1 出発
「さぁ、いざ北へ!」
「……ん」
僕とサリナの2人は、先程まで滞在(2日間)していたタリシタンを出て、その北、スヴェールを目指した。
ちなみに、出発前に馬車を買わなかったのは理由がある。
徒歩だ。
「いやぁ、一度でいいからこういう道を歩いてみたかったんだよねぇ」
「……?」
まぁわからんだろうよ。
異世界から来たものの思考なんぞ。
はっはっは。
タリシタンを出てすぐの道は、意外にも舗装がされていたのだが、数分歩いていると、ここを往復するから道になった、と言った感じのような道が出てきた。
ぼけーっと歩いてると足を取られて転んでしまいそうな、そんな凹凸もある。
「これ、馬車で通るの無理くない?」
「……馬車は、馬と車の足に魔法がかかってる。多少の段差は乗り越えられる」
「なるほど」
車で言うサスペンションにでもなっているのだろうか。
ちょっと頭が悪かったからよく分からない。
魔法ってすごいなぁ、が限界だ。
今のところは。
「……一雨来るかな?」
「……雨?」
そんなことを考えていたら、空が曇ってきていることに気がついた。
その色はかなり黒い。空気も湿ってきたし、こりゃ降るか?
「……どうしてわかるの?」
「えっ?」
困った。
何度も言うが、僕は残念な頭しか持っていない。
感覚的に『降りそうだな』と思っても、それが何故かと問われれば『なんとなく』としか答えられない。
「……修行したんだよ」
「……なるほど」
なんとか捻り出した答えがこれ。
……アドリブよえー。
徒歩開始から約1時間。
「疲れた……休まない……?」
「……その調子で休んでたら7日かかる」
1週間……そんな食材ないな。多分。
どうしよう?
とりあえず、考えるために休もう。
「ほら、ちょうどあそこに大きな木があるし」
「……次はもう少し頑張って」
「あいあいさー」
木の根元まで走って、考えることに。
「……突然元気に」
そんな声が聞こえた気がしないでもないが、スルーだ。
木の陰に入り、背中を大木に預け座る。
さて、どうしようか。
「スキルで空間移動とか無いもんかねぇ」
アイテムボックスすら用意する女神様なのだ。
そのぐらいのものお茶の子さいさいだろうと勝手に思ってるのだが、どうだろうか。
身分証明書……もとい能力カードを取り出し、ひたすら見る。
「移動スキル……移動スキル……あった!」
やはり女神様は有能だった。
移動スキル、そして、空間スキル。
共にLv.10と表記があるので、ワープ的なことが出来ると思われる。
のだが。
「どうやって使うんだ……」
実は、パッシブスキル以外は使ったことがないことに今更気づいた。
スキル……スキル……。
「あ、そうだ」
分からないなら実際に使ってるのを見ればいいんだ。
サリナを見る。
携帯していたボトルで、水を飲んでいる。
はぁ、こういうシーンもまた……。
じゃないんだよ。
「ねぇ、サリナ」
「……?」
「スキル、使ってみてくれない?」
「……なんで?」
「……」
だよなぁ。
そもそも1人で暮らしてる(と外には思われているだろう)僕がスキルを使えませんなんて、冗談でも笑えないだろう。
しかし、そんなことも言ってはいられない。
「お願い!」
日本の伝統、DO☆GE☆ZAでどうだ。
地面に額を擦り付ける、僕の知る限り最上級のDO☆GE☆ZAだ。
……こちらの世界にも、土下座の概念はあるんだろうか。
「……わかった。1回だけ」
「やった!」
土下座の有無は分からないが、誠意は伝わったようだ。
サリナは立ち上がると、気を背に、何も無い方へ手のひらを向ける。
……何をするのだろうか。
「……何をしたらいい?」
……僕次第だったのか。
そうなると、何をしてもらうのがいいのだろう。
