表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/26

小さな神様

小さな鳳凰


アパートに帰ると、まず最初にしたのは小鳥のための寝床作りだった。


といっても、大したものじゃない。


使わなくなったタオルを小さな箱に敷いて、簡易的な巣を作っただけだ。


「ごめんね。鳥さんのお世話なんてしたことなくて」


小鳥は弱々しく目を開ける。


私は水を少しずつ与えながら様子を見る。


神様や妖怪は見えても、世話の仕方までは分からない。


それでも放っておくよりはずっといい。


そんな思いで数日が過ぎた。



大学。


バイト。


帰宅。


看病。


そんな生活が続く。


気付けば、小鳥は少しずつ元気になっていた。


最初はほとんど動かなかった羽も動くようになり、部屋の中をぴょんぴょん跳ね回るようになった。


鳴き声も出る。


「ぴぃ!」


「ふふ、元気になったね」


私が笑うと、小鳥はなぜか得意げに胸を張る。


小さい。


すごく小さい。


でも可愛い。



その日も大学から帰ると、小鳥は机の上で羽繕いをしていた。


「ただいまー」


「ぴ」


「今日ね、レポート提出だったんだけど」


荷物を置きながら話しかける。


もちろん返事はない。


いつものことだ。


けれど。



「それは大変だったな」



「そうなの。教授がさ――」


そこまで言って止まった。



「……え?」



沈黙。



「え?」



小鳥がこちらを見る。



「なんだ」



「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」



思わず立ち上がる。


椅子が倒れた。



「しゃ、しゃべった!?」



「しゃべるが?」



「鳥が!?」



「鳥ではない」



「鳥だよ!?」



「違う」



小鳥は不満そうに羽を膨らませた。



私はしばらく固まった。


神様も妖怪も見てきた。


話したことだってある。


でも。


まさか家で看病していた小鳥が話し出すとは思わない。



「助かった。六花」



小鳥は静かに言った。



「六花のおかげで力を取り戻せた」



私はゆっくり座り直す。



「鳥さん……?」



「だから鳥ではない」



「じゃあ何?」



小鳥は胸を張った。



「我は四霊が一柱――鳳凰」



「……ほうおう?」



「うむ」



「神話とかに出てくる?」



「出てくる」



「へぇ」



鳳凰は少し驚いた顔をした。



「それだけか?」



「だって鳳凰なんでしょ?」



「そうだ」



「なら良かった」



「何がだ」



六花は心から安心したように笑った。



「悪い霊だったらどうしようかと思った」



「……」



鳳凰は呆れた。



「のんきなやつだ」



「そうかな?」



「普通はもっと警戒する」



「だって弱ってたし」



「……」



鳳凰は初めて理解した。


この娘は特別なのだと。



力があるからではない。



見返りを求めないから。



「そち」



「うん?」



「普段からそのように憑かれやすいのか?」



六花は首を傾げる。



「憑かれやすい?」



「疲れているだろう」



「え?」



「肩」



鳳凰が翼を向ける。



六花の肩。



そこには。



小さな黒い影が二つほど張り付いていた。



「うわっ!?」



初めて気付いた。



「何これ!?」



「邪気だ」



「えぇ……」



「しかもかなり慣れているな」



「そうなの?」



「普通なら寝込む」



六花は少し考えた。



「昔から疲れやすいのはそのせい?」



「おそらくな」



「まじか……」



人生二十年目にして衝撃の事実だった。



鳳凰は大きくため息を吐く。



「助けてもらった礼だ」



「?」



「対処法を教えてやろう」



「対処法?」



「力を閉じる方法だ」



六花は目を丸くした。



「そんなのあるの?」



「ある」



「もっと早く知りたかった!」



本気だった。



それから毎晩。



鳳凰先生による特別授業が始まった。



呼吸法。


結界。


邪気の払い方。


神域への入り方。


力の流し方。


見えるものとの距離の取り方。



最初は失敗ばかりだった。



「集中しろ」



「無理」



「無理ではない」



「眠い」



「寝るな」



「鳳ちゃん厳しい」



「鳳ちゃん?」



「鳳凰だと長いし」



「……」



「駄目?」



鳳凰は少しだけ黙った。



長い年月。


人間から恐れられたことはある。


崇められたこともある。



だが。



こんな風に呼ばれたことはなかった。



「好きに呼べ」



「じゃあ鳳ちゃんね」



「うむ」



その日から。



六花にとって鳳凰は。


神様でも神獣でもなく。



少し口うるさくて。


少し偉そうで。


でも優しい。



大切な家族になっていった。



そして鳳凰はまだ知らない。


自分が回復したことで、


長い眠りについていた他の三柱――


霊亀、麒麟、応龍もまた、


六花という少女の存在に気付き始めていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