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最後の四霊

麒麟と出会ってから、季節は少しずつ移り変わっていった。



六花の生活は以前よりずっと穏やかだった。



大学へ行く。


友人と笑う。


バイトへ行く。


家に帰る。



そして。



鳳ちゃん。


亀さん。


時々遊びに来る麒麟さん。



気付けば、それが当たり前になっていた。



修練も続けている。



呼吸法。


結界。


力の流れ。


邪気の払い方。



以前よりも力の扱いは上手くなっていた。



だから。



最初は気のせいだと思った。



「最近疲れるなぁ……」



大学の講義中。


六花はぼんやりと窓の外を見る。



身体が重い。



頭も少し痛い。



それだけならまだ良かった。



問題は友人達だった。



「ごめん六花、今日休む」



「風邪?」



「分かんない……ずっとだるくて」



一人。



また一人。



体調を崩していく。



バイト先でも同じだった。



「最近体調悪い人多いよね」



店長まで倒れた。



何かがおかしい。



六花はそう感じ始めていた。



そして。



ある日の夕方。



大学からの帰り道。



ふと視界の端に黒いものが映った。



「……っ!」



思わず立ち止まる。



友人の肩。



そこにいた。



黒い影。



人の形をしているようで。



していない。



濁った塊。



まとわりつく悪意。



「何……あれ……」



ぞくりと背筋が震える。



しかも一つではない。



周囲を見れば。



あちこちにいる。



学生。



会社員。



老人。



誰かに憑いている。



その数は異常だった。



六花は急いで帰宅した。



「鳳ちゃん!」



扉を開けるなり叫ぶ。



鳳ちゃんが飛び起きる。



「どうした」



「亀さんも!」



亀さんも顔を出した。



「何事じゃ」



六花は息を整えながら説明する。



二人の表情が変わった。



真剣な顔。



鳳ちゃんが静かに呟く。



「悪霊だな」



「しかも質が悪い」



亀さんも続ける。



「怨念が混じっておる」



「祓える?」



六花の問い。



鳳ちゃんは少し考える。



「難しい」



「だが不可能ではない」



「六花」



亀さんが言う。



「お主の力が必要じゃ」



六花は頷いた。



迷わなかった。



苦しんでいる人達を放っておけない。



それが六花だった。



その夜。



三人は悪霊を追った。



想像以上だった。



一つ祓う。



また現れる。



二つ祓う。



まだいる。



六花の額に汗が滲む。



身体が重い。



力が削られていく。



それでも。



最後の一体を祓い終えた時。



黒い影は消えた。



静寂。



六花はその場に膝をつく。



「はぁ……っ……」



息が苦しい。



視界が揺れる。



鳳ちゃんが慌てて飛んでくる。



「無茶をしたな」



「だい……じょうぶ……」



全然大丈夫ではなかった。



その時。



「ほう」



聞き慣れない声。



低く。



落ち着いていて。



どこか威厳がある。



六花が顔を上げる。



そこにいた。



月明かりの中。



1頭の龍。



体長30cmくらいの東洋龍



金色の瞳。



黒い鱗 長い髭



まるで神話から抜け出してきたような存在。



鳳ちゃんと亀さんの顔色が変わる。



「……応龍」



鳳ちゃんが低く呟く。



応龍は微笑む。



「久しいな」



「お主」



亀さんの声が険しくなる。



「試したのだな?」



応龍は否定しなかった。



「力を発揮せねば」



静かな声。



「この子の為にはならぬだろう」



鳳ちゃんの目が細くなる。



「周りを巻き込むでない」



「六花がやつれてしまうだろう」



「全力を見たかったのだ」



応龍は六花を見る。



真っ直ぐに。



「力量を知らねば、この子は潰れてしまう」



「その為に我らがおったのじゃ!」



亀さんが珍しく怒鳴る。



「余計な力を使わせたら!」



「過保護だ」



応龍は平然としている。



「力は使わねば育たぬ」



「だからと言って!」



「もう」



六花の声が割って入る。



三柱が同時に振り返る。



「もうやめて」



疲れ切った声だった。



それでも。



優しい声。



「喧嘩しないで」



鳳ちゃんも。



亀さんも。



応龍も。



黙る。



六花はふらつきながら立ち上がった。



そして応龍を見る。



「応龍さん?」



応龍が目を見開く。



六花は続けた。



「四霊の一柱なんだよね?」



「そうだ」



「そっか」



六花は少し笑った。



「心配かけました」



応龍は言葉を失った。



怒られると思っていた。



責められると思っていた。



だが。



この少女は違う。



まず謝った。



自分が疲れているのに。



周りを気遣った。



応龍は初めて理解する。


鳳凰が。



霊亀が。



麒麟が。



なぜ六花の傍にいるのか。



そして。



何となく感じた思い。


「……変わった娘だな」



六花は笑う。



「よく言われる」



鳳ちゃんが吹き出した。



亀さんも笑う。



応龍も。



ほんの少しだけ口元を緩めた。



こうして。



最後の四霊。



応龍



ついに六花の前へ姿を現した。



そして知らず知らずのうちに、


六花の周りには――


鳳凰、霊亀、麒麟、応龍。


四霊すべてが揃うことになる。


それがどれほど異常で、どれほど特別なことなのか。


まだ六花は知らない…

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