↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
93/93

嵐の中、船を漕ぐ者は誰か ending

『Rota, rota Fortunae.Nula prima, nula fina.Somnia nata venta fi.Dona viatora nova』


 歌が聞こえる。

 玉を転がすような、愛らしい歌声。


「……この歌って」


 カレンデュラは病室を確認してから、ガラッと引き戸を開けた。


「お待ちしておりました」


 空き部屋は、静寂に包まれていた。

 そこには、見覚えのない少女が一人、佇んでいる。


「誰?」


 透けるような白い肌に、銀糸のツインテール。そして、翡翠の瞳――。


「自己紹介が遅れました」


 少女は、カレンデュラに一礼する。


 その手には、体に不釣り合いなほど大きな天燐精霊器があった。


「……あの、その楽器って、もしかして」

「ふふふ、分かっていますよぉ、カレンデュラさぁん。リヒェから許可は取っていますので」


 そう言うなり、少女は簡易椅子に座り直すと、慣れた手つきで天燐精霊器を爪弾き始めた。


 その瞬間、カレンデュラの脳裏に、ある光景が浮かぶ。


 少数民族。そして、彼らの住処である森が焼かれていく姿。大地を追われた彼らの多くは散り散りとなり、その中には奴隷として売られる者も少なくなかった。


 神官の一族、その直系の末裔である少女。

 内戦。離れ離れになる家族。実験体。

 血。血。血――。


 カレンデュラは、いつの間にか泣いていた。


「……ふふふ、見ちゃいましたぁ? ズィビーの過去」

「あなたは……」


 少女は、ニコリと微笑む。


「姉が貴女さまに天燐精霊器を託した理由が、分かった気がします。マヤリカも、たまには仕事しますねぇ……ふふふ」


 そう言うと、少女はまた初めから歌い始めた。


 意識が、遠のいていく。


 カレンデュラは空きベッドへ静かに倒れ込み、そのまま深い眠りへと落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。