1(おまけ) サリナの心情
※サリナ視点です
これはなんの冗談なのだろうか。
今まで旅を1人で続けていたのであろうアイラから、実際にスキルを使っている所を見せて欲しい、と言われたのだ。
よくわからないが、いつも相手の思考を読むのはあの2人の役目で、私は相手を倒す。
もしくは、殺す。
そんな役回りだったので、最初はおかしいと思ったが、すぐに考えるのをやめ、実演することに。
あまり相手の思考を考えるのは得意ではない。
しかし、彼女はなぜか、移動スキルを使えないかと聞いてきた。
移動スキルというのは、物体を移動させるスキルである。
例えば、現在地をA、行きたい場所をBと例える。
移動スキルというのは、Bを実際に知らなければ行けないのだが、知る方法はなんでもいい。
実際の地図や、写真、なんでもだ。
しかし、もちろんそれに応じた魔力も必要だ。
移動させる物体の質量や、距離、時間なんかも関わってくる。
魔力によって、タイムラグが発生するのだ。
移動スキル自体が希少ゆえ、使える人数が限られており、その中でも、ある程度の距離、それこそ何kmも移動できるさせられるような者は数人しかいなかった。
そんなものを私が使えるわけがなく、否定すると、続いて彼女は空間スキルについて聞いてきた。
空間スキルとは、自信が立っている場所から、周囲の立地や生き物全てを感じ取る。
スキルを発動するものによって範囲が異なるが。
もちろん、それを使ったところで、その範囲内にいる者には何ら影響は無い。
あぁ、何か見られてるな、と思うぐらいだろうか。
しかし、目に見えてわかりやすくは無いだろう。
これも断ると、彼女はやや困った顔を浮かべた。
そこで、私は彼女に、アイラに、使えるスキルを教えた。
パッシブは教える必要が無かったので今回はスキルのみだが、これからは仲間だ。
隠し事はあまり良くないだろう。
スヴェールに入って、宿をとったら、ちゃんと教えようと思う。
彼女が指定してきたのは、魔法スキル。
属性はなんでもいいと言うので、得意というわけでもないが、普段から使っている水を使うことに。
ちなみに、氷魔法というのは存在しない。
そういったものは、例外なく水魔法に分類される。
「『水魔法 アイスブレイク』」
いつもの練習のように、心を落ち着かせ、魔法名を唱える。
数m先に氷の小山ができ、それは数秒で砕け散る。
この氷は魔法によって作られているので、その氷を持続させるには魔法を使うために必要な素を送り続ける必要があるが、その必要は無いので放置する。
ちなみに、タイミングをずらせば、砕け散った状態で置いておくことも可能だ。
ちなみに。
魔法を唱えるには魔法名を知ることと、それを扱えるだけの魔素、そして技術が必要だ。
まぁアイラはいずれ学校に通うつもりらしいし、ここら辺はいう必要は無いと思う。
実際に魔法スキルを見せると、アイラは、なるほど、と呟いたのち、同じ方向に手のひらを向けた。
すると、とんでもないことを口走る。
「『水魔法 アイシクルブレイク』」
アイシクルブレイク。
水魔法の中ではトップクラスの攻撃力を誇る魔法だ。
その圧倒的氷結速度により、生き物が凍らされれば生きたまま凍ると言われている。
凍らされたと自覚できないのだ。
細胞レベルで。
とてつもなく巨大な氷山が出来上がり、それは先ほどと同じように砕け散り、消え去るが、少女はばつが悪そうな顔をして言った。
「……これ、黙っててね」
「……ん」
こんなとんでも魔法をどうして彼女が使えるのか、今ここで問いただしはしない。
多分だけど、自分から話してくれる、そんな気がしている。
そんな出来事から数分後、少女は突然私の手を掴んだ。
あまりにも突然だったので、私の体は強ばってしまったが、少女が残念そうな顔をしたので、罪悪感を感じた。
しかし、その罪悪感は一瞬で消し飛ぶ。
「……!?」
一瞬で、少女の背景が変わったのだ。
何が起こったのか、全く分からない。
すると、少女は言った。
