2 それはそれ これはこれ
かくして。
スヴェールが有する衛兵たちと、アイラとサリナのたった2人による全面戦争が始まった_______。
わけではない。
結局、一生懸命説明し、提出が遅れたことに関して謝罪し、鎧に抱きついて泣いてやった。
鎧は焦げるように熱かったが我慢だ。
「ま、まぁお前達のいいぶんもわかった。俺も早とちりしてしまったな。すまん」
そう言うと、2人同時に頭を下げられた。
「い、いや!悪いのは僕なので……」
それぐらい疑心暗鬼ではないと、門番は務まらないだろう。
もし本当に僕がそういった類のものだったら、こんな無様なことはしないが。
……しないが。
「ふむ……まぁ、計測器の故障というのもわからんではないな」
ちなみに、カードの身体能力全てトップクラスなのは、故障と言い訳し、ギルドカードを見せた。
詐称スキルというものが上手く言ったらしい。
これは嘘を付けば相手は無条件に信じるスキルなのだろうか?
今度サリナで試そう。
まぁ、見た目にも僕の筋肉はひょろいらしいが。
「よかろう、スヴェールをようこそ」
男2人がそう言うと、城壁が、ずずず、と音を立てて開く。
イメージは、〇の谷の〇ウシカの主人公が腹を撃たれた後のシーンだろうか。
いや、そんなことはどうでも良い。
「や、どうもどうも」
「……」
とにかく、僕とサリナはスヴェールに入国できた。
それだけで十分だ。
スヴェールは、なかなかに繁栄している国のようだ。
入ってすぐに国道に合流するかのように、人通りが多い。
普通に横断なんてしようものなら、馬車に轢かれそうな勢いだ。
これは、タリシタンの数倍国民がいるのだろう。
道沿いに、店が見えなくなるまで続いている。
「とりあえず、宿かな」
「……ん」
金に関しては問題ない。
宿で数日泊まれる分は所持している。
だが、その間に稼ぐ方法を確立しなければならない。
……まぁ、行くところは決まっているが。
入国し数分。
城門から数km離れたところに、宿はある。
そもそも、こんな大きな国に宿が数箇所しかないというのはおかしな話だが、それがこの国の方針らしい。
その代わり、近くにはギルドがあったりと、色々便利なのだそうだ。
そしてまた、宿もでかい。
「いや……これは……」
「……」
まだ地球に住んでいたころ、ホワイトハウスを見に行ったことがあるが、それと同じくらいはあるかもしれない。
……いや、こっちも地球かも知れないが。
ともかく、中に入る。
中は思っていたよりも質素な作りであった。
基本的に木で作られており、階段も木。
階数は全部で5階。
1階ごとに30部屋あり、全部で150部屋。
これはまだ本館で、別館もあるらしいが、正直言うと広すぎて覚えられる気がしないので、そこはスルーした。
「2人、2日分」
「はい、5ミルです」
そう答える受付娘は、可愛らしい女の子だった。見た目は約15歳。
それこそ、僕とそう変わらないが、その歳でこうも働いているのはすごいと思うが。
ここで1つ気になったことがある。
ミルよりも下の硬貨があるのだろうか?
今までも、渡されたお金は全てミルと称されるもので、そのミルの数と同じものが渡された。
しかし、2人で2日分、それが5ミル。
2人で1日分なら2.5ミル。
1人で1日分なら1.25ミルだろうか。
……いや、きちんと等分されるのではないのだろう。
多分だが、小数点は全て切り上げの形だ。
しかし、そうなると、例えば1000ミルぐらいの取引をする場合、本当に1000枚用意するのだろうか。
いや、それに相当する何かがあるのだろう。
日本円にあるように。
自問自答を繰り返しているうちに、部屋の鍵をもらった。
部屋の番号は305。
最初の3は3階、続く05は階段を上がって手前から順に数えた部屋の番号らしい。
いや、近くてよかった。
用意された部屋は、普通だった。
が、そこで1つ誤算があった。
別に、部屋の造りは変ではない。
ドアを開ければ、そこには服をかけるようなものがあり、奥にはベッドがある。
ベッドは入口から直接見えるようになってはいないが、タンスが直接見える。
が、問題はそのベッドだ。
1つしかない。
いや、多少は大きい。
想像しやすいのは、男女の2人がアレするぐらい、と言えばわかりやすいだろうか。
いや、そんなことはしないのだか。
もしかして、受付娘に勘違いされた?
