第四話
あれから約四十年。ミミは一度も故郷に帰ることなく、ここ花町で月日を過ごしてきました。そのことに悔いはもちろんありません。時代が変わり、旦那衆もいなくなり、ただの大河のほとりが大川テラスになり、そこを多くの人がワイヤレスイヤホンをつけて走ったり散歩していても、ミミはこの町のことが大好きです。この町で過ごしてきた時間はミミにとって有意義な時間でしたし、故郷になかったすべてがこの町にはありましたから。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、花町との出会いがなければミミの人生はこれほどまでに豊かなものにはなっていなかったはずだと、ここ最近ミミはそんなことを考えながら大川テラスを散歩しています。BGMは必要ありません。ここに漂う空気こそがミミにとってはBGMみたいなものです。ここから見える景観が大きく変わっても、この町で過ごした過去は消えたわけではありません。今もちゃんとミミの胸に残っています。
ただここ最近はそんな思い出と共に、ミミはよく故郷のことも思い出します。散歩をしながら大川を見つめていると、幼いころに姉とよく遊んだ近所の川のことを思い出したり、大川テラス沿いに建ち並ぶビルとビルの隙間に、今も昔の姿のまま残っている木造の一軒家などを見かけると、故郷の街並みが頭を過ったりするのです。今まではそんなことなかったものですから、最初は何を急に故郷を懐かしんでいるのだと不思議に思っていたのですが、それはきっとミミが歳をとったからなのだと今は思っています。花町で過ごした過去が消えないように、いかに思い入れがなくとも故郷で過ごしてきた時間が事実であることに変わりはないのだと。
そう思うと、どこかの機会で一度は帰りたいものだとミミは思わずにいられません。 それがいつになるかはまだ未定ですが、ミミに残されている時間だって、昔に比べればそう長くはないですから、思い立ったら吉日とまではいわないにせよ、そう遠くない未来に実現したいとミミは願っています。まぁ、そう思いつつなかなか動きださないのがミミの悪いところでもあるので、いつのことになるのやら・・・・ほんと大川沿いを散歩していると考えることは尽きませんね。