これは魔法だと。
私を安心させようと焦っているのが少し面白かったが、それは口に出さない。
すると、また少女の顔は不安に染まった。
ここがどこか分からないのだ。
地図は、出発する際に少女のアイテムボックスに入っている。
そう言うと、少女は全てが解決したかのように自身に満ち溢れた顔になった。
数分後。
少女は地図をうんうんと頷きつつ見たあと、地図をしまった。
この短時間で分かったのだろうか。
そして、少女は言う。
「スヴェールはもうすぐそこっぽいね」
「……?」
スヴェール。
それは、タリシタンから馬車だとしても何日間かかかる距離である。
国としての距離はさほどでもないが、歩いていくとなるとまた別だ。
少女はあまり旅に慣れている様子もないし、休憩を取りたがっていたから、かなり旅は長くなるとくくっていた。
「スヴェール、ないね」
「……スヴェールは魔法で国を覆ってる。外壁から1kmまで近づかないとこちらからは見えない。逆は普通に見える」
「ほう」
さらに付け加えれば、スヴェールという国は動くのだ。
緊急事態以外は基本その場に留まっているが、いざ動き出すと、遠くからは見えないため、遠距離からの魔法は期待出来ない。
しかも、相手の位置を探ろうとすると、逆探知でこちらが一網打尽になる可能性がある。
が、この情報は今はいらないだろう。
なにせ、緊急事態ではないのだ。
しかし、少女はスヴェールという国の特徴を1つあげると、ニヤニヤとしだした。
……何か悪巧みでもしているのだろうか。
その直後、彼女は誰に言い聞かせるでもなく、そんなことより、と出発を合図した。
「わかった」
私にしては、珍しくすぐに返事できたと思う。
なんとか、距離感を縮められたらと思う。
せめて、心の中は、アイラと呼ぶことにしよう。
数分後。
城壁にたどり着いた。
国が現れた時、アイラは驚いていたが、何かあったのだろうか?
アイラの視線は突然現れた国に対してではなく、どこか気持ち悪いような顔をしていた。
壁を伝って城壁へとたどり着くと、かなり屈強な男が2人立っていた。
鈍く輝く鎧が、まるで筋肉のようだ。
左の男が、国を開いた。
「……身分証明書の提示」
「あっはい」
かなり低い声だが、聞き取れないわけではない。
アイラも同じような感想を持ったのか、反射的に反応してしまったが、言われた内容はあとから理解したような顔だった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
アイラは突然挙動不審になり、男に背を向け、自身のカードを確認しはじめた。
恐らくだが、自身の能力をどうするか考えているのだろう。
「おい、何をしている?」
男がそういうも、アイラはカードを見るのに一生懸命で、見向きもしない。
男が怪しいと思うのも仕方の無いことだった。
「……きさま、怪しいな。おい、報告しろ」
「あ、あぁ」
左の男が、右の男に指示を飛ばす。
報告とは、どこにするのだろうか。
いや、決まっているか。
この男達が所属しているところの上司にでも言うのだろう。
……どうしよう。
とはいえ、私があの2人と旅をしていた時は交渉は2人の役目だった。
私はそういうのが苦手だったのだ。
アイラがちらりとこちらを見る。
私には助けられない、という意味を込めて目線をそらす。
「ちょちょちょちょまま!」
「動くな!」
アイラが慌てて弁明しようとすると、男が手に持っていた武器でアイラを抑えにかかる。
無実を証明するのに何日かかるだろうか。
いや、もう牢獄に入れられてから出られないかもしれない……。
などと考えていると、アイラの目の前で一瞬にしてその武器は粉砕された。
見えなくても直感でわかる。
アイラがやった。
「なっ……きさま、何をする!」
「ち、違うんです!」
アイラはその後も弁明を続けていたが、門が開き、その奥にはさらに強そうな男達が数十人いた。
……せめて、アイラだけでもここから、と考えるには十分な状況だった。




