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四霊との宴

悪霊騒動から三日。


六花は完全に寝込んでいた。



「六花、起きろ」



「むり……」



「昼じゃぞ」



「むり……」



「若いのに情けないの」



亀さんが呆れた声を出す。



ベッドの横では鳳ちゃんが腕――いや翼を組んでいた。



「だから言っただろう」



「無茶をするなと」



「だって放っておけなかったんだもん……」



六花が布団の中から抗議する。



しかし声に元気はない。



あの日。


六花はほぼ限界まで力を使った。



悪霊は祓えた。



だが代償も大きい。



体力も。


霊力も。


ほぼ空っぽ。



鳳ちゃんと亀さんがいなければ、もっと長く寝込んでいただろう。



「お主は自分を大事にせん」



鳳ちゃんが呟く。



六花は苦笑した。



「してるよ?」



「しておらん」



即答だった。



「してる」



「してない」



「してる」



いつものやり取り。



少しだけ部屋の空気が柔らかくなる。



その時だった。



窓の外から風が吹く。



ふわり。



カーテンが揺れた。



鳳ちゃんが顔を上げる。



亀さんも気付く。



「来たか」



次の瞬間。



ベランダへ黒い影が舞い降りた。



細長い身体。



艶やかな黒い鱗。



金色の瞳。



小さな龍。



応龍。



いや。



六花にとっては。



龍さん。



「来たぞ」



六花が嬉しそうに手を振る。



応龍さんは静かに部屋へ入った。



相変わらず堂々としている。



小さいのに。



妙に威厳がある。



六花はベッドの上で身体を起こした。



少しだけ真面目な顔になる。



「ねぇ、応龍さん」



「なんだ」



「応龍さんは」



六花は迷いながら続けた。



「私の全力が知りたかったの?」



部屋が静かになる。



鳳ちゃんも。


亀さんも。


黙って聞いていた。



龍さんは少しだけ目を細める。



「そうだ」



否定しなかった。



「限界を知らなければ」



「力の加減は分からぬ」



「限界を知ることで」



「どこまで伸ばせるかも分かる」



六花は静かに聞いていた。



応龍さんは続ける。



「お前は未熟だ」



「うん」



「危うい」



「うん」



「優しすぎる」



「……それは褒めてる?」



「褒めておらん」



「えぇ」



鳳ちゃんが吹き出した。



亀さんも笑う。



応龍さんは真面目なままだった。



「だからこそ」



「自分の力を知る必要があった」



六花は少し考える。



そして。



にこっと笑った。



「そっか」



「ありがとう」



応龍さんは目を瞬いた。



怒られないのか。



責められないのか。



そんな顔だった。



六花は続ける。



「龍さん」



「……龍さん?」



「応龍さんだと肩苦しいから」



六花は笑う。



「龍さん」



部屋が静かになった。



鳳ちゃん。



亀さん。



二人とも目を逸らした。



笑いを堪えている。



龍さんだけが固まっていた。



何千年。



龍神として生きてきた。



応龍。



龍王。



天を翔ける神獣。



それが。



龍さん。



「……」



「嫌だった?」



六花が少し不安そうに尋ねる。



龍さんはしばらく黙り。



やがて。



「良かろう」



そう答えた。



六花は嬉しそうに笑った。



その笑顔を見て。



龍さんは小さく息を吐く。



なるほど。



鳳凰も。



霊亀も。



麒麟も。



抗えないはずだ。



この少女は。



心の壁を作らない。



だから気付けば。



こちらが心を開いてしまう。



「龍さんも社に行くの?」



六花が尋ねた。



「行く」



「そっか」



「だが」



龍さんは続ける。



「たまには会いに来よう」



その言葉に。



六花の顔がぱっと明るくなる。



「本当?」



「ああ」



「やった!」



そして。



次の瞬間。



六花はとんでもないことを言った。



「じゃあ全員揃ったパーティしよう!」



四霊が固まる。



「……何?」



鳳ちゃん。



「ぱーてぃ?」



亀さん。



「全員揃ったパーティ!」



六花は楽しそうに説明する。



「鳳ちゃん!」



「うむ」



「亀さん!」



「うむ」



「麒麟さん!」



「うむ?」



「龍さん!」



「……うむ」



「四霊全員と会えたから!」



六花は満面の笑みで言う。



「お祝いしたい!」



沈黙。



しばらく沈黙。



四霊達は顔を見合わせた。



何百年。



何千年。



共に在った。



だが。



祝われたことはない。



集まる理由はいつも。



戦い。



災厄。



神事。



そんなものばかりだった。



だから。



「全員揃ったからお祝いしよう」



そんな発想が無かった。



鳳ちゃんは思う。



この子は本当に優しい。



霊亀は思う。



未来が読めなくなる理由が分かる。



麒麟は遠い社で思う。



また呼ばれるのだろうな。



少し楽しみだ。



龍さんは思う。



面白い娘だ。



本当に。



数日後。



有言実行。



六花の部屋。



テーブルいっぱいの料理。



ケーキ。



お菓子。



ジュース。酒。



そして。



鳳ちゃん。



亀さん。



麒麟さん。



龍さん。



四霊勢揃い。



六花は嬉しそうにグラスを掲げた。



「出会ってくれてありがとう!」



「これからもよろしくね!」



四霊達は少しだけ驚き。



そして。



穏やかに笑った。



誰も口には出さなかった。



だが全員同じことを思っていた。



長い時を生きてきた。



けれど。



こんなに温かい宴は初めてだ、と。



そしてこの時。



四霊達はまだ知らない。



六花を巡る運命が。



静かに動き始めていることを。



遠くから。



四つの神気が近付いていることを。



東。



西。



南。



北。



四神の継承者達が。


桜庭六花という少女へ向かい始めていた。

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