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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第1章
27/79

16 ボロが出る兆候なんじゃね、これ?

☆☆☆☆☆同士の間は、人称視点が変わります。


今回は教授こと、試験監督のグレゴリウスですね

サイへ出発してから1ヶ月が経った。

当初の予定より遅いのは、まあいろいろあったからなのだが、そのいろいろは忘れないうちに日記にでも書こうと思う。

かなり面白かったから。


「あれが、サイか……」

「みたいだね。シドも初めてなんだよね?」

「ああ。というか、俺は地元を出てから初めての国だ」


ふむ。

そういえば、シドの地元のことを聞いてなかったが……まぁよしとしよう。

多分、もう聞くことも無いだろう。

同じ国、同じ学校が目的地だとしても、別にそこでも話したりするわけじゃない。

恋してるわけじゃないしな。






「ご主人様、あちらが」

「アズリレウス学院、だね」


まるで、ホ〇ワーツを思わせるような巨大な校舎。

中からは声、というより何かが爆発しているような音が聞こえてくる。何故爆発音が聞こえてくるのかは、なんとなく予想がつく。

馬車は邪魔になるので売っぱらっておいた。


「あの、ご主人様、入学手続きはどこでするのでしょうか」

「あー……そういえばそんなのがあるんだっけ」


この世界の学校にも、元の世界と同じように、入学時期とズレて入ろうとするなら正式な手続きが必要になる。

その手続きは、名前と性別、年齢を書いたらとりあえずはクリア。

そしてテストを受け、合否を測る。

テスト内容は、教官との1on1。

いや、バスケじゃないけど。

能力ステータスはその後のテストで測るようだ。


だが、それはこの学校に乗り込んでいけば出来るという訳では無い。

らしい。


「あぁ?学校に入りたいだぁ?」

「ええ、まあ」


しょうがないのでギルドに向かい、一番近くにいた男に聞いた。

急ぎに急いだので、街並みとかはまだ見ていない。


「ギルドで手続きすんだぜ、お嬢さん」

「あ、どうも」


聞いた男とは別の、隣にいた男が教えてくれた。

容姿とかは興味が無いので、特に気にしない。

鎧が金色なのがイライラするな。


しかし、ギルドで手続きか。

ギルド嬢に言えばいいのかな?


「ようこそ、サイギルドへ!本日はどのようなご用件ですか?」

「んと、学校へ入るための手続きをしたいんですけど」

「なるほど、少々お待ちください」


そう言ったギルド嬢が奥に行き、戻ってきた時には紙の束を手にしていた。

あれが、書くやつかな?


「改めまして、私、受付担当のギルド嬢、ティルザです。よろしくお願いしますね!」

「あ、どうも」

「それではまずは、あなた達をこのギルドに登録したいので、ギルドカードを提出してください」

「これ、4人分です」

「これは俺のだ」


ポケットから、僕、サリナ、リナ、ユサの4枚を取り出すと、後ろからシドがカードを出す。

お前、いたのか……。

そのついでに、シドの能力ステータスを覗き見……


「はい、5人分ですね」


しようとしたら、ティルザさんに回収されてしまった。

残念。


というか、ティルザさん背が小さくないか?