まぁ、その可能性も否定出来ない。
というか、そういう事にしておこう。
さて。
「……まずは、お互いのことについて、かな」
「……ん」
とは言ったものの、僕のことについては僕すらよくわからない。
今日の夢にでも女神様が出てきて、僕について説明してくれないかとも思う。
サリナのことについては、サリナをよく知るあの2人からも聞いたし、特に今更聞くことはないだろう。
なので、スキルを試そうと思う。
詐称スキル。
簡単に言えば嘘をつくこと。
とはいえ、この嘘は名前だとか、職業だとかを偽るものなので、言いくるめることとかには使えなさそうだが。
まぁ、あの門番2人をなんとか出来たのはよしとしよう。
というか、それ以外に使う気は無い。
だが、使える範囲は知っておく必要がある。
「実はね、僕は、他の世界から来たんだ」
「……?」
何言ってんだこいつみたいな顔された。
「……実はね、僕は男なんだよ」
「……!?」
今度は別の嘘をつくと、宿の部屋の壁まで離れられた。
……すっごい傷ついた。
「や、嘘だから」
「……うん」
とはいえ、嘘をつける範囲は、この世界に存在するものの範囲で、となるのだろうか。
存在というか、認識というか。
サリナは、僕が住んでいた日本という国を知らない。
だけど、男と女という性別は知っている。
と言ったところか。
自身の設定を、後から変更できるアバターのようなものだろうか。
ただし、選択肢は決まっているみたいな。
「さて……どうしようかな……」
嘘を嘘でひっくり返すことも確認したが、後説明することはない。
サリナをちらりと見たが、何かを言いたそうにしているだけで、特に何も言ってこない。
……気になるから、聞いておこう。
「何か聞きたいことはある?」
「……ううん」
そう聞くと、サリナは横に顔を振って、また何か言いたそうな顔をする。
……なんなのだろう。
「まぁ、それならいいんだけどさ」
「……ん」
カードを直接見せるというのもあるが、スキルを全て見せるというのはまずい気がする。
何がと聞かれればわからないが……。
いや、もう寝よう。
なんか今日は疲れた。
外はまだ夕暮れになったばかりのような気がしたが、体は疲れていたのか、そのままベッドに倒れ、泥のように眠った。
「異世界はどうですか、アイラさん」
「楽しいですけど。というか、呼び方変えたんですね」
「こちらの方が良いかと」
「まぁ……そうですね」
最初に女神様にあった場所と全く同じ。
通算3回目だろうか。
そろそろこの浮遊感にも慣れるかと思ったが、あまり慣れなかった。
「では……アイラさん自身の話をいたしましょう」
「これはどうも」
もしかして、説明をしてほしいと思ったからだろうか。
なんて優しい女神様。
「アイラさんは現在、両親を幼い頃に無くし、その後はご自身で生き延びていたということになっています。ただし、魔物を狩るような生活はしておらず、なおかつ教育も受けていないので、剣や魔法の扱い方はおろか、常識すら知りません」
「……」
なんてことだ。
過去を知れば同情されるが、それを知らなければ頭のおかしいやつじゃないか。
「しかし、才能の塊でもあります」
「ほう」
「それは、カードが表している通りです」
ふむ。
あの能力値は将来性のものだったのか?
それだとなんか違うような……。
「そして、その才能は既に開花しています」
「あ、そういうこと」
なるほど。
開花しているのならば話は別だ。
「ちなみに、スキルに関しては?」
「スキルに関しては私が適当に選んでつけました。足りないものがあれば言ってください。まぁ、ほとんどのスキルは所持していると思いますが」
「……」
なるほど、あのスキルの量は女神様の仕業か……。
まぁ、困ることなんて多くてわかんないぐらいだからいいか。
「さて、それでは、私はそろそろ寝ますね」
「女神様はこれから寝るんですか?」
「えぇ、まぁ」
女神様がどれくらいの時間帯に寝るのか、それを把握しておけば、女神様と会えそうな時間帯で寝るのだが。
まぁそれはいい。
女神様は起きている間も多忙なのだろう。
あんまり僕なんかに時間を割いている余裕はないとみた。
「それはそれは、お疲れ様です」
「ありがとうございます……それでは、また」
「はい」
そこで、再び意識は途絶えた。
「……」
優しい日差しが横から入ってくる。
日差しの方に顔を向けると、まだ日の出の直後のようだった。
季節によって日の出が違うけど……今何時だろう。
まぁいいか。
二度寝としゃれこもうじゃあないか。
「……」
「……」
いざ二度寝と、寝返りをうつと、すぐそこに目を開けたサリナがいた。
いや、ベッドに2人で寝たのかどうかは覚えてない。
確かに先に寝たのは私だ。
ベッドの配分も何も話さずに寝てしまった私が悪いのだが、さすがに近い。
ベッドを左から5分割した線に分けるとしたら、サリナは3、僕は4の位置だ。
「……おはよう」
「あ、うん、おはよう」
サリナは何も思っていないのか、こちらをまっすぐ見つめつつ挨拶をしてくるが、僕の心臓は早打ちが止まらない。BPM240だ。死んでしまう。
一旦、起きて整える必要がある。
そう考え、身を起こそうとすると、サリナの腕で抑えつけられ、起きることができなかった。
……これどういう状況?
「……まだ眠い。もう少し」
「あ、うん」
そう言われ、再びベッドに身を預ける。
すると、サリナは僕をまるで抱き枕にでもするかのようにして寝始めた。
もうデレたのか。早いな。
「いやそうじゃない」
なにがあったのだろうか。
僕が寝てる間に。
僕は改めて、サリナを見る。
サリナの寝顔もまた、かわいい。
食べてしまいたいぐらいだ。
頬を触る。
「……んん」
ぷにぷにしてる。
こんなに柔らかい頬があったのか……。
だが、ここで自分の欲望に負けるわけにはいかない。
それはそれ、これはこれである。
負けるわけにはいかんきん!
……いや、別に、聞いたことのある方言だっただけで、僕の地元じゃないよ?
という訳で、サリナを起こす。
「サリナ、サリナ」
「……?」
目をゆっくりと開ける。
なんだろう、この恋人が出来たような感覚……。
いや、それは置いておいて。
「サリナ、なんで僕を抱き枕にしてるの?」
「……だめ?」
「だめじゃないですおやすみなさい」
横になりながらの上目遣いをされた僕の精神は一瞬で崩壊した。
それはそれ、これはこれなど、そんな言葉など存在しない。
僕はサリナに抱きつかれているので、逆に抱き、そのまま再び寝ることにした。




