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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第1章
26/79

15 1人の少年

※思ったより筆が進みませんでした。本当はもう少し厚くしたかったんですけど


次回は少し多めにしようと思います

「あ、ごめんサリナ、ちょっと止めて」

「?」


僕達の後に付いてきていた人たちをまいてから既に数日が経過したある日。

いつも通りサイへ向かおうとしている途中、珍しいものを見つけた。

いや、もの、というより人か。


「あのー、何してるんですか?」

「……見てわからんか?」


それは、木に引っかかった人だった。






「いや、ありがとう。助かったよ」

「それは何よりです」


木に引っかかっていたのは小さな男の子で、理由は聞いても教えてくれなかった。

だが、見た目はハンターのような服装なので、何か目的があるのかと聞くと、サイの学校に行くという。

なので、目的地も同じということもあり、今は馬車に乗っている。


「こちら、飲み物になります」

「ああ、ありがとう。それにしても、君はすごいな。その若さで奴隷を3人も買っているのか」

「いや、サリナは奴隷じゃないから、2人だね」


次サリナを奴隷呼ばわりしたら殺す。


「そ、そうか。それはすまなかった」

「わかればいいんです」


幸い、食料にもかなり余裕があった。1人や2人増えたところで変わりはしないだろう。

馬車も空いてるし。

食料はともかく、馬車までスペースが空いているのは、サリナは御者台、リナは僕の隣として、ユサが馬車の屋根の上にいるからだ。

遠くから弓で撃たれたりしないのかと聞かれたら、それは僕が何とかすると答えよう。


「しかし、本当に良かったのか?」

「はい?」

「僕がその気がないとはいえ、すぐに信頼するのはどうかと思うんだが」

「あぁ、そのことですか」


まぁ、そうだろうな。

仮にも男なんだし、力で勝っていると捉えるのが普通か。

僕達がいくら数で勝っているとはいえ、今この状況なら、僕の隣に座っているこの男が僕を人質にとる方が、誰よりも早いだろう。


だが、それは僕じゃなければ、の話だが。


「いいんです。それに、見た目では分からないものもありますよ?」

「いや、それぐらいわかるさ。君たちが弱いということぐらいは」


ほう?

言ったな?

僕はともかく、リナとやったらどうなる……いや待て。僕もこの男をよく観察していなかった。

もう一度見てから、喧嘩をふっかけるとしよう。


「そうなんですね」

「あぁ、そうさ」


適当に会話を続けつつ、観察を始める僕。


見た目は今の僕とそんなに変わらないが、体は意外としっかりしている。

筋肉のハリもかなりいいし、武器であるショートソードも使い込まれているようだ。

黒髪だからあまり分からなかったが、くすんでいる。

まぁ、木に引っかかった時とかだろう。


とはいえ、この男に正面堂々と戦いを挑んで、リナなら勝てるぐらいだろうか。

不意打ちをくらうと、さすがのリナでもやられると思う。

ユサ?