身長は約120……耳が長い、エルフか。

エルフって長身なイメージだけど、この世界では違うんだろうか。

綺麗な緑の髪が特徴的だな。


「はい、登録完了です。後は、こちらの書類に必要事項をお書き下さい」

「ふむ?」


渡された紙は、1人1枚ずつ。

内容は、名前、性別、身長、体重。

後は、入学したい理由。


僕やシドはともかく、後の3人はそんな理由なんてないぞ……。


「なるほど、お任せ下さい」

「リナは文字がかけるんだっけ」

「はい。ですので、ご主人様はご主人様の分をお願い致します」

「おっけー」


名前はアイラ、性別はおと……じゃない、女。

年齢は書くとこないや。身長は148。

体重は43キロ。多分。


入学理由は、学びたいことが沢山あるから、と。


「ご主人様、書き終わりました」

「うん、はやいね」


僕が自分のことを書き終わりまでに3人分書いたのか。さすがリナ。早すぎる。

でも、全員分チェックはしないと。


「こちらが私たち3人分です」

「うん、ありがとう」


さて、プライベートな項目はすっ飛ばして、1番気になるのは入学理由だ。

まずはリナ。


「……」


『入学理由 ご主人様が入学したいと仰っているので、私がいかない理由がありません』


「……うん」


リナは、まぁ納得できる。いや、何か危険な匂いがするような気もするけど、まあそれはいい。

後は、2人だ。


まず、サリナ。


『入学理由 特に無し。アイラが行くと言ったから』


うん、リナと方向は違うけど似てるかな。

うん……サリナ、やる気無さすぎないか?

いや、僕の勘違いならいいんだけどさ。


さて、最後だ。


『入学理由 強いのがいっぱご主人様の行くところが私の行くところです』


……なんだ、この途中から別の人が書いたかのような文の内容は……。


「リナ、ユサのなんだけど……」

「変なところはありましたか?」

「えっと、入学理由の」

「変なところはどこでしょうか」

「あ、いや、入学理由」

「変なところはどこでしょうか」

「……いや、なんでもない」


リナ、時にゴリ押しするんだね。怖かった。

ともあれ、これで全員分だ。

後は。


「シド、書き終わった?」

「……もう少し待ってくれ」


シドは字が苦手なのか、時間をかけて1文字ずつ丁寧に書いているようだ。


「よし、終わった」

「それじゃあ、出しに行こうか」


シドが書き終わった紙も預かり、出しに行く。

ティルザさんに渡すと、笑顔で受け取ってくれた。the・営業スマイル。


「はい、ありがとうございます!入学試験は明日の朝となりますので、遅れないようにご注意ください」


この国での、朝、というのは、基本的に7時から8時を意味する。

なので、6時あたりに起きて準備していたら余裕だろう。

宿はまだ取っていないけど。


……取んなきゃな、宿。


「リナ、宿なんだけど……」

「はい、ご主人様は学院の近場の宿に1泊なさるおつもりですね。値段は気にせずに」

「うん、お願いしていい?」

「お任せ下さい」


ということで、宿はリナに任せることに。

その間は僕は僕でやることがある。

この国の観光だ。

他人に宿探させておいて何してんだって?

