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大学生活 青龍と玄武の観察

四神の後継者達が動き始めてから数週間。


その中でも最も早く六花の近くへ来ていたのは――


神宮寺玲弥と宮原智樹だった。



二人は同じ大学へ編入した。


もちろん偶然ではない。


だが、その事実を知る者はいない。



玲弥は法学部。


智樹は文学部。


六花とは学部も違う。


しかし大学という場所は思ったより狭い。


食堂。


図書館。


中庭。


共通講義。


様々な場所で姿は見える。



最初の数日。


二人は接触しなかった。


ただ見ていた。



(普通だな)


玲弥は思う。



笑っている。


友人と話している。


講義で居眠りしている。



神宮寺家が警戒するほどの存在には見えない。



(この少女が四霊を従える?)



理解できない。



一方。


智樹も観察していた。



ノートを取る癖。


講義中の仕草。


人間関係。


行動パターン。



分析する。



だが。



分からない。



むしろ。



不自然なほど自然だった。



何か裏があるなら見つかるはず。



しかし。



出てくる情報は。



「友人にお菓子を配っていた」



「迷子の子供を案内した」



「教授の荷物を運んでいた」



そんなものばかり。



(善人過ぎる)



智樹は眉をひそめた。



善人は存在する。



だが。



ここまで打算が見えない人間は珍しい。



ある日の昼休み。



六花は食堂で友人達と昼食を食べていた。



楽しそうに笑う。



その様子を少し離れた席から見ている二人。



「……」



「……」



無言。



だが二人とも同じことを考えていた。



普通だ。



本当に。



普通過ぎる。



神秘も威厳もない。



そこにいるのは。


ただの大学生だった。



だが。



その認識が変わったのは。


その日の放課後だった。



六花は講義を終え。


友人達と別れた。



「じゃあまたねー!」



手を振りながら歩いていく。



一人になった。



玲弥は立ち上がる。



智樹も動く。



偶然を装いながら距離を保つ。



尾行ではない。



観察だ。



そう自分達に言い聞かせながら。



六花は大学の裏庭へ向かった。



あまり人が来ない場所。



大きな木が一本あるだけの静かな空間。



そして。



六花は周囲を見回した。



「もう大丈夫だよ」



突然そう言った。



玲弥が眉をひそめる。



誰もいない。



智樹も違和感を覚える。



しかし次の瞬間。



木の上から。



小さな鳥が降りてきた。



黄金色の羽。



どこか神々しい存在感。



六花の肩へ着地する。



「今日も疲れておるな」



声がした。



玲弥の瞳が見開かれる。



智樹の呼吸が止まる。



喋った。



鳥が。



そして。



草むらから。



小さな亀が現れる。



「講義中に居眠りしておったろう」



こちらも喋った。



玲弥は固まる。



智樹も固まる。



報告書で読んだ。



写真も見た。



だが。



実際に見るのは違う。



圧倒的だった。



その場の空気そのものが変わる。



存在感。



神気。



人ではない。



確実に。



神獣。



鳳凰。



霊亀。



本物だった。



六花は肩をすくめる。



「だって眠かったんだもん」



「言い訳になっておらぬ」



「ちゃんと寝るのじゃ」



まるで家族の会話だった。



玲弥は思わず眉をひそめる。



違和感。



とてつもない違和感。



神宮寺家なら。



鳳凰や霊亀は崇められる存在だ。



敬う。



跪く。



恐れる。



それが当たり前。



なのに。



六花は違う。



「鳳ちゃん、今日はね」



鳳ちゃん。



玲弥は耳を疑う。



鳳凰を。



鳳ちゃん。



呼び捨てに近い愛称。



だが鳳凰は怒らない。



むしろ自然に受け入れている。



そして六花は続ける。



「亀さんも聞いて!」



亀さん。



神獣への呼び方ではない。



祖父母への呼び方に近い。



なのに霊亀も当然のように返事をする。



「何じゃ」



「今日ね、友達が――」



楽しそうに話し始める六花。



鳳凰も。


霊亀も。



その話を聞いている。



本当に。



家族みたいだった。



その光景に。



玲弥は初めて迷う。



(利用しているのではない)



違う。



利用されているのでもない。



もっと別の何かだ。



理解できない。



神宮寺家では見たことがない関係だった。



一方。



智樹は別のことを考えていた。



(なぜだ)



分析できない。



四霊がいる理由。



力ではない。



契約でもない。



主従でもない。



信仰でもない。



もっと曖昧で。



もっと強い。



何か。



六花が笑う。



鳳凰が呆れる。



霊亀が笑う。



その光景を見ながら。



智樹は初めて思った。



(……羨ましい)



その感情に気付き。



自分自身が驚いた。



そして。



二人はまだ知らない。



この時。



鳳凰も霊亀も。



とっくに二人の存在に気付いていることを。



木の陰。



視線の先。



鳳凰の瞳が一瞬だけ細くなる。



霊亀も小さくため息を吐いた。



「来ておるな」



「来ておる」



六花には聞こえないほど小さな声。



だが。



二柱の視線は正確だった。



四神の後継者。



神宮寺玲弥。



宮原智樹。



六花を見つめる二人を。



鳳凰と霊亀は静かに見据えていた。



警戒しながら。



そして少しだけ。



面倒なことになったな、と同時に思っていた。

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