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一度でいいからと望んだであろう世界で  作者: すずはっぱ
第1章
12/79

2 それはそれ これはこれ


かくして。

スヴェールが有する衛兵たちと、アイラとサリナのたった2人による全面戦争が始まった_______。

わけではない。


結局、一生懸命説明し、提出が遅れたことに関して謝罪し、鎧に抱きついて泣いてやった。

鎧は焦げるように熱かったが我慢だ。



「ま、まぁお前達のいいぶんもわかった。俺も早とちりしてしまったな。すまん」


そう言うと、2人同時に頭を下げられた。


「い、いや!悪いのは僕なので……」


それぐらい疑心暗鬼ではないと、門番は務まらないだろう。

もし本当に僕がそういった類のものだったら、こんな無様なことはしないが。

……しないが。


「ふむ……まぁ、計測器の故障というのもわからんではないな」


ちなみに、カードの身体能力全てトップクラスなのは、故障と言い訳し、ギルドカードを見せた。

詐称スキルというものが上手く言ったらしい。

これは嘘を付けば相手は無条件に信じるスキルなのだろうか?

今度サリナで試そう。

まぁ、見た目にも僕の筋肉はひょろいらしいが。



「よかろう、スヴェールをようこそ」


男2人がそう言うと、城壁が、ずずず、と音を立てて開く。

イメージは、〇の谷の〇ウシカの主人公が腹を撃たれた後のシーンだろうか。

いや、そんなことはどうでも良い。


「や、どうもどうも」

「……」


とにかく、僕とサリナはスヴェールに入国できた。

それだけで十分だ。







スヴェールは、なかなかに繁栄している国のようだ。

入ってすぐに国道に合流するかのように、人通りが多い。

普通に横断なんてしようものなら、馬車に轢かれそうな勢いだ。

これは、タリシタンの数倍国民がいるのだろう。

道沿いに、店が見えなくなるまで続いている。



「とりあえず、宿かな」

「……ん」


金に関しては問題ない。

宿で数日泊まれる分は所持している。

だが、その間に稼ぐ方法を確立しなければならない。

……まぁ、行くところは決まっているが。




入国し数分。

城門から数km離れたところに、宿はある。

そもそも、こんな大きな国に宿が数箇所しかないというのはおかしな話だが、それがこの国の方針らしい。

その代わり、近くにはギルドがあったりと、色々便利なのだそうだ。

そしてまた、宿もでかい。


「いや……これは……」

「……」


まだ地球に住んでいたころ、ホワイトハウスを見に行ったことがあるが、それと同じくらいはあるかもしれない。

……いや、こっちも地球かも知れないが。


ともかく、中に入る。


中は思っていたよりも質素な作りであった。


基本的に木で作られており、階段も木。

階数は全部で5階。

1階ごとに30部屋あり、全部で150部屋。

これはまだ本館で、別館もあるらしいが、正直言うと広すぎて覚えられる気がしないので、そこはスルーした。


「2人、2日分」

「はい、5ミルです」


そう答える受付娘は、可愛らしい女の子だった。見た目は約15歳。

それこそ、僕とそう変わらないが、その歳でこうも働いているのはすごいと思うが。


ここで1つ気になったことがある。

ミルよりも下の硬貨があるのだろうか?

今までも、渡されたお金は全てミルと称されるもので、そのミルの数と同じものが渡された。

しかし、2人で2日分、それが5ミル。

2人で1日分なら2.5ミル。

1人で1日分なら1.25ミルだろうか。


……いや、きちんと等分されるのではないのだろう。

多分だが、小数点は全て切り上げの形だ。

しかし、そうなると、例えば1000ミルぐらいの取引をする場合、本当に1000枚用意するのだろうか。

いや、それに相当する何かがあるのだろう。

日本円にあるように。


自問自答を繰り返しているうちに、部屋の鍵をもらった。

部屋の番号は305。

最初の3は3階、続く05は階段を上がって手前から順に数えた部屋の番号らしい。

いや、近くてよかった。


用意された部屋は、普通だった。

が、そこで1つ誤算があった。

別に、部屋の造りは変ではない。

ドアを開ければ、そこには服をかけるようなものがあり、奥にはベッドがある。

ベッドは入口から直接見えるようになってはいないが、タンスが直接見える。

が、問題はそのベッドだ。

1つしかない。


いや、多少は大きい。

想像しやすいのは、男女の2人がアレするぐらい、と言えばわかりやすいだろうか。

いや、そんなことはしないのだか。

もしかして、受付娘に勘違いされた?