いいんだよ、多分。


ギルドを出て数分、街の表通りに出た。

かなりの賑わいを見せているが、今までの国と違うのは、景観がどこか日本に似ているところだ。そうだな、大阪辺りをイメージしてもらえるとわかりやすいか。


まずは情報収集からだ。

情報は大事、これ重要。


「さて……適当にぶらつくか」

「なあ、俺は何をしたらいいんだ?」

「さあ? というか、ここからは別行動でしょ」

「……まあ、確かにそうだな。

世話になった。この礼は必ずする」

「期待しないで待ってるよ」


ということで、シドもいなくなったことだし、身内の話が出来るな。


「ユサ」

「ん?」

「どうだった、シドとやって」

「強かった。けど、ご主人様なら瞬殺?」

「……まあ、とりあえず僕のことはいいから。どう思った?」

「負けたくないって思った」

「それならよし」


例え、能力ステータスで勝っていたとしても、経験不足だとその立場は簡単にひっくり返る。

将棋の駒落ちと似ているかもしれない。

戦力的には上でも、戦略を知らなければ、相手に翻弄され、相手のいいように駒を失っていくだけ。

少し強引だけど、強い相手との実戦経験がユサには必要だ。

それにはもちろん、魔物との戦闘も含まれている。


もちろん、武器も大事だけども。

そこら辺の包丁で鉄骨が斬れないのと同じで、ナイフでタートルタートルの硬い甲羅は貫けない。

もちろん、僕のとんでもシリーズは除く。

それを含めると、おそらくなんでも斬れてしまう。


……ところで、サリナはどこに行ったのだろうか。


「サリナは?」

「サリナ様なら、あそこで寝てるよ」

「……こらこら」


サリナは、僕が少し考え事をしている間に近場の椅子に座り、寝ていた。

うん、君寝すぎじゃないか? その調子だと授業中も寝そうなのだが……。


「ま、後で起こすとして……ユサ、リナの好物とか知ってる?」

「こーぶつ?」

「あ、好きな物ってこと」

「ご主人様?」


違うんだよなぁ……いや、確かに合ってるんだろうけど。

それを僕自身が肯定するのはなんだか小っ恥ずかしいが、それはまあいい。

ただ、プレゼントは僕でーす、なんて言って喜んで……いや、喜ぶかもしれないが色々アウトだ。

この世界的には良くても、僕的にはダメだ。


「いや、プレゼント、みたいな」

「ふむふむ、なるほど〜……」


そう言うと、ユサは顎に手をあて考え始めた。

……なんか、ガリレオのあの曲が流れそうだな。

実に面白い、なんつって。


「うーん、スピアラビットのぬいぐるみ?」

「ほーん」


スピアラビットとは。

一般的に雑魚の部類として知られるが、それは単体での、しかも真正面と対峙した時の話である。

スピアラビットの名前の通り、ウサギの額にスピア、槍がついている状態。

一角獣をイメージするとわかりやすいかもしれない。

こいつは、そのスピアで相手の体を貫こうと突進する。

その突進のスピードは約50km(体感)。

正面にいればどうってことはないが、死角から突っ込んでこられると、並のハンターでは防げず、下手をすれば死ぬ。

しかも、これと群れで遭遇した場合、基本的にはその遭遇したハンターは死ぬ。


そんな超危険な魔物が、ぬいぐるみとして売られているのだ。まるで日本。

日本でも、危険な動物をぬいぐるみにして可愛がるという意味不明なことをするが、それととても似ている。


それはともかく。

リナがそんな可愛い物を欲しがるかな……まあ、あげるんだけどさ。


「ユサは?」

「私?」

「うん。ユサはなにか欲しいものある?」

「うーん……考えても出てこないから、また今度でもいい?」

「もちろん」


ユサは物事を考えることができるようになってきたな。最初に比べればだけども。

だけど、偉い偉いと頭を撫でておく。


「偉い偉い」

「わーい!」


しかし、こういうちょっとおバカな子ほど、天才になるイメージがある。

そのうちユサも天才になるだろうか。


「どうしたの、ご主人様?」

「いや、なんでもないよ」


まあ、天才じゃなくても、自立していけるぐらいまでは面倒を見る。それだけは譲れない。

保護者の責任とでも言えばいいのかな。


「ぬいぐるみ、買って帰ろうか。ユサは何のぬいぐるみがいい?」

「私?私はねー……ご主人様!」

「僕のぬいぐるみは売ってないなぁ……じゃあ、作ってあげるよ」

「やったー!」


……うん、そのするなら、リナもそうしよう。

スピアラビットのぬいぐるみを買うのはやめだ。

僕のぬいぐるみを2体作ろう。

しかし、僕のぬいぐるみを僕が作るってなんかおかしいな。


ま、いいか。2人が喜んでくれるならなんでも。







「ご主人様、おかえりなさいませ」

「あ、リナ」


アズリレウス学院を少し見ていこうと、商店街を抜けて歩いていると、その真正面にリナが立っていた。

その隣にはサリナが……いない。


「どうしたの?」

「宿が取れましたので、その方向でございます。ご主人様なら、ここを通られると思いまして」

「あはは、大正解」


リナには全てをお見通しのようだ。というか、だんだん喋りが硬くなってないか?