ユサは力バカだから。


「まぁでも、俺のことは信頼してくれていい。俺の名前はシド」

「よろしくお願いします。私の名前はアイラです」


名前はシドか。なんだか、日本にもそんな感じのアーティストいた気がするぞ。


「……なんだか、僕の故郷にいた人を思い出すよ」

「故郷ですか?」

「ああ。とは言っても、こことは別の場所の故郷なんだが……ああ、別に頭がおかしくなったわけじゃないから、安心してくれ」

「その故郷の名前、聞いても?」

「ああ……言ってもわからんと思うがな」


そう言うと、シドは後頭部をポリポリかきながら言う。

この先に出てくる単語は、何となくだけどわかる。


「俺の故郷は、日本ってとこなんだよ」

「……ニホン?」

「まあ、知らないよな。でもまあ、日本ってところの人と雰囲気が似てるってだけだ。忘れてくれ」


予想はビンゴであったわけだが。そして、僕も日本人のだが。

とはいえ、今は知らんぷりをしていた方が都合が良さそうだ。


今、僕にある仮説はこうだ。

この、シドという男も転生したのだろう。

そしてその中で、この世界では英雄になれる程の力を与えられた。

しかし、転生なので、赤ちゃんからのやり直し。力が発現していくのは徐々になる、とか。

それを考えると、僕はどうなるのかだが、それはよくわからない。

自分の身のままでここにいるのなら、それは転移に含まれ、しかし、僕は1度死んでいる。

新たな命を貰ったことには貰ったが、赤ん坊からのやり直しという訳でもなく、徐々に力が発現していくわけでもない。

自分への疑問が増えるばかりだ。


「ここら辺で休憩にしよっか」

「はい、ご主人様」

「……そのご主人様ってのいいな」


シドが何か小声で言っていた気がするが、特に興味もないのでスルー。

さて、そろそろ暗くなってきたし、今日はここでキャンプだ。

まずは、テントを出す。


「ほい」

「……!?」


テントは、以前簡易化して畳んだ状態からすぐに立てられるようにした僕特注のやつだ。

ただ問題が1つあり、意外と脆い。

これは、立てた後に僕が魔法をかけて補強をしているが、いつまでもそのまま行くわけにもいくまい。

リナに悪いし。


食材についてだが、移動中に1つ決めたことがある。


「ユサ」

「はーい!」

「近くで適当に魔物を狩ってきて欲しいんだけど。危なくなったらすぐに逃げることを前提に」

「よっしゃ、任せて!」


ユサち言うと、ユサは森の方へ走り出した。

というわけで、アイテムボックスに入っている食材を優先するのではなく、現地で取れたものをその場で調理する方針で行こうと思う。

さすがに調味料とかは僕のアイテムボックスから出すけど。


「ああ、俺もあの子についていくよ」

「ああ、うん、お願い」


シドはユサについていくようだから、何かあったら彼がなんとかしてくれるだろう。

そのうち、安全ブザーみたいなのを作った方がいかもしれない。

鳴らしたら僕だけがわかる、みたいな。





「ご主人様、この後はどうなされますか?」

「どうしようかな……」


リナに聞かれて、周りを見る。

今日は天気が良く、星空が広がり明るい。

明るいと言っても、夜の中ではの話なので、昼に比べれば暗いのだが。

だが、眠たいわけじゃない。寝たい時に寝ることが出来る今の僕に、時間通りの行動をするつもりはあまり無い。

だが。だが、することもないのも事実。


「なにかしたいことある?」

「……そうですね、ご主人様の故郷の話、とかでしょうか。後は、ご主人様のこれまでの話だとか」

「あー……」


この子達の望みはできるだけ叶えたい。だが、故郷の話は、日本が関わってきてしまう。それは、シドがいなくなったらにしよう。

これまでの話に関しては、ほぼ空白に近い。

サリナと出会うまでの話ぐらいかな。


「それじゃあ、サリナと出会うまでを話そうかな」

「ありがとうございます」





「そこで、僕が颯爽と現れた!群がる敵をばっさばっさと倒し、危機に瀕していたサリナを助けたのだ!」

「さすがご主人様です!」

「……そんなことあったかな」







「……もう朝か」


サリナとの話をした後(多少盛ってしまったかもしれない)、すぐに寝ることのできたリナ達とは違い、自分でした話に自分で興奮したアイラは、寝ることが出来ずにいた。

こんな馬鹿な話があるだろうか。

というか、リナは見た目では僕より興奮していたじゃないか……。


「……」


結局、一睡も出来ず、今は馬車の屋根の上、ユサの定位置で朝日を見ている。

いやぁ、この世界でも朝日は心を洗ってくれる……これからまた始まる1日を祝福しているかのようだ。


「おはようございます、ご主人様」

「あ、リナ。早いね」

「ご主人様が起きているのに、寝るわけにもいきません」


なんか、そのうちリナはヤンデレになりそうだ。

というか、リナが誰かと恋をする未来が見えない。いや、それはまだ奴隷だからかもしれないけどさ。


「そのうち、外してあげるから」

「?」

「それ」

「……首輪、ですか」


僕が指で首元を示し、いずれ外すことを伝えると、何故か悲しそうな顔をした。

……はて?


