒れた方向に進む方法が使えるのだが、仕方あるまい、ここは己の運任せだ。
「働け僕のチート」
多分だが、チートは運にも影響しているだろう。
運だけは最悪ですなんてことあったら訴えてやる。
「うーん、こっち!」
結果的に、空間の穴があった方を向いて、左の道を進むことに。
決してクラピカ理論ではなく、僕の運が、直感がそう言っているのだ。
「うーん、さすがに暇だなぁ……あ、そうだ」
いいことを思いついた。
チートということは、基礎能力がチートなのだろう。
つまり、全力で走れば、一瞬で街まで着くんじゃなかろうか。
「そうと決まれば……」
思い立ったが吉日。
クラウチングスタートで駆け出した僕は、ものの数秒で街を見つけた。
後に化け物の道と名物になる足跡が出来たことは当の本人のあずかり知らぬ所である。
「よし!到着!」
かなりでかい城壁に、でかい門。
しかし門が木製なのはこれいかに……。
いや、木で出来てなかったらイメージ総崩れなのだが、燃やされたら、とか考えずにはいられない。
「身分証明書を出せ」
そう言ったのは、いかにも腕っ節が強そうな大の男の2人組。
2人とも同じような声してるなぁ……じゃない!
「身分証明書……?」
第1の壁、出現。
身分証明書を出せ!
詰んだ。
どうしようもない、詰んだ。
なんだよ身分証明書って。
この世界に来て数分だぞあるわけがない。
「あの……なくしちゃったみたいで……」
誤魔化そう。
それしかない。
こういう世界って大体モンスターとか出て、よくなくすひとが多いはず。
「そうか、なら新しく作ろう。」
はい来たチョローイ!
まぁ僕にかかればこんなも「では、3ミルだ。」は?
なんだ、ミルって?
モーって泣くやつから出るのか?
「どうした?金も無いのか?」
「そ、そうなんです、実は、全部入ったカバンが盗られてしまって……」
この状況を切り抜けるきっかけをわざわざ与えるとは、馬鹿なヤツめ!
こいつは長生きしないな。うん。
「それじゃあ、3ミル分の働きをしてもらおう。それが終了次第、身分証明書を発行しよう。」
まじかぁ……。
ぬぅ……。
「おい、新入り、手が止まってるぞ!」
「す、すいません!」
3ミルって円に直したらどれくらいなんだろう。
そのまま3円とかだったら殺す。
とはいえ、何も考えずに働いてるわけじゃない。
1つは、身分証明書が発行されるということは、この世界はほぼ1つの国で統一されている可能性が高い。
もしくは、ある程度大きな国か。
そして2つ目、食については心配することはなさそうだ。
この仕事を初めて数十分で、昼食が運ばれてきた。
なるほど、昼時か。
異世界でよくある奴隷みたいなのも見たところいないみたいだし、住民同士の会話も弾んでいる。
ここは平和そうだ。
他のところにもよるが、住むならこんな街がいい。
と、軽く汗を流したところで後から声をかけられた。
「さて、そろそろ時間だな。お疲れ様。」
先程のマッチョ門番(仮)がそう言って、3枚の銀貨を手渡す。
これ1枚で1ミルってことか。
「こいつは俺からの餞別だ。まぁ、何かの縁で会ったら、1杯奢ってくれや」
マッチョ、良い奴。
とはいえ、豪快に笑い飛ばすその背を見つめながら僕は思う。
また会う時には多分忘れている。
さて、その身分証明書はどこで貰うのだろうか。
僕がふらふらと歩いていると、右から声をかけられた。
「お、来たな嬢ちゃん」
頭にハット帽を被った白ひげのおじいさん。
見た目から優しそうな感じが伝わってくる。
この人が身分証明書を作ってくれるんだろうか。
「あいつから話は聞いた。身分証明書を作るんだってな。わしに任せな」
大正解。
そのおじさんは、「こっちだ」、と先程出てきたのであろう部屋を指さした。
中は少しかび臭いが、かなりの年季を思わせる木製の建物だ。
少し狭いが……というか狭い。
「さて、手を出しな。そして、このカードに手のひらを重ねるんだ」
おじさんはそう言うと、真っ白なカードを机に置いた。
ふむ、これに手を置くと。
……これ能力とかそのまま出たらチートが公開されて私のハーレム人生が限られてしまうのでは……。
「……っ」
恐る恐る手のひらを翳すと、青白い光が出始める。
その光が収まった頃、僕は素早くカードを手に取り、おじさんに礼を言って飛び出す。
こんなところで躓くわけにはいかない。
「誰もいないな。……よし、カードを……」
人気のない路地裏、僕はひっそりとカードを見る。
名前はアイラ。歳は15。
筋力 S+
魔力 S+
知力 S+
俊敏力 S+
判断力 S+
……僕はそっと、カードを見るのをやめた。
したの方にも色々書いており、アビリティ、所謂特殊能力も書いてあったが、そんなもの見る気も起きない。
カードの裏にまでびっしり書いてある能力なんて、能力の内容なんて書いてある気がしない。
まぁ宿をとったらじっくり見て、推察して実験するとしよう。
しかし、好都合なのが2つある。
1つは年齢が15だということ。
この世界がどうかはわからないが、学校に行ける可能性が充分高い。
しかし、入ろうにも、お金がなければ拠点とする家もない。
その点で言えばやはり地味に詰んでいるのだが。
2つ目は、言語の共通化だ。
神様が計らったのかは不明だが、見たことのない文字でもそれに重なって日本語訳が現れる。
言葉も、口と聞こえてくる言葉はズレが見られるが、まぁ許容範囲だ。
「まぁ嘆いてたってしょうがない、適当にこの街をぶらついて働ける場所探そう。うん、そうしよう」
こうして、当てのない2度目の人生が始まった。
遅くても1週間更新を目安に。




