表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/40

四霊達の過去~守れなかった命

夜空を覆う雲は黒く染まり、風は泣くような音を立てていた。


「もう終わらぬ……!」


鳳凰が炎を放つ。


浄化の炎が悪霊を包み、一瞬で灰へ変えていく。


だが、その直後。


別の場所から新たな邪気が溢れ出した。


「またか……!」


麒麟が歯を食いしばる。


光の神気で悪霊を斬り裂いても、すぐに次の悪霊が現れる。


霊亀は大地へ神気を流し込み、土地そのものを浄化していく。


応龍は天へ舞い上がり、龍脈を正して邪気の流れを断ち切る。


しかし。


減らない。


どれだけ祓っても。


終わらない。


鳳凰が拳を握る。


「何故だ……。」


応龍は空を睨む。


「……神力。」


短く呟く。


「誰かが神の力で悪霊を生み出している。」


霊亀の顔色が変わる。


「まさか……。」


四霊の脳裏に、一人の男が浮かんだ。


天王寺。



その頃。


結界の中では。


桜が静かに横たわっていた。


四霊が張った結界は、外からの邪気を完全に遮断している。


だからこそ。


結界越しに四霊達の神気が分かった。


(鳳凰……。)


(亀さん……。)


(麒麟さん……。)


(龍さん……。)


神気が激しく揺れている。


苦戦している。


必死に戦っている。


その様子が、結界越しにも伝わってきた。


桜はゆっくり目を閉じる。


(みんな……。)


(私を守るために。)


(こんなに頑張ってる。)


涙が一粒だけ零れた。


「……嫌。」


小さく呟く。


「私は。」


「みんなに傷付いてほしくない。」


立ち上がろうとする。


身体は言うことを聞かない。


霊力はほとんど残っていない。


指先さえ震えている。


それでも。


桜は御幣を握った。


「最後くらい。」


「私が……。」


ゆっくりと立ち上がる。


結界の中心へ歩く。


神社全体へ神気を巡らせる。


空気が静まり返った。


桜は静かに微笑む。


「みんな。」


「今までありがとう。」


「私、とても幸せだったよ。」


祝詞を唱え始める。


その声は弱い。


けれど。


どこまでも澄んでいた。


桜の身体から、柔らかな光が溢れ始める。


それは神社を越え。


山を越え。


村を越え。


国中へ広がっていく。


優しい春風のような光。


光は一体一体の悪霊へ触れる。


苦しそうに暴れていた悪霊達が、次々と穏やかな表情へ変わる。


「ありがとう。」


そう呟くように。


光となって天へ還っていく。


何百。


何千。


数え切れない悪霊が。


一瞬で浄化された。



「……消えた?」


麒麟が立ち止まる。


鳳凰も炎を消した。


「邪気が……。」


応龍が空を見上げる。


そこには。


桜の神気が空一面へ広がっていた。


鳳凰の顔色が変わる。


「桜!!」


四霊は同時に神社へ飛ぶ。


嫌な予感しかしなかった。



神社へ戻る。


境内には、静寂だけが残っていた。


桜は本殿の前へ座っていた。


まるで四霊の帰りを待っていたように。


鳳凰が駆け寄る。


「桜!」


桜はゆっくり目を開ける。


その瞳は霞んでいた。


もう視界はほとんど見えていない。


それでも。


四霊の気配だけは分かった。


「……おかえり。」


その一言に。


四霊は胸が締め付けられる。


霊亀が震える声で言う。


「何をした……。」


桜は少し困ったように笑う。


「みんなが苦しそうだったから。」


「私なら。」


「終わらせられるかなって。」


麒麟が首を横に振る。


「馬鹿者……。」


「何故待たなかった。」


「何故我らを信じなんだ。」


桜は優しく微笑む。


「信じてたよ。」


「だから。」


「みんなには生きていてほしかった。」


応龍は黙ったままだった。


握った拳から血が滲むほど力を込めている。


桜は四霊を一人ずつ見つめる。


「……ごめんね。」


「これ以上。」


「私のために頑張ってほしくなかったの。」


「私は。」


「みんなと一緒にいたかっただけ。」


「今まで……ありがとう。」


その笑顔は。


初めて出会った日と同じだった。


優しく。


暖かく。


どこまでも穏やかだった。


そして。


桜の手から御幣が落ちる。


小さな音だけが響いた。


身体から神気が消えていく。


静かに。


本当に静かに。


桜は旅立った。


「……桜?」


鳳凰が呼ぶ。


返事はない。


「桜。」


霊亀も呼ぶ。


答えない。


麒麟はその場へ膝をついた。


「嫌じゃ……。」


応龍は桜の肩へ手を置く。


冷たい。


「……遅かった。」


その一言だけが漏れた。


四霊は誰一人として涙を止められなかった。


神獣である彼らが、初めて人間の死を前に声を上げて泣いた夜だった。



その時だった。


「桜さん!!」


神社へ駆け込んできた天王寺は、動かない桜を見た瞬間、その場へ崩れ落ちた。


「そんな……。」


「嘘だ……。」


桜を抱き起こそうとする。


しかし鳳凰がその腕を掴んだ。


「触れるな。」


その低い声に、天王寺は鳳凰を睨みつける。


「離せ!」


「桜さんを返せ!」


「お前たちが守ると言っただろう!」


「何故死なせた!」


神力が暴走する。


大地が揺れ、神社の柱が軋む。


邪気が再び溢れ始める。


「いい加減にしろ。」


鳳凰の声が境内へ響いた。


「貴様は何を考えておる。」


霊亀の瞳には怒りと悲しみが入り混じっていた。


「暴れることしか出来ぬ神主など、いらぬ。」


麒麟が静かに言い放つ。


応龍が天王寺の前へ立つ。


黄金の龍気が静かに立ち昇る。


「お主の力を使えないようにする。」


四霊の神気が一つになった。


炎、大地、光、龍脈。


四つの神威は巨大な封印となり、天王寺の神力を包み込む。


右手から神気が抜け落ちていく。


「やめろ!」


「これは桜さんを守るための力だ!」


「違う。」


鳳凰は静かに首を振る。


「その力は、桜を死へ追いやった。」


天王寺は言葉を失った。


膝から崩れ落ちる。


神職として受け継いできた力は、その日、完全に封じられた。


その瞬間から、天王寺家は長い衰退の道を歩み始めることになる。


そして、その様子を誰にも気付かれぬ場所から見つめる一つの影があった。


朧。


その口元には、ゆっくりと笑みが浮かぶ。


「そうだ。」


「その憎しみを忘れるな。」


「四霊を恨め。」


「世界を恨め。」


「いつの日か……その想いを受け継ぐ者が現れる。」


朧は闇へと溶けていく。


その悪意は、天王寺家の血とともに、何世代にもわたり静かに受け継がれていくことになる。


それが、千年後――六花と天王寺遥が再び出会う運命へと繋がる、長い因縁の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