表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/34

麒麟の想い

麒麟が現れた夜。


六花の部屋には、いつもより少しだけ賑やかな空気が流れていた。



窓から差し込む月明かり。



机の上には鳳ちゃん。



クッションの上には亀さん。



そして。



窓辺には麒麟。



神々しい獣の姿で静かに座っている。



初めて会ったはずなのに。


なぜだろう。



不思議と緊張しない。



むしろ。


昔から知っていた人のような安心感があった。



しばらく六花と話した後。


麒麟は鳳ちゃんと亀さんへ視線を向けた。



「で」



静かな声。



「そなたらはいつまでここにおるつもりじゃ」



鳳ちゃんが首を傾げる。



「何がだ」



「決まっておろう」



麒麟はため息をついた。



「社じゃ」



空気が少し変わる。



「そなたらの社はどうするつもりだ」



六花は瞬きをした。



「社?」



鳳ちゃんは答える。



「まだこの子の傍におるつもりじゃ」



「ほう」



「力を扱うのがまだ未熟だからな」



鳳ちゃんの視線が六花へ向く。



「放っておけば無茶をする」



「してないよ?」



「しておる」



即答だった。



六花は口を閉じる。



少し心当たりがあった。



鳳ちゃんは続ける。



「それに……」



珍しく言葉を選ぶ。



「この子の傍は楽しいのでな」



六花が目を丸くした。



鳳ちゃんがそんなことを言うとは思わなかった。



亀さんも頷く。



「社に関しては問題ない」



「眷属達が上手く立ち回っておる」



「時折戻って様子も見ておるしな」



麒麟は二人を見つめる。



長い付き合いだ。



鳳凰も。


霊亀も。



本来なら一箇所に留まるような存在ではない。



それなのに。



今は六花の部屋でくつろいでいる。



まるで。



家族のように。



「……はぁ」



麒麟は深いため息をついた。



「そなたらは甘い」



「そうか?」



「そうじゃ」



即答だった。



鳳ちゃんと亀さんは顔を見合わせる。



六花には分からない。



だが麒麟には見えていた。



鳳凰も。


霊亀も。



既に六花を大切に思い始めている。



だから甘い。



とても。



「六花の力はまだまだ未熟だ」



麒麟は六花を見る。



優しいが真剣な眼差し。



「そなたらがおらねば危うい場面もある」



鳳ちゃんが静かに目を細めた。



「……視えているのだろう?」



麒麟の問い。



向けられた先は霊亀。



未来を見る神獣。



霊亀はしばらく黙る。



そして。



「……まぁ」



小さく笑った。



「まだ何とも言えんがな」



六花だけが事情を理解していない。



「?」



「何の話?」



三柱は答えない。



代わりに麒麟が近づいてくる。



「六花」



「うん?」



「修練を続けるのじゃ」



六花は頷く。



「鳳凰や霊亀と共にな」



「うん」



「お主の力は特別じゃ」



麒麟の瞳が少し鋭くなる。



「ゆえに」



「お主の力を欲する者もいる」



六花は息を飲んだ。



鳳ちゃんからも聞いていた。



けれど。



麒麟の口から言われると重みが違う。



「だから見極めるのじゃ」



「見極める?」



「善き者か」



「悪しき者か」



「利用しようとしているのか」



「本当に助けようとしているのか」



六花は静かに聞く。



麒麟は続ける。



「お主にはその力がある」



「だからこそ磨くのじゃ」



六花は少し考えた。



そして。



笑った。



「分かった」



「頑張る」



その返事に。



麒麟は満足そうに目を細めた。



無理だとは言わない。



逃げようともしない。



それが六花だった。



しばらくして。



麒麟は立ち上がる。



帰る時間だ。



「もう行くの?」



六花が少し残念そうに言った。



麒麟は微かに笑う。



「社があるのでな」



「そっか」



六花は少しだけ考え。



にこりと笑った。



「麒麟さん」



「なんじゃ?」



「ありがとう」



麒麟は首を傾げる。



「何がじゃ」



「会いに来てくれて」



六花は本当に嬉しそうだった。



「また夜じゃない時に来てね」



「鳳ちゃんも亀さんもいるし」



「みんなでご飯食べよう」



一瞬。



麒麟は言葉を失った。



何百年。



何千年。



生きてきた。



だが。



自分を神獣としてではなく。



ただ会いに来た友人のように誘う人間は初めてだった。



思わず笑みがこぼれる。



「ふっ」



「本当に不思議な子じゃ」



六花は首を傾げる。



「そうかな?」



「そうじゃ」



麒麟は静かに頷いた。



「また会いに来よう」



「うん!」



次の瞬間。



月明かりの中へ溶けるように。



麒麟の姿が消えていく。



静寂が戻る。



六花は窓の外を見つめた。



「優しい人だったね」



鳳ちゃんが頷く。



「そうだな」



亀さんも笑う。



「少々真面目すぎるがの」



「そう?」



「そうじゃ」



三人はしばらく笑い合った。



その頃。



遠く離れた山の神域。



麒麟は本来の社へ戻っていた。



眷属達が頭を下げる。



だが麒麟の意識は別の場所にあった。



六花。



桜庭六花。



優しくて。



強くて。



少し危なっかしい少女。



「なるほどな」



麒麟は夜空を見上げる。



鳳凰と霊亀が傍を離れない理由が分かった。



そして。



未来は静かに動き始めていた。



まだ六花の知らないところで。



四霊最後の一柱。



応龍



最も強大な龍神もまた、


六花という少女の存在を知ろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