もうちょっとフランクっていうか、軽い方がいいんだけど……まあ、それは後でいいや。


「宿はどこになったの?」

「こちらです」


そう言ってリナが手で示したのは、学院の真正面、黄色い屋根が特徴的な宿だ。


リナに続いて中に入る。

すると、中では爽やかな青年が受付をしていた。

……青年か。可愛い女の子じゃないのか。


「あ、どうも。アイラさんですね」

「あ、はい」


というか、こっちの世界にもさん付けの文化とかあるんだな。

こういう世界観だし、さん付けとかはないのかと思った。


そんな考え事をしているうちに、鍵を渡された。

……あれ、リナが宿を取ったって言っていたような。


「いえ、話を通しただけで、あとはご主人様が来てからにしようと思いまして」

「なるほど……ところで、サリナは?」

「あちらでお休みになられています」


リナの視線の先を追うと、そこにはテーブルに突っ伏して寝ているサリナがいた。

……いや、寝過ぎでしょう。

本当に授業中もずっと寝てそうな気がする。


「まあ……とりあえず部屋に行こうか」





部屋の中は至って普通だった。

ベッドが2つ、そして机と椅子も2つずつだ。

しかし、これだとリナとユサが寝られないので、僕とサリナ、ユサとリナでベッドを1つずつ使うしかない。


まあそれは後でもいい。

それ以外に、1つ気になる点がある。

この宿のことではない。学院のことだ。

授業に必要な道具等は、全て学院側から配られることは知っているし、そのお金も、試験を合格さえすれば問題ないことも聞いた。

その試験が難しいことも。


気になるのは、内部構造だ。

学院内の話じゃない。

成績がよければ上のクラスに、だとか、そういった話があるのかどうかだ。

実際に、学院内の生徒に聞くことが出来たら話は早いのだが……。


「ねえ、リナ」

「はい」

「アズリレウス学院って、寮があるんだっけ?」

「はい、あります。アズリレウス学院に通う生徒は例外なく、寮に通うことになっているはずです」

「……なるほど」


ならば、決行は今日の夜だ。

試験は明日だから、時間はあまり無いが、それでも知らないよりはましだ。そいつらに聞いて、僕の試験の結果を調節する。

というか、手加減する。


……いや、待てよ。

僕はそもそも、この世界の基礎的なことから何も知らないに等しいんだ。

いきなり上のクラスに行ったところで、その肝心な基礎は飛ばされてしまうだろう。そうなれば、僕の当初の目的は果たされないことになる。


だがしかし、もし僕だけが底辺のクラスに位置するとする。

そうなると、リナは心配していないが、ユサとサリナの面倒を見ることが出来ない。

いや、過保護かと思われるかもしれないが、あの2人は常に目を見張っていないと危険なのだ。

ユサは周りにケンカを吹っかけないかという点で。サリナはすぐ寝るという点で。

……もしそうなった場合、シドがいればシドになんとかしてもらおう。


うん、それが名案に思えてきた。


「おっけ、もう今日は寝ようか」

「はい。わかりました」

「うおー!

