朱雀 六花の観察
朱里が店へ来たのは数日後だった。
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仕事帰り。
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少し遅い時間。
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いつもの席へ座る。
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すると。
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「こんばんは!」
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六花がやって来た。
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相変わらずの笑顔。
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自然体。
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朱里はその顔を見るたびに不思議な気持ちになる。
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(疲れないのかな)
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人に優しくすることは疲れる。
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期待される。
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利用される。
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裏切られる。
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朱里はそれをよく知っていた。
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紅原家の後継者として生きてきたから。
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近付く人間は皆、
何かを求めていた。
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家柄。
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地位。
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金。
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容姿。
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力。
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だから。
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人を信じるのが苦手だった。
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その時。
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店内で小さなトラブルが起きる。
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若い客同士の口論。
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店員達が困っている。
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すると。
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六花が間に入った。
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怖くないのか。
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そう思った。
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だが六花は自然だった。
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「大丈夫ですか?」
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まず相手を気遣う。
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怒るでもなく。
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責めるでもなく。
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話を聞く。
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結果。
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喧嘩は収まった。
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双方が頭を下げて終わる。
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朱里は黙って見ていた。
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理解できない。
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なぜそんなことができる。
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得があるわけでもない。
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むしろ損だ。
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それでもやる。
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だから。
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怪しく見える。
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人が良すぎる。
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そんな人間がいるのか。
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閉店後。
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朱里もまた後を追った。
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気付かれないように。
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慎重に。
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そして。
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公園で見た。
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六花を待つ二柱の神獣。
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麒麟。
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応龍。
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本物だった。
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そして。
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六花は駆け寄る。
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「麒麟さん!」
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「龍さん!」
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嬉しそうに。
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本当に嬉しそうに。
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家族に会った子供のように。
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応龍が少し照れたように目を逸らす。
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麒麟が穏やかに笑う。
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その様子を見て。
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朱里の胸に奇妙な感情が生まれた。
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羨ましい。
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そう思った。
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神獣と人。
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本来ならあり得ない距離。
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だが。
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そこには確かに信頼があった。
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打算ではない。
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利益でもない。
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純粋な絆。
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朱里は目を閉じる。
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(だから四霊は彼女の傍にいるのか)
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初めて納得した。
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力だけではない。
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六花だから。
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四霊が集まっている。
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そんな気がした。
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そして。
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奏多も。
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朱里も。
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まだ気付いていなかった。
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自分達が興味を持っているのが、
四霊ではなく、
桜庭六花その人になり始めていることに。