「まあ、出発はまだあとだから、今はまだ休んでいた方がいいよ」

「それはご主人様です。もしかしてなのですが、一睡もしておられないのでは?」

「……バレた?」


でも、眠いわけじゃない。

なんだろう……カンストした能力ステータスのせいなか?

まぁ、それはどうでもいいのだ。

最大限のパフォーマンスを常にしてもらうために、リナには寝てもらわないと。

あ、でも僕が寝ないとダメなのか……。


「そうだ、一緒に寝よう」

「一緒に、ですか?」

「うん」


これなら、僕が寝ないから寝ないなんて言わないだろう。

というか、僕が抱き枕にして寝てやれば動けないだろうし。

別に、可愛い女の子にくっついて寝たいわけじゃないよ?


「わかりした。ご主人様がそうしたいのならば」

「そんじゃ、寝よっか」


しかし、寝られるとしてもあと2時間がいいとこか。

まあ、その2時間、リナの抱き心地を堪能するとしよう。


テントの中に入り、用意した毛布にくるまる。

そこにリナを強制的に取り込み、眠る。


「あの、ご主人様……」

「んー?」

「……いえ、おやすみなさい」

「うん」


うーむ、抱き心地は最高。


やはり疲れたいたのか、リナを抱いて横になるとすぐに眠りに落ちていった。





「ご主人様、起きてください」

「……んん……あれ、リナ、僕の布団に潜り込んで何してるの?」

「いえ、ご主人様がそうしたのです」

「……あ、そっか」


どうやら、きっちり2時間後に起こされたようだ。起きてすぐは、どうして目の前にリナがいるのかよく分からなかったが、そういえば僕が巻き込んだんだった。


「とりあえず、さっさと起きてくれないか」

「んえ?」


横になってる状態の背後から声がしたと思ったら、そこにはこちらに背を向けて転がっているシドがいた。

あれ、シド何してんの?


「シド、何してんの?」

「いや、女が起きるなら、俺はこっちを向いていた方がいいだろう……」

「……??」

「さっさと着替えてくれ」

「あ、なるほど」


つまり、シドはシドなりに男で、紳士だと。

ふっ、笑わせるな。そういう何気ない気遣いをするな。うっかり惚れてしまうわ。

僕?

やんないんじゃない、できないんだ!


「でも、別に見られて困る服装じゃ……いや、なんでもない」


毛布をめくると、いつの間に脱がされたのか、制服ではなくその下に着ている下着姿だった。

下着の色は黒ではなく、白なのが唯一の救いだが、正直言うと僕は下着を付けるのはあまり好きじゃない。

窮屈なのだ。


「……あれ、僕の服……」

「ああ、ご主人様の服なら、寝ておられる間に脱がさせていただき、洗浄を済ませたので、今は外に干してあります」

「ああ、そう」


ん、ちょっとまて。

それだと、僕に抱きつかれながら服を脱がしたってことなのか?

まあ、洗濯ぐらいならサリナも出来るだろうけど……。

うわぁ、なんで寝てた僕。


「乾いてる?」

「いえ、申し訳ありませんが、もう少しお待ちください」

「そっか。まあ、乾いたら教えて」


まあ、服が無いぐらい、気にすることはない。

別に、見られて困る訳でもないし、そもそも僕の能力ステータスのせいで剣はおろか魔法すら僕の体には傷一つつかないだろう。

そこら辺の剣で傷がつかないのは実証済みだ。


毛布をアイテムボックスにしまい込み、リナに朝食の準備をお願いする。


「おい、もういいか?」

「あ、ごめんね。もう少しで朝ごはんが出来るから、それまでに準備をしておいてね」

「ああ、わかっ……準備しろって言ったろうが!」

「あれ?」


そうか、今の僕は女の子だったな。

自分で下着のことについて考えてたくせに、すぐ忘れてしまったようだ。


「今度から気をつけよう」

「そんなのどうでもいいからさっさと何か着てくれ!」





「まったく、お前は女として自覚が無いのか……?」

「あはは……」


現在は朝食を終え、サイへ向かって再出発中。

シドと会ってからというものの、魔物とまったく遭遇しなくなった。

それがシドに原因があるのか、それともただの偶然なのか、どちらでもいいが、戦う必要が無いというのはいいものだ。

できるだけ平和に、穏便に行きたい。


「ご主人様、敵です」


前に座っていたリナが報告してくれる。

そういえば、今は探知をオンにしていなかったな。

奇襲を受けたら危ないところだった。リナたちが。


「よし、俺が相手しよう。今までのお礼だと思ってくれていい」


これからの分は?


