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ミミ散歩 生き字引の長い一日  作者: 夜更けの人々


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第五話

 今日も喫茶FOR SEASONSは多くの若者で賑わっています。女性客だけでなく男性客の姿もあって、比率的には女性が六で男性が四といったところでしょうか。 コーヒーの種類もさることながら、素材にもこだわった自家製のパンや焼き菓子、それに特製の牛乳プリンも女性客には人気のようで、お好みのコーヒーのお供にみなさん注文しているのをよく見かけます。


 しかしミミが思うに、ここの一番のウリはなんといってもオーナーの柳瀬くんをはじめとする店員のみなさんです。大手外食チェーンが経営するカフェの店員さんのように、マニュアルありきの堅苦しい接客とは違い、彼らの接客はとても気さくで、お店とお客さんの垣根が完全に取っ払われています。まるで友人同士が偶々カウンターを挟んで接しているかのように。接客に対して固い考えをお持ちの方からしてみれば、 喫茶FOR SEASONSの接客はあまりにラフに見えるかもしれませんが、だからといって接客が雑なわけではありません。あくまでプロフェッショナルとして、札儀作法や気遣いはマニュアル通りにしか動けないチェーン店の店員さんよりもフレキシブルで、お店の品位でいえば十分老舗の喫茶店よりも上ですし、何より彼らは自分たちがやっていることに誇りを持っています。コーヒーにしても自家製の軽食にしても、素材からこだわっているだけあって、働いているすべての店員さんがここから新たな文化を発信しようと強い意思を持っているのが、このお店にいるだけでミミには十分に伝わってきます。


 ここ数年で花町にはたくさんのカフェが次々とオープンしていますが、喫茶FOR SEASONSのようなお店がほとんどで、それぞれがそれぞれの信念を持ってお店を営業されています。既存の概念に囚われることなく、自由な発想で自分たちなりのお店作りをしている様は見ているだけでワクワクしますし、カフェという文化がどうして若者たちに人気なのかは、喫茶店のほうが馴染み深いミミには理解はできませんが、若い人たちがそうやってこの町に再び活気を取り戻してくれるのは嬉しい限りです。


 昔から花町にも喫茶店はいくつかありましたが、今みたいに若者が挙って集まる文化の発信地というよりは、煙草を吸ったり新聞を読んだり近所の噂話に花を咲かせたりと、ただ時間を潰す場所でした。コーヒーもカフェみたいにこだわっているわけではないので、その場所を確保するために仕方なしに注文していましたし、それにコーヒーを飲むくらいならお酒を呑むという風潮が当時の花町にはまだありました。ですから当時の喫茶店と呑み屋さんの数を比べたら一目瞭然で、右を見ても左を見ても呑み屋さんばかり、その狭間を縫うように喫茶店があったというのが当時の印象です。


 ただ考えようによっては飲むものがコーヒーかお酒の違いで、それ以上の違いは今も昔もないようにミミには見受けられます。昔はその町のことを知りたければ呑み屋に足を運んでいたのが、今はそれがカフェに変わっただけのこと。要するにそういうことだと、カフェ巡りをするようになってミミは思うようになったのです。新しいカフェができる度に足を運び、そこの店主そして店員さんと言葉を交わしながら、今の花町を知る。歳を重ね、情報に疎くなっていくミミにとってカフェ巡りはただの散歩の延長ではなく、今を生きるために必要不可欠なミミの日課になっています。


 散歩を終えて家に戻り、シャワーを浴びて身支度を整えたら再びミミは家を出てカフェ巡りを開始します。一日何軒と決めているわけではないので、一軒に長居することもあれば、混み合ってきたらささっとお店を出ることもありますが、大体いつも二、 三軒といったところでしょうか。新しくできたお店に優先的に足を運び、そのお店のおすすめを注文します。時間も時間なので、どこかのお店で軽く朝食を済ませ、それから最後に喫茶FOR SEASONSでエスプレッソのダブルを飲むのが、ミミのカフェ巡りのルーティンとなっています。

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