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夜の訪問者

鳳ちゃんと亀さんが家に来てから、一か月が過ぎた。



六花の日常は大きく変わった。



大学へ行く。


友達と話す。


講義を受ける。


バイトをする。


帰宅する。



そして家には。


鳳ちゃんと亀さんがいる。



最初は不思議だった。


けれど今では、それが当たり前になっている。



「六花、呼吸が乱れているぞ」



「昨日レポート終わらせるのに夜更かししたから」



「寝ろ」



「うぅ……」



鳳ちゃんに怒られる。



「若いのだから多少は無理をしてもよい」



「亀さんは甘い」



「経験談じゃ」



「説得力あるなぁ」



そんな他愛ない会話。



昔は一人だった部屋が。


今は少し賑やかだった。



六花自身も驚いていた。



誰かと話すだけで。


こんなにも心が軽くなるなんて。



昔から人ならざるものは見えていた。



でも。


話せたことは少ない。



話せても長く関わることはなかった。



だから。


鳳ちゃんと亀さんとの日々は特別だった。



家族みたいだな。



最近よくそう思う。



その夜。



六花は眠っていた。



静かな夜だった。



なのに。



ぱちり。



突然目が覚める。



「……っ」



胸がざわつく。



何かいる。



誰かが呼んでいる。



そんな感覚。



六花は布団の上で身体を起こした。



窓の外。



部屋の隅。



何もいない。



なのに。



強い力だけがある。



「……?」



六花は周囲を見渡す。



いるのは。



鳳ちゃん。



亀さん。



だけ。



でも違う。



この気配は二人ではない。



もっと大きい。



もっと神聖で。



どこか優しい。



「……鳳ちゃん」



小さく呼ぶ。



「亀さん」



その瞬間。



鳳ちゃんが目を開いた。



亀さんもゆっくり顔を上げる。



二人とも既に気付いていたらしい。



「大丈夫だ」



鳳ちゃんが言う。



「悪い奴ではない」



亀さんも頷く。



「落ち着きなさい」



そして。



「悪いのは麒麟だ」



「え?」



六花が瞬きをする。



「き、麒麟?」



鳳ちゃんが天井を見上げる。



「挨拶もせずに力を出すな」



亀さんも呆れたように言う。



「姿を見せろ」



「普通に会いに来ればよかろうに」



しばらく沈黙。



すると。



部屋の空気が揺れた。



まるで月明かりが形を持ったみたいに。



白銀の光が集まる。



そして。



「……普通では面白くないと思ってな」



穏やかな声。



「インパクトを残そうとしたまでだ」



六花の目の前に現れたのは。



一頭の美しい獣だった。



馬に似ている。



けれど違う。



金色の角。



長い銀色のたてがみ。



神秘的な瞳。



見た瞬間。



ああ。



この存在は優しい。



六花はそう感じた。



麒麟は申し訳なさそうに頭を下げる。



「すまなかった」



「え?」



「そちを驚かそうと思っただけなのだ」



「サプライズじゃな」



亀さんが呟く。



「失敗したがの」



「……」



麒麟が少しだけ気まずそうな顔をした。



六花は思わず笑う。



「大丈夫」



「本当に?」



「うん」



怖くはなかった。



むしろ。



どこか懐かしい気がした。



「あなたは」



六花が尋ねる。



「鳳ちゃんと亀さんの仲間なの?」



麒麟は目を細めた。



優しい笑み。



「そうじゃ」



一歩近付く。



「我は四霊が一柱」



「麒麟」



六花の目が輝く。



「四霊!」



「また増えた!」



「また増えたとは」



麒麟が苦笑する。



「だって鳳ちゃんと亀さんも四霊だもん」



「そうじゃな」



麒麟は鳳ちゃんを見る。



そして亀さんを見る。



「気の難しい二人が」



「……」



「……」



本人達は無言。



「随分居心地良さそうにしているのでな」



麒麟は六花へ視線を向ける。



「気になって来てみたのじゃ」



六花は少し照れた。



「居心地いいかな?」



「良い」



鳳ちゃんが即答する。



「良いの」



亀さんも続く。



六花は思わず笑った。



その笑顔を見て。



麒麟は静かに思う。



なるほど。



これは気になる。



鳳凰も。



霊亀も。



惹かれるはずだ。



この少女は。



特別な力を持っているからではない。



優しいから。



誰かを助けることを。



当たり前だと思っているから。



その夜。



六花は知らない。



麒麟が。



四霊の中で最も人間を見る目が厳しい存在だということを。



そして。



その麒麟が。



既に六花を気に入り始めていることを。



窓の外では。



春の夜風が静かに吹いていた。



こうして。



六花の家族は。



また一人。


増える…かもしれない

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