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新しい未来へと

第二章 六花の未来


長かったような。


それとも、あまりにも怒涛すぎて、振り返る暇さえなかったような。


そんな日々が終わってから、数ヶ月が経っていた。


春の風が、大学の構内をゆっくりと吹き抜けていく。


桜の花びらが舞う中、桜庭六花は一人、少しだけ重たい鞄を肩に掛けて歩いていた。


その中に入っているのは、大学の講義資料と、何枚かのエントリーシート。


そして、就職活動用に買ったばかりのノート。


「……さて、どうしようかなー」


歩きながら、六花は小さく呟いた。


大学四年生。


周囲では、すでに内定をもらった友人もいる。


説明会へ何社も足を運んでいる人。


資格取得に励んでいる人。


公務員試験に向けて勉強している人。


それぞれが少しずつ、自分の未来を決め始めている。


けれど六花は、まだその「未来」が見えていなかった。


「自分に向いてる仕事……かぁ」


これまでの人生で、こんなことを真剣に考えたことがあっただろうか。


大学へ進学して、講義を受けて。


居酒屋でアルバイトをして。


四霊たちと出会って。


悪霊事件に巻き込まれて。


千年前の巫女――桜の記憶に触れて。


そして、朧との戦い。


思い返してみれば、普通の大学生とは到底言えない毎日だった。


それでも。


六花は今、普通に大学へ向かっている。


普通に就職活動をして。


普通に卒業して。


普通に働いて。


普通に誰かと笑って。


そんな未来を想像していた。


「……普通って、案外難しいなぁ」


六花は苦笑した。


その時。


「六花ー!」


聞き慣れた声がした。


振り返る。


そこには、手を振りながら駆け寄ってくる女性の姿。


「あやめ!」


六花の表情がぱっと明るくなる。


「おはよ!」


「おはよう。就活、進んでる?」


あやめは六花の隣に並びながら尋ねた。


「んー……」


六花は少し考えてから、


「まだ何も(笑)」


と答えた。


「え?」


「エントリーシートを書いてるだけ。説明会とかも行ってるけど……」


六花はノートを見ながら苦笑する。


「やりたいこととか、向いてることとか、全然わかんなくて」


その言葉を聞いて、あやめは少しだけ考える。


「うーん……」


そして、六花の顔を覗き込んだ。


「六花なら、コミュ力あるから接客業とかいい気もするけどなー」


「そう?」


「うん。人と話すの好きでしょ?」


「好きだけど……」


六花は首を傾げる。


「どれもピンとくるものがなくて」


本当に、わからなかった。


「これがやりたい」


というものがない。


昔なら、それを焦っていたかもしれない。


でも今は、不思議と焦りだけではなかった。


自分の人生を、自分で選ぶ。


それが思っていた以上に難しいだけなのだ。


「あ、じゃあさ」


突然、あやめが楽しそうな顔をする。


「永久就職とかは?」


「……は?」


六花が足を止める。


「あやめ……」


「冗談、冗談(笑)」


「あやめじゃあるまいし。まず相手がいないよ」


「えー?」


あやめは楽しそうに笑う。


「最近、神宮寺君とか宮原君とかと仲良いじゃん」


「えっ?」


六花の顔が少しだけ引きつる。


「違う違う!」


慌てて手を振る。


「あの二人とは、ちょっとした仲間意識って感じだし」


「ふーん?」


「本当に!」


「好意はない?」


「ないよ」


六花は即答した。


「というか、あっちだってそう思ってるよー」


そう言って笑う。


その言葉に、あやめは何も返さなかった。


ただ。


ほんの少しだけ、六花の横顔を見つめる。


六花本人は、まだ気付いていない。


自分がどれだけ周囲から大切に思われているのか。


そして――。


その「仲間意識」と呼んでいるものが、果たして本当にそれだけなのか。


あやめには、まだわからなかった。


「ほら、ゼミ遅れるよ」


「やばっ!」


二人は笑いながら、大学の廊下を駆けていく。


その姿は、どこにでもいる大学生そのものだった。


――しかし。


同じ頃。


六花とは全く違う「未来」を背負う者たちも、動いていた。

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