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四霊の逆鱗

夕暮れ。


公園。



あやめ達と別れた後。



六花は小さく息を吐いた。



「よかった……」



その一言だった。



祓いは成功した。



あやめも。


彼氏も。



助かった。



それだけで十分だった。



だが。



身体が重い。



視界が揺れる。



足元がおぼつかない。



力を使いすぎた。



分かっていた。



鳳凰達に言われていた。



無理をするなと。



それでも。



後悔はなかった。



だから。



倒れそうになった瞬間も。



どこか満足していた。



ふらり。



身体が傾く。



地面へ倒れそうになる。



だが。



その前に腕が支えた。



「っ……」



六花は驚いて顔を上げた。



「……あれ?」



目の前にいたのは。



神宮寺玲弥。



「神宮寺さん?」



玲弥は眉を寄せていた。



思ったより軽い。



それが最初の感想だった。



こんなに力を使った後だというのに。



彼女はまだ笑おうとしている。



理解できなかった。



「なんでここに?」



六花は本気で不思議そうだった。



玲弥は呆れる。



「それより自分の状態を気にしろ」



低い声。



「お前、一気に力を使いすぎだ」



六花は苦笑した。



「やっぱり?」



「やっぱりじゃない」



玲弥の声音が少し強くなる。



「毎回これだと身を滅ぼすぞ」



その言葉は。



心配だった。



本人も気付いていない。



玲弥自身が驚くほど。



心配していた。



なぜだ。



まだ出会って間もない。



利用する対象だったはずだ。



四霊を手に入れるための。



それなのに。



倒れそうな姿を見ると。



放っておけなかった。



六花は少しだけ目を伏せる。



「うん」



そして笑った。



「でもね」



玲弥はその続きを待つ。



六花は静かに言った。



「私が出来ることで助かるならいいの」



その言葉に。



玲弥は言葉を失う。



損得がない。



見返りもない。



当たり前のように言う。



まるで呼吸をするように。



人を助ける。



理解できない。



だから。



聞いてしまった。



「なぜそこまでする」



その時。



後ろから声がした。



「俺も聞きたいな」



智樹だった。



いつの間にか近くまで来ている。



六花は目を瞬かせた。



「宮原さんまで?」



本当に驚いている。



演技ではない。



智樹は観察する。



やはり。



彼女は嘘をつかない。



「なぜ助ける?」



智樹が聞く。



「理由があるのか」



六花はきょとんとした。



そして。



首を傾げる。



「理由?」



その反応に。



二人が逆に困惑する。



六花は笑った。



「人を助けたいことに理由っている?」



その言葉は。



あまりにも自然だった。



「困ってたら助ける」



「ただそれだけ」



夕陽が六花を照らす。



疲れている。



顔色も悪い。



今にも倒れそうだ。



それなのに。



声だけは力強かった。



「ましてや」



「・・・あやめは大事な親友だから」



「助けない理由はないよ」



玲弥の胸がざわつく。



智樹も同じだった。



眩しい。



そう思った。



今まで見てきた人間とは違う。



損得で動かない。



見返りを求めない。



だからこそ。



危うい。



そして。



眩しかった。



その時だった。



空気が変わる。



神気。



圧倒的な威圧。



「……六花から離れろ」



低い声。



怒りを抑えた声。



「いつまでそうしておる」



さらにもう一つ。



玲弥と智樹の身体が強張る。



本能が理解する。



格が違う。



六花が振り返る。



「……鳳ちゃん」



「亀さん」



安心したように笑う。



そして。



力が抜けた。



意識が落ちる。



「桜庭!」



玲弥が支える。



しかし次の瞬間。



目の前に現れた二柱に息を呑む。



鳳凰。



霊亀。



普段の小さな姿ではない。



神獣としての威厳が漏れている。



空気そのものが支配される。



玲弥も。



智樹も。



動けない。



「鳳凰様……」



思わず漏れる。



しかし。



返ってきたのは冷たい声だった。



「馴れ馴れしい」



怒っている。



明らかに。



霊亀も珍しく厳しい。



「お主ら」



「敢えて手を出さずにおったな」



図星だった。



玲弥も。



智樹も。



反論できない。



「手を出すなとの指令でした」



玲弥が答える。



「実力を見たかったので」



智樹も続く。



すると。



鳳凰の瞳が細くなる。



怒り。



神獣としての怒り。



「青龍」



「玄武」



呼ばれた瞬間。



空間が揺らぐ。



玲弥の背後。



智樹の背後。



守護神が姿を現した。



青龍。



玄武。



二柱とも即座に頭を下げる。



玲弥は呆然とした。



見たことがない。



守護神達が。



ここまで畏まる姿を。



青龍が頭を垂れる。



「鳳凰様、霊亀様がお近くにおられましたので」



「余計な介入は避けるべきと判断しました」



玄武も続く。



「彼らが信じておりませんでしたので」



「見せた方が早いと」



その瞬間。



鳳凰の怒気が増した。



「ふん」



「六花を信じられぬ時点で話にならぬ」



霊亀も冷たかった。



「六花を侮るな」



青龍も。



玄武も。



何も言い返せない。



ただ頭を下げる。



玲弥は初めて理解した。



六花は。



守られている。



力で。



権力で。



そんなものではない。



愛情で。



家族として。



守られている。



そして。



鳳凰は六花を見つめる。



眠る少女。



疲れ切った顔。



それを見るだけで。



怒りが湧く。



無茶ばかりする。



自分を大事にしない。



放っておけない。



だからこそ。



他人に試されることが許せなかった。



「次は無い」



鳳凰の声が響く。



「他の奴らにも伝えろ」



玲弥の背筋が凍る。



霊亀も続ける。



「試した時点で」



「我らはお前達の味方にはならぬ」



青龍と玄武は深く頭を下げた。



「肝に銘じます」



完全な敗北だった。



そして。



鳳凰は六花を抱き上げる。



霊亀が横につく。



二柱は振り返らない。



そのまま去っていく。



残されたのは。



玲弥と智樹。



ただ立ち尽くす。



夕陽の中。



誰も動けない。



玲弥の胸に残ったのは後悔だった。



試した。



疑った。



利用しようとした。



だが。



六花はそんなことを知らない。



知らないまま。



自分達を信じようとしていた。



智樹も同じだった。



分析できない。



理解できない。



それなのに。



気付いてしまった。



もっと知りたい。



もっと近付きたい。



そんな感情が。



もう四霊ではなく。



桜庭六花その人へ向いていることに。

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