ため息しか出ない四霊
あの日。
鳳凰と霊亀が下した言葉は。
⸻
四神全員へ伝わった。
⸻
青龍。
玄武。
白虎。
朱雀。
⸻
そして後継者達へ。
⸻
『桜庭六花を試すな』
⸻
『疑うな』
⸻
『利用するな』
⸻
それは警告だった。
⸻
四霊からの。
⸻
絶対的な警告。
⸻
当然。
奏多も。
朱里も。
⸻
不満はあった。
⸻
本当なら見たかった。
⸻
力の限界。
⸻
実力。
⸻
どこまで戦えるのか。
⸻
だが。
⸻
許されない。
⸻
そして何より。
⸻
今は違う意味で興味があった。
⸻
桜庭六花という人間に。
⸻
だから。
⸻
協力依頼は出す。
⸻
しかし判断は四霊。
⸻
六花は四霊の言葉を絶対に守る。
⸻
それが分かっていた。
⸻
「厄介だな」
⸻
奏多は苦笑する。
⸻
「意外と頑固だしな」
⸻
朱里も同意した。
⸻
二人ともまだ気付いていない。
⸻
既に六花中心で物事を考え始めていることに。
⸻
その頃。
⸻
六花は大学帰りだった。
⸻
今日はバイトも休み。
⸻
少し遠回りして帰ろう。
⸻
そんな気分だった。
⸻
夕暮れ。
⸻
人通りの少ない河川敷。
⸻
そこで。
⸻
違和感を覚える。
⸻
嫌な気配。
⸻
重い空気。
⸻
背筋を撫でる寒気。
⸻
六花は足を止めた。
⸻
「……悪霊?」
⸻
かなり強い。
⸻
しかも。
⸻
二つの神気も感じる。
⸻
見覚えがある。
⸻
最近。
⸻
居酒屋へ来る常連客。
⸻
名前は知らない。
⸻
だが顔は知っている。
⸻
六花は慌てて走った。
⸻
すると。
⸻
そこにいた。
⸻
奏多。
⸻
朱里。
⸻
そして。
⸻
巨大な悪霊。
⸻
黒い瘴気。
⸻
歪な人型。
⸻
怨念の塊。
⸻
白虎の力が走る。
⸻
朱雀の炎が舞う。
⸻
だが。
⸻
相手が悪い。
⸻
強すぎる。
⸻
何度浄化しても。
⸻
再生する。
⸻
奏多が舌打ちした。
⸻
「面倒だな」
⸻
汗が流れる。
⸻
既に消耗していた。
⸻
朱里も同じだった。
⸻
「核が見つからない」
⸻
焦りが滲む。
⸻
そして。
⸻
悪霊が動く。
⸻
二人へ襲い掛かる。
⸻
間に合わない。
⸻
そう思った瞬間。
⸻
白い光が走った。
⸻
「――浄化」
⸻
優しい声。
⸻
空気が変わる。
⸻
悪霊の動きが止まる。
⸻
六花だった。
⸻
奏多が目を見開く。
⸻
「お前……!」
⸻
朱里も驚く。
⸻
六花は二人を見る。
⸻
そして。
⸻
少し困ったように笑った。
⸻
「大丈夫?」
⸻
まるで。
⸻
怪我をした友達を見るような声。
⸻
奏多は呆然とする。
⸻
敵の強さより。
⸻
六花の反応の方が理解できない。
⸻
普通。
⸻
怖がる。
⸻
逃げる。
⸻
巻き込まれたくないと思う。
⸻
それが当たり前。
⸻
だが。
⸻
六花は違う。
⸻
心配している。
⸻
自分達を。
⸻
六花はゆっくりと手を伸ばす。
⸻
教わった通り。
⸻
鳳凰。
霊亀。
麒麟。
応龍。
⸻
四霊の力を借りる。
⸻
光が広がる。
⸻
悪霊の核が露わになる。
⸻
「そこ」
⸻
奏多と朱里は反射的に動く。
⸻
白虎。
⸻
朱雀。
⸻
二つの力が重なる。
⸻
核が砕ける。
⸻
悪霊は悲鳴を上げ。
⸻
消滅した。
⸻
静寂。
⸻
風だけが吹く。
⸻
六花は安堵した。
⸻
「良かった」
⸻
本気でそう思っていた。
⸻
奏多は言葉を失う。
⸻
助けられた。
⸻
西園寺家の後継者である自分が。
⸻
朱里も同じだった。
⸻
紅原家の後継者である自分が。
⸻
そして。
⸻
六花は何事もなかったように笑う。
⸻
「怪我ない?」
⸻
その言葉に。
⸻
二人はさらに混乱した。
⸻
自分の心配をしろ。
⸻
そう言いたかった。
⸻
だが。
⸻
六花は本気で心配している。
⸻
だから言えない。
⸻
奏多が先に口を開く。
⸻
「助かった」
⸻
六花は首を傾げる。
⸻
「そう?」
⸻
「そうだ」
⸻
奏多は真っ直ぐ言う。
⸻
「ありがとう」
⸻
朱里も続く。
⸻
「本当に助かった」
⸻
六花は照れたように笑う。
⸻
「私は自分に出来ることをしただけだよ」
⸻
それだけ。
⸻
見返りもない。
⸻
恩を売る気もない。
⸻
純粋だった。
⸻
「また」
⸻
六花が言う。
⸻
「居酒屋に来てね」
⸻
奏多と朱里が固まる。
⸻
居酒屋。
⸻
そう。
⸻
彼女にとって自分達は。
⸻
『お客様』
⸻
それだけだった。
⸻
西園寺家も。
⸻
紅原家も。
⸻
後継者も。
⸻
何も知らない。
⸻
だからこそ。
⸻
余計に眩しかった。
⸻
「じゃあね」
⸻
六花は手を振る。
⸻
そのまま帰っていく。
⸻
残された二人。
⸻
しばらく動けない。
⸻
奏多が苦笑する。
⸻
「参ったな」
⸻
「何が?」
⸻
朱里が聞く。
⸻
奏多は空を見上げる。
⸻
「ますます気になる」
⸻
朱里も否定できなかった。
⸻
もっと知りたい。
⸻
話したい。
⸻
笑ってほしい。
⸻
そんな感情が芽生えていた。
⸻
その頃。
⸻
少し離れた木の上。
⸻
鳳凰がいた。
⸻
隣には霊亀。
⸻
二柱は全て見ていた。
⸻
沈黙。
⸻
長い沈黙。
⸻
そして。
⸻
鳳凰が言う。
⸻
「増えたな」
⸻
霊亀が深く頷く。
⸻
「増えたのう」
⸻
再び沈黙。
⸻
遠ざかる奏多と朱里を見る。
⸻
明らかに目が違う。
⸻
四霊を見る目ではない。
⸻
六花を見る目だ。
⸻
鳳凰が頭を抱える。
⸻
「面倒だ」
⸻
霊亀も同じだった。
⸻
「非常に面倒じゃ」
⸻
さらに。
⸻
二人とも気付いている。
⸻
玲弥。
⸻
智樹。
⸻
奏多。
⸻
朱里。
⸻
四人とも同じ目になり始めている。
⸻
そして当の本人。
⸻
六花は。
⸻
何も気付いていない。
⸻
「またお店来てくれるかなー」
⸻
そんなことを考えながら帰っている。
⸻
鳳凰と霊亀は同時にため息を吐いた。
⸻
悪霊より。
⸻
今の方が厄介かもしれない。
そんな予感しかしなかった