明日、ついに強いヤツと戦えるぞー!」

「……ん」


うん、みんなはいつも通りだね。なんかこんなに考えてる僕がバカみたいに思えるけど、考えちゃう性分だからしょうがないか。

それに、メンバーの1人はこうやって考えてないと、大変なことになりそうだし。

それともう1つ、メンバーをこれ以上増やすつもりもないし。


「おやすみー」

「はい、ご主人様」

「おやすみなさい!」

「……」


サリナ、おやすみなさいぐらいは言ってもいいんじゃないかな……。


僕は、隣にいるサリナを抱きながら、眠りについた。

いよいよ、明日、僕の第2の青春物語が始まる。予定。


この世界の、基本的なことを知る。

その中で、これから何をしたいのかも決めないとね。学校に何年滞在するのかは知らないけど。






「……」


朝日が直接僕の顔を照らす。その光が眩しくて目が覚めた。

今日は何をするのか思い出すのに数秒を要して、思い出す。


ああ、今日は試験だ。


「おはようございます、ご主人様」

「あ、リナ。おはよう」


リナが朝食の準備をしながら、挨拶をしてくれる。

うーむ、まるで、毎日僕に味噌汁を作ってくれを実行しているみたいだ。


「準備が出来たら、すぐに行こうか」

「はい、ご主人様」


隣で寝ているサリナとユサも起こさないとね。




準備を終え、指定場所に来た僕達は、1人の男に出迎えられた。

その男は、紺色が基調の制服のようなもの着ていた。

予想してみよう。あの男はこの学校では生徒会みたいな立場にある所に所属しているはずだ。


「初めまして。貴女たちが、今回の編入志望の生徒方ですね」


ベージュの髪に、青色のメガネ。近づいてみると高身長なのがわかり、顔立ちも中々にイケメンだ。

爽やかな声で、僕でも、モテると確信できる。

なるほど、リア充か。リア充は死ね!


「あ、はい」

「僕の名前はギアス。友人は皆、アースと呼びます」

「僕は……いや、自己紹介はいらないですかね」

「はい、存じております」


まあ、自己紹介がいらないってのはいい。楽だし。

とはいえ、名前がギアスって、なんだか不穏だな……。こいつには近寄りたくない。


ギアスに案内され、着いたのは体育館のような場所だった。


「こちらが、試験会場となります、体育館です。通うことになった際には、座学の後、こちらで実践していただきます」


ような、じゃなくて、体育館だった。

とまぁ、それはともかく。


「いつの間に来たの?」

「うるさい」


背後には、いつからいたのかは知らないが、シドがいた。

シドは慌ててきたのか、少し汗をかいている。なるほど、同じ部屋に泊まれば良かったか。


「遅刻するぐらいなら、同じ部屋に泊まればよかったね」

「う、うるさい。それはそれで何かと問題があるだろう」


問題……?


「お静かに。試験監督がいらっしゃります」

「あ、はい」

「……」


雑談をしていたら、ギアスに窘められた。

確かに、うるさかったかもしれないな。というか、それに関して言えばユサはやけに静かだが。


「くー……」

「……リナ、試験監督が来たら起こしておいて」

「わかりました、ご主人様」


うん、そうだろうとは思ったよ。


とにかく、僕は最底辺のクラスに入らなければならない。

だが、どれだけやれば最底辺なのかは分からない。それはもう聞くしかないだろう。

というわけで、聞いてみた。


「あの、どれぐらいできたら、入学できます?」

「そうですね……監督の攻撃を2、3回受けることが出来たら、でしょうか」

「なるほど……頑張ります」


情報は簡単に手に入るな。


とまあ、聞いた後にちゃんと、『頑張ります』と言うのを忘れない。

それを言うことによって、そこだけは頑張って目指そうとしている、というのが伝わるはずだ。

まあ、僕以外は上級クラスに行くのだろうが。


「よお、集まってるな」

「わざわざありがとうございます、教授」


教授?


体育館の扉を開いて現れたのは、教授という立場からは程遠いような格好をした男だった。

黒のジーンズに、黒の革ジャン。金髪のオールバックにまたまた黒のサングラス。

胸元には赤と緑の宝石がついたネックレス。


うーむ、なんだこいつ。


「俺がここの教授のグレゴリウスだ。お前らの試験監督もやる。1人しかいないけどな。はっはっは!」


教授は、そう言いながら笑い飛ばすが、こちらはギアスしか笑っていない。

しかし、その笑いも愛想だろうが。


リナに至っては、そこに誰もいません、みたいな目だ。いや、怒られそう。

後で言っておこう。後でじゃ遅いか。


「それでは、まずはアイラさんから」

「えっ、僕ですか?」


ギアスが、僕に試験用の木剣を渡す。

いやまあ、どれだけやれば合格なのかは分かっていたが、他の人のを見て、確証を得たいじゃないか。


「どうぞ」


ギアスが笑顔で言う。

その笑顔が言っている。さっさとやれと。


……くそ、こうなったらやってやる。

『ギリギリ合格できる女の子』を見事に演じきってやるぜ!


