小さな亀との出会い
亀さんとの出会い
鳳ちゃんと暮らし始めて、一か月ほどが過ぎた。
生活は驚くほど変わった。
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朝起きるのが楽になった。
授業中に頭痛がしなくなった。
バイトが終わっても倒れ込まなくなった。
休日を寝て過ごすことも減った。
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何より。
世界が静かになった。
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見えるものは相変わらず見える。
神様も。
妖怪も。
霊も。
だけど以前のように四六時中まとわりつかれることがなくなった。
鳳ちゃんから教わった呼吸法と力の流し方が効いているらしい。
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「鳳ちゃん、ありがとう!」
大学から帰宅した六花は、肩に乗っている小鳥へ満面の笑みを向けた。
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「おかげで疲れにくくなったよ!」
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鳳ちゃんは机の上に降り立つ。
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「うむ。だいぶ良くなったようだな」
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「視える方は何とかなってたけどさ」
六花は麦茶を飲みながら続ける。
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「疲れに関しては何も分かんなかったから」
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「お主、自分の力が分かってなかったのか?」
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「力?」
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六花は首を傾げた。
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「視えるだけでしょ?」
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「違う」
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「祓いの力とか?」
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「ある」
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「いやいや」
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六花は笑った。
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「ないない」
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鳳ちゃんは深々とため息を吐いた。
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「……誰かから聞いたりしなかったのか?」
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「聞いたことないなぁ」
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六花は少し考える。
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「うちの家系にそういう人はいないみたいだし」
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「ふむ」
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「小さい頃はね」
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六花は少しだけ寂しそうに笑った。
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「テレビの見過ぎ」
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「寝ぼけてる」
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「変な子」
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「そんな感じだった」
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鳳ちゃんは黙った。
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「だから途中で話すのやめた」
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六花は肩を竦める。
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「どうせ信じてもらえないし」
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「……」
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鳳ちゃんは静かに六花を見つめる。
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今までどれほど一人だったのか。
少しだけ想像できてしまった。
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「六花」
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「ん?」
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「お主には巫女としての力が備わっている」
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「巫女?」
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「だから人ならざるものが見える」
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「ふーん」
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「だから人ならざるものが寄ってくる」
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「へぇー」
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「だから狙われる」
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「なるほど」
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鳳ちゃんは少し驚く。
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普通なら怖がる。
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だが六花は違った。
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「だからかな」
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「?」
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「善い人か悪い人か」
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「なんとなく分かるの」
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鳳ちゃんの目が細くなる。
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「そうであろうな」
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「やっぱり?」
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「力の一端だ」
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六花は少しだけ考え込んだ。
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そして笑う。
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「でも良かった」
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「何がだ」
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「理由が分かったから」
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昔からの疑問。
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生きづらさ。
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全部ではない。
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でも少しだけ答えが見えた。
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「で?」
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鳳ちゃんが問う。
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「どうする」
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「?」
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「修練だ」
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六花の力を見ながら言う。
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「続ければもっと楽になる」
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「うん」
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六花は即答した。
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「続ける」
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鳳ちゃんは少し驚く。
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「せっかく鳳ちゃんに教わって楽になったんだもん」
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当たり前のように言う。
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「続けるよ」
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鳳ちゃんは小さく笑った。
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「そうか」
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初めてだった。
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利用も崇拝もせず。
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ただ隣にいてくれる人間。
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鳳ちゃんの胸に。
少し温かいものが灯った。
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数日後。
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その日は大学の講義が長引いた。
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夕方。
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帰り道。
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六花は足を止める。
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「……?」
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何かを感じた。
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強い力。
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神社でもない。
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妖怪でもない。
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でも。
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不思議と嫌な感じがしない。
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むしろ。
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助けを求めているような。
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そんな感覚。
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「鳳ちゃん」
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肩の上で鳳ちゃんも目を細めた。
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「感じるか」
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「うん」
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「行くのか?」
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「行かなきゃ駄目な気がする」
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鳳ちゃんは止めなかった。
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六花はその感覚を辿る。
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住宅街を抜け。
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小さな神社の裏へ。
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そこで見つけた。
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「……亀?」
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苔むした石垣の陰。
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小さな亀がいた。
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手のひらに乗るほど小さい。
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黒い甲羅。
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金色の瞳。
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だが。
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弱っている。
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呼吸も浅い。
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「また?」
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思わず呟く。
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鳳ちゃんが横で苦い顔をする。
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「まさか」
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六花はしゃがみ込む。
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「大丈夫?」
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亀はゆっくり目を開いた。
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そして。
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じっと六花を見る。
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まるで。
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探していたものを見つけたかのように。
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六花はそっと両手ですくい上げた。
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「とりあえず帰ろう」
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鳳ちゃんは空を見上げる。
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そして。
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誰にも聞こえない声で呟いた。
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「やはり来たか」
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その瞳の先には。
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まだ姿を現していない二柱。
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麒麟。
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応龍。
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そして今。
四霊が再び集まり始めた