実際にスキルというものが使われるだけで十分だったのだが、こちらのオーダーが通ると言うのならば、何かいいスキルがあるのではと思う。
……移動スキル、使えるかな。
「移動スキルって」
「……使えない」
「……空間スキル」
「……使えないことはないけど、使っても分からないと思う」
「あぁ、そゆこと」
空間把握能力、と言った感じか。
自身を中心に、音の反射で周囲の立地を3D化して、頭の中で読み取る、そういう感じなのだろう。
……あってるのだろうか。
あってるのだとしたら、移動スキルは、空間スキルでわかる範囲までとなる。
「じゃあ……」
結局、スキルは何が使えるのか聞くことに。
サリナのスキル構成はこうだ。
剣スキル Lv.4
魔法スキル Lv.5
移動スキル Lv.5
空間スキル Lv.3
回復スキル Lv.6
耐性スキル Lv.5
旅スキル Lv.3
先日怪我したはずの肩がもう治っているのは、このスキルのLv.の高さが要因だろう。
だが、6でそれだけ治るのならば、10はどこまで治るのだろうか……。
腕とかくっついたりして。
……生き返りは、蘇生っぽいなぁ。
旅スキルが他と比べて低いのは何故だろう。
元メンバーの2人によれば、今までも旅をしていたはずなのだが。
さて、それはともかく。
「じゃあ、魔法を」
「……属性は」
「んー、得意なのでいいよ」
サリナはこくりと頷くと、目を閉じた。
……戦闘では閉じないで使えるのだろうか。
「『水魔法 アイスブレイク』」
手がぼんやりと青く光ったと思えば、サリナから10m離れたところで突然氷の小山が出現し、弾けた。
弾けた氷はすぐに溶けて消えたので、かき氷は作れなさそうだ。
「ふむふむ、なるほど」
こちらも集中してなんとかなりそうなものだろう。
空間スキルが周りの音を聞くように集中するのならば、魔法スキルは手に体のうちにある何かを集中させるような感覚だろう。
これで出来なかったら教えを請う。
練習開始から数分。
とあることに気づいた。
「これは……」
いざ魔法を使おうとすると、頭の中に魔法名が浮かぶのだ。
そして、思い描いたものに1番近い系統の術の名前が出てくる。
プロセスとしてはこうだ。
思考、魔法名検索、発動。
ちなみに。
「『水魔法 アイシクルブレイク』」
魔法名を言うと、数十m離れたところに巨大な氷山が出来た。
そして、数秒で弾け飛んだ。
大きさを日本で例えるなら、東京タワーなら余裕で全部凍らせることができそうだ。
「……」
「……」
ちなみに。
あまり魔法は使わない方がいいかもしれない。
多分だけど、Lv.10と言うのはスキル的にはカンストで、一般常識的な魔法が馬鹿みたいに強化されてしまうのだろう。
先程の『アイシクルブレイク』も、本当は『アイスブレイク』を使おうとしたのだ。
想像したものの中で最も強かったのが、先程使用した魔法なのだろうが、これは大変だ。
なにせ加減ができない。
例えば、『火を出したい』と思っても、そこら一帯を燃やし尽くしてしまうほどのものを出してしまうかもしれない。
……加減の練習をするためにも、学校には行かなきゃいけない。
「……これ、黙っててね」
「……ん」
突然巨大な氷を出してしまったせいで、タリシタンからさほど離れていなかったことが災いし、巨大な氷を見られていたようだ。
先程からビンビンと感じる……いわゆる感応スキルってやつか?
もう数分でここに人が来るだろう。
早くここを離れなければ。
「まずは、空間スキル……」
目を閉じ、周りを感じる方ような感覚。
すると、日本で見たような緑の線で構成された世界が現れた。
……なるほど。
しかし、これだとこっちの世界の地図を把握していないとどこからどこまでが国かわからん……
ええい!