「よろしくおねがいします」

「うむ、よろしく頼む!」


まあ、そんなに気張ることもないだろう。

適当に……なんてったっけ。

ああ、そう、グレゴリウスさん。

こいつの剣を2、3回受けて、丁度いいところで弾かれたらいいだろう。


「では、こちらから行くぞ!」


グレゴリウスが、僕の首めがけて剣を振り下ろす。

僕の目からは、まさにハエが止まるようなスピードだが、普通の人からしたら早いんだろう。

とりあえず、受け止める。

木剣は、カンッと高い音を立てた。


「……ふむ、これを受け止めるか」

「……」


あれ、これ止めちゃヤバいやつだった?


グレゴリウスは剣を一旦引き、腰だめに構える。

その様はまるで、居合切りのような……。


「教授、それは!」

「心配するな、加減はする」


ギアスが少し慌てたように言うが、グレゴリウスは分かっていたように簡単に済ませる。

意識は全て、己の剣に集中しているようだ。


ふむ、それは教授の必殺技、とっておきのようなものか。

その必殺技、僕が弾かれてしんぜよう。


「雪月花」

「……は?」


教授が放ったその言葉に気を取られている間に、全ては終わっていた。


教授に向けられていた僕の木剣は、思っていたよりも強く握っていたらしく、気がついた時には、教授が利き腕を抑えていた。

その手には、木剣は無い。


ボーッとしていたから、何が起こったのか、今ひとつ理解出来ていない。

……どうなったんだ?


「……どうなっている、お前の腕は……」

「へ?」


グレゴリウスが、唸るような低い声で言う。

そんな事言われても、どうなっているとはこちらのセリフだ。


☆☆☆☆☆


「くそっ……」


そんなアイラの心境とは別に、グレゴリウスは焦りと、なんと言えばいいのか分からない感情を感じていた。


(……俺の、何十年もかけて作り上げてきた技だぞ……)


雪月花とは、所謂居合切りを魔法により超加速し、相手を切り裂く技だ。

その速度は、全力を出せば音速に届く程のスピードを出す。

しかし、今回は手加減をした。それを含めても、あの結果だった。


(……俺は、あいつの木剣を狙った。するとどうだ、あいつの木剣はとてつもなく硬く重い石を打ったかのようだった)


例えば、人が全力で、電柱だとかに木剣で打ち込むとする。

すると、例え木剣がそれに負けなくても人の腕が負ける。痺れて、木剣を取りこぼしてしまう。


今回のグレゴリウスが、それだった。


結果、グレゴリウスのプライドが傷ついた。


だが。


(こいつの才能は……)


そう、グレゴリウスは、雪月花の技の出来具合からもわかるように、歴戦のハンターである。

その腕前は、この国の王女の護衛についている者よりもと噂される程だ。

その王女はこの学院に通っているので、並大抵の犯罪者では、王女には近づくことができないため、鉄壁の一部を担っていることになっている。


その男の完成された技を、腕1本で支えられた木剣で防がれた。


「あの」

「……?」

「試験、どうなりますか?」


グレゴリウスは悟った。この程度で自惚れていたのだ。

グレゴリウスは理解した。この者こそ、頂点を極めし者、『神』を超えし者だと。


「……文句無しの合格だ。他の奴らは、お前が鍛えたりしたのか?」

「ええ、まあ、少しだけですけど」

「……なら、そいつらも合格だ。俺は見ての通り、利き手が痺れて、しばらく動かん」


☆☆☆☆☆


「そう言われましても……」


教授はそう言うが、ギアスは納得していないようだ。

そりゃそうだ。僕がギアスの立場だとしても、納得はしない。


教授はよろよろと立ち上がり、僕に背を向ける。

……そんなダメージだったかな?