まぁ、その可能性も否定出来ない。

というか、そういう事にしておこう。


さて。


「……まずは、お互いのことについて、かな」

「……ん」


とは言ったものの、僕のことについては僕すらよくわからない。

今日の夢にでも女神様が出てきて、僕について説明してくれないかとも思う。


サリナのことについては、サリナをよく知るあの2人からも聞いたし、特に今更聞くことはないだろう。


なので、スキルを試そうと思う。

詐称スキル。

簡単に言えば嘘をつくこと。

とはいえ、この嘘は名前だとか、職業だとかを偽るものなので、言いくるめることとかには使えなさそうだが。

まぁ、あの門番2人をなんとか出来たのはよしとしよう。

というか、それ以外に使う気は無い。

だが、使える範囲は知っておく必要がある。


「実はね、僕は、他の世界から来たんだ」

「……?」


何言ってんだこいつみたいな顔された。


「……実はね、僕は男なんだよ」

「……!?」


今度は別の嘘をつくと、宿の部屋の壁まで離れられた。

……すっごい傷ついた。


「や、嘘だから」

「……うん」


とはいえ、嘘をつける範囲は、この世界に存在するものの範囲で、となるのだろうか。

存在というか、認識というか。

サリナは、僕が住んでいた日本という国を知らない。

だけど、男と女という性別は知っている。

と言ったところか。


自身の設定を、後から変更できるアバターのようなものだろうか。

ただし、選択肢は決まっているみたいな。


「さて……どうしようかな……」


嘘を嘘でひっくり返すことも確認したが、後説明することはない。

サリナをちらりと見たが、何かを言いたそうにしているだけで、特に何も言ってこない。

……気になるから、聞いておこう。


「何か聞きたいことはある?」

「……ううん」


そう聞くと、サリナは横に顔を振って、また何か言いたそうな顔をする。

……なんなのだろう。


「まぁ、それならいいんだけどさ」

「……ん」


カードを直接見せるというのもあるが、スキルを全て見せるというのはまずい気がする。

何がと聞かれればわからないが……。


いや、もう寝よう。

なんか今日は疲れた。


外はまだ夕暮れになったばかりのような気がしたが、体は疲れていたのか、そのままベッドに倒れ、泥のように眠った。





「異世界はどうですか、アイラさん」

「楽しいですけど。というか、呼び方変えたんですね」

「こちらの方が良いかと」

「まぁ……そうですね」


最初に女神様にあった場所と全く同じ。

通算3回目だろうか。

そろそろこの浮遊感にも慣れるかと思ったが、あまり慣れなかった。


「では……アイラさん自身の話をいたしましょう」

「これはどうも」


もしかして、説明をしてほしいと思ったからだろうか。

なんて優しい女神様。


「アイラさんは現在、両親を幼い頃に無くし、その後はご自身で生き延びていたということになっています。ただし、魔物を狩るような生活はしておらず、なおかつ教育も受けていないので、剣や魔法の扱い方はおろか、常識すら知りません」

「……」


なんてことだ。

過去を知れば同情されるが、それを知らなければ頭のおかしいやつじゃないか。


「しかし、才能の塊でもあります」

「ほう」

「それは、カードが表している通りです」


ふむ。

あの能力値は将来性のものだったのか?

それだとなんか違うような……。


「そして、その才能は既に開花しています」

「あ、そういうこと」


なるほど。

開花しているのならば話は別だ。


「ちなみに、スキルに関しては?」

「スキルに関しては私が適当に選んでつけました。足りないものがあれば言ってください。まぁ、ほとんどのスキルは所持していると思いますが」

「……」


なるほど、あのスキルの量は女神様の仕業か……。

まぁ、困ることなんて多くてわかんないぐらいだからいいか。


「さて、それでは、私はそろそろ寝ますね」

「女神様はこれから寝るんですか?」

「えぇ、まぁ」


女神様がどれくらいの時間帯に寝るのか、それを把握しておけば、女神様と会えそうな時間帯で寝るのだが。

まぁそれはいい。

女神様は起きている間も多忙なのだろう。

あんまり僕なんかに時間を割いている余裕はないとみた。


「それはそれは、お疲れ様です」

「ありがとうございます……それでは、また」

「はい」


そこで、再び意識は途絶えた。




「……」


優しい日差しが横から入ってくる。

日差しの方に顔を向けると、まだ日の出の直後のようだった。

季節によって日の出が違うけど……今何時だろう。

まぁいいか。

二度寝としゃれこもうじゃあないか。


「……」

「……」


いざ二度寝と、寝返りをうつと、すぐそこに目を開けたサリナがいた。

いや、ベッドに2人で寝たのかどうかは覚えてない。

確かに先に寝たのは私だ。

ベッドの配分も何も話さずに寝てしまった私が悪いのだが、さすがに近い。

ベッドを左から5分割した線に分けるとしたら、サリナは3、僕は4の位置だ。


「……おはよう」

「あ、うん、おはよう」


サリナは何も思っていないのか、こちらをまっすぐ見つめつつ挨拶をしてくるが、僕の心臓は早打ちが止まらない。BPM240だ。死んでしまう。


一旦、起きて整える必要がある。


そう考え、身を起こそうとすると、サリナの腕で抑えつけられ、起きることができなかった。

……これどういう状況?


「……まだ眠い。もう少し」

「あ、うん」


そう言われ、再びベッドに身を預ける。

すると、サリナは僕をまるで抱き枕にでもするかのようにして寝始めた。


もうデレたのか。早いな。


「いやそうじゃない」


なにがあったのだろうか。

僕が寝てる間に。


僕は改めて、サリナを見る。

サリナの寝顔もまた、かわいい。

食べてしまいたいぐらいだ。

頬を触る。


「……んん」


ぷにぷにしてる。

こんなに柔らかい頬があったのか……。


だが、ここで自分の欲望に負けるわけにはいかない。

それはそれ、これはこれである。

負けるわけにはいかんきん!

……いや、別に、聞いたことのある方言だっただけで、僕の地元じゃないよ?


という訳で、サリナを起こす。


「サリナ、サリナ」

「……?」


目をゆっくりと開ける。

なんだろう、この恋人が出来たような感覚……。

いや、それは置いておいて。


「サリナ、なんで僕を抱き枕にしてるの?」

「……だめ?」

「だめじゃないですおやすみなさい」


横になりながらの上目遣いをされた僕の精神は一瞬で崩壊した。

それはそれ、これはこれなど、そんな言葉など存在しない。

僕はサリナに抱きつかれているので、逆に抱き、そのまま再び寝ることにした。

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