「これからも、道中はできるだけ俺が相手しよう。安心していい、俺は強い」

「ちょっと、私の獲物!」

「えっ」


シドは既に馬車から降りていたが、そこにユサが飛び乗り、馬車の中に投げ飛ばした。

まるで軽々と投げ飛ばされたように見えたが、衝撃を受けたのは見ている側だけでなく、当の本人もだった。


「なっ……ど、どういう腕力してんだ……」

「……」


確かに。

それに関しては僕のどうなってんだとしか言えない。だが、それだと監督不行届になってしまうので、言わない。言えない。

いや、そんなのこの世界には無いんだろうけど。


しかし、シドとしてはここを譲るわけにはいかないのか、再び馬車を降りる。


「悪いが、こっから先は俺の仕事だ。ガキはすっこんでろ」

「……だったら、どっちが強いか決めようよ」

「ふん、ガキが、調子に乗るなよ」


そう言うと、シドとユサはお互いに武器を向け合い……いや待て、何が敵かちゃんと分かってる?

とはいえ、ユサが今どれだけ強いのかも気になる。

魔物を片付け終わったら、リナも手合わせしてもらおうかな。




「ふっ!」

「やぁぁぁああああ!!!」


2人がお互いに構えた直後、すぐにお互いが接近。

そこからは両足をしっかり地につけてキンキン武器で火花を散らしている。

スピードはシドの方が上のようだが、1度鍔迫り合いのような形になるとユサに簡単に押し切られてしまう。

やはり、単純な力勝負ではユサは飛び出ているようだ。


ちなみに、2人がやり合っている最中に魔物が来たので、サリナとリナがさくっと倒していた。

サリナとリナ。こうして文字にして並べると姉妹みたいだ。


「こ、っの、馬鹿力が……」

「まだまだぁぁあ!!!」


体力も馬鹿なようです。


ユサが長剣を大ぶりに構え、突進する。

シドはそれを見て、振り下ろされるであろう剣の軌道を予測し、それを受け流すように構える。

しかし、ユサは長剣を上に投げた。


「……!?」

「はっ!」


一瞬だが、シドの視線が長剣を追い、上へと向いた瞬間、ユサは既にシドの懐へと潜り込んでいた。

視線誘導。戦闘では、大体の人が無意識に、細かく入れてくる技だが、あそこまで大胆にやると、逆に引っかかってしまう。

本能的に追ってしまうのだ。


そして、ユサの全力ストレートパンチが鳩尾にクリティカルヒット。

これで勝負は決まるかのように思えた、が。

シドはその必殺の一撃に耐えた。


「……っ、いいパンチだ……なら、今度は俺のをもってけやぁぁあ!!!」

「……!? がはっ……!」


シドの鳩尾へと放ったパンチは、確かに当たった。

しかし、その後すぐに腕を引かなかったのはユサのミスだ。その腕を掴まれ、回避不可能な状態にし、シドの全力のパンチ。

いくら力自体はユサが上回っていても、耐久面がそれを上回っているかどうかは別問題だ。


「う……げほっ……」


7mほど吹っ飛ばされ止まったが、ダメージが大きいのか、未だ立ち上がれない様子のユサ。

これは、シドの勝ちかな。


「……ったく、ガキのくせにみょーに力つけやがって……お前の仕業か、アイラ」

「いやぁ、僕としても予想外で」

「ま、なんでもいいや。俺は疲れたから寝る」


この様子だと、リナとも、と思ったけど、無理そうかな。

また明日にしてもらおう。


とりあえず今は、ユサの処置と、寝ているサリナを起こして、再び出発だ。

※作者は現在、一人称(アイラ視点)で進めようか、三人称で進めようか迷っています


最初に決めておけって話ですよね()

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