「ここだぁ!」
適当に今いる場所からは北にポイントを取り、移動スキル発動。
「サリナの手を掴んで、っと」
「……っ」
何も言わずにいきなり掴んだためか、ビクンってされた。
……可愛いような、傷つくような。
そんなことを考えているうちに、サリナの後ろの背景が変わった。
……特になんも違和感も無し。
本当にどうなっているんだろうか、魔法とは。
サリナは相当焦っているようだ。
「……!?」
「あ、安心して、これは魔法だから!」
「……ま、魔法……?」
「う、うん」
「……ここどこ?」
「……わかんない」
そう、問題点が1つ。
ででん!
問題。
魔法を使ってワープした2人。
今現在、2人がいる場所は?
チッチッチッチッ
ぶぶー!
正解は……
「私にもわかんない……」
「……」
とにかく、地図が欲しい。
地図さえあれば、空間スキルと照らし合わせることが出来るはずだ。
「地図、ない?」
「……ある」
問題解決!
「……よし」
大体地図と空間スキルでの地図の照らし合わせは終わった。
空間スキルの緑の線は、縦と横、完全に90度のX軸とY軸のような感じだ。
X軸ごとにもY軸ごとにも、重なる点は1kmずつ離れている。
地図と照らし合わせたところが正しければ、ここは先程の大きな木のしたから10マス離れたところ。
10kmだ。
そして、肝心のスヴェールまでだが。
「スヴェールはもうすぐそこっぽいね」
「?」
現在地からそのまま北に進めば、スヴェール。
マス目は4……4kmだ。
4kmなら、もう国が見えてもおかしくないのだが、北を向いてもただの更地だ。
「スヴェール、ないね」
「……スヴェールは魔法で国を覆ってる。外壁から1kmまで近づかないとこちらからは見えない。逆は普通に見える」
「ほう」
なんて便利魔法だ。
それって人間に応用して、見える距離を1cmとかにしたら、ほぼ透明人間の完成だ。
「そうなったらノゾキ放題……いやまて。今の僕なら女湯にどうどうと……」
「?」
ま、まぁそんなことはどうでも良いのだ。
いきなり裸は刺激が強すぎる。
まずは水着か何かで慣れてから……。
「そんなとより、取り敢えず出発しましょう」
「わかった」
珍しく間を置かずに反応してくれた。
……これは喜ぶべきことなのだろうか。
よくわからん。
城門にいる2人の兵士……とても強そうだ。
鎧を全身に付けているはずなのに筋肉がすごいのが目にわかる。
まるで鎧が筋肉のような……いやまて。
暑くないのか?
「……身分証明書の提出」
「あっはい」
辛うじて聞き取れる低い声でそう言ったので、驚いてしまった。
とはいえ、また身分証明書か……。
そういえば、書換スキルみたいなのがないか探すの忘れてた。
……どうしよう?
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
めっちゃ強そうなおっさん2人に背を向けて身分証明書を取り出す。
お願いです女神様、書換スキルみたいなのください。
「……っ!」
ない。
どこを見ても、無い。
嘘をつくようなスキルは詐称スキルというものがパッシブにあったが、既に存在している物体に対して上書きするものは見当たらなかった。
……見落としてはいないと思うのだが。
「……」
「おい、何をしている?」
さすがに背を向け続けすぎたのか、左に立っていた男が声をかける。
その声は猜疑心でいっぱいだった。
「……きさま、怪しいな。おい、報告しろ」
「あ、あぁ」
それはまずい!
どうするどうする!
チラリとサリナを見ると、サリナは汗を垂らして目線を泳がせている。
助けは期待できそうにない。
とはいえまずは。
「ちょちょちょちょまま!」
「動くな!」
男が片手に持っていたハルバードらしきものをこちらに突き出してくる。
それにパッシブの反射スキルが勝手に反応したのか、ハルバードを瞬きした時には粉々にしていた。
……もちろん、僕の拳で。
「なっ……きさま、何をする!」
「ち、違うんです!」
大失敗である。