「おい、名前はなんていった?」

「アイラです」

「……覚えておく」


グレゴリウスはそのまま、体育館を出ていってしまった。

……覚えるも何も、また会うんですけど……。

というか、シドは僕が鍛えたわけじゃないけど、それはいいのだろうか。


ちらりとシドを見る。


「……え、俺も?」


シドは、てっきり自分はやるのだと思っていたのだろう、剣(持参)を構えていた。

しかし、グレゴリウスとギアスの話を聞き、話の流れを理解したようだった。


ちなみに、ユサは口元を固く引き結んでおり、リナはそれを見て満足そうにしている。

サリナは言わずもがな寝ている。

うーむ、僕のパーティーメンバーは自由奔放だなあ。特にサリナ。


「しょうがありません。残りの方達も合格に致します」

「……いいんですか?」

「本当はよくはありませんが……監督がああ言ったのですから、従うしかないでしょう」


ああ……悲しいかな実力主義。


ギアスは、それまでの面倒そうな顔を一転させ、僕達に向き直る。

その顔は、僕達を歓迎していた。


「それでは、ようこそ、アズリレウス学院へ。試験は以上で終了です。筆記試験はありません」


そして、同時に、僕に畏怖の念が込められた視線も送られていた。


「ここでは、世界の基礎的なことを学んだあとは、実力を付けていただきます」

「実力、ですか?」

「はい」


リナが珍しく質問する。普段は僕に任せているから、他人と喋っているのは久しぶりに見るな。


「この学院では序列というものがあります。その序列は、ここを出た後に大きく影響します。もちろん、在学中もです」

「なるほど」


つまるところ、自身の実力を示すいい代名詞というわけだ。

そんなもんいらんがな。


ギアスは、僕とは視線を合わさず、話を進める。


「入学は明日から、皆さんは全員同じクラスです。丁度、大量に人員補充が必要なクラスがあったものですから」

「……大量に?」


ギアスの説明に引っかかるところがあった。

それは、『大量に』。

数人が、一身上の都合で辞めるのならわかる。だが、大量に一身上の都合で辞める、なんてことはないだろう。


「ええ。その理由は後ほどわかります。それでは、また明日、この時間に校門にいらしてくださいね!」


そう言うと、ギアスは笑顔で去っていった。

……えっと、後は丸投げ? 体育館で放置?


「……帰ろっか」

「はい、ご主人様」

「ねー、ご主人様、ここの探検とかしていかないの?」

「……なるほど」


ユサの提案はとても魅力的だ。

どうさ明日にはするのだろうが、とてもうずうずする。

例えば、新しいゲーム機を買ったとしよう。そして、やる機会が今、あるとしよう。

しかし、明日出来るから、と言って、明日にするだろうか?

答えは否だ。僕なら出来る時間があるならやる。


「よし、行こう」

「やったー!」

「ご主人様がそう仰るなら」

「……」


おっと、出発する前に。


「サリナ、眠たいなら部屋に戻ってていいよ?」

「……ん、そうする」


そんな訳で、フラフラと歩き出したサリナを見送った僕達は、右手を高々と突き上げた。


「探検、開始ー!」

「おー!」

「はい」


リナ、テンション変わんないね……。

とはいえ、上がらない人もいるのだろう。僕は仮にも中身は男だ。

……仮にも、というのは何かが違うような気がするが、確かに中身は男だ。

こういった、探検系はワクワクする。


すると、後ろから声をかけられた。


「なあ……俺はどうしたらいい?」


シドだった。


……うん、帰ったらいいと思うよ。


「……そうだよな」


シドは寂しそうにとぼとぼと帰って行った。

……一緒に行きたかったのかな。いや、それなら行きたいと言え。じゃないと、このグループには入れてやらん。

パーティーメンバーには、どう足掻いても入れさせないけど。


「よし、気を取り直して、しゅっぱーつ!」

「おー!」

「お、おー!」


リナ、気を使わなくてもいいんだよ……?

教授が技の名前を言った時、主人公の頭の中ではとある歌が流れています

傷つかないようですよ。

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