↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
88/93

嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.5

 軽いノックの音で目が覚めた。


「失礼」


 返事をする間もなく、扉が開かれる。

 案の定、フェイルツィーオの姿。


「お目覚めですか、ヴォルーツォさん。早速で悪いのですが、昨日の件でお聞きしたいことが幾つもございます」


 よく開く口だ。

 ヴォルーツォは、内心で感心する。


「……また、ずいぶんと忙しない登場だねぇ」


 ヴォルーツォの目元には、生気が感じられなかった。その唇も、渇いているように見える。


「で、何が聞きたいのかな?」


 以前とは、見る影もないほど傷だらけになった身体を、ベッドに沈める。


「ヴォルーツォさんの心の中を探るのは、今のところ難しい。できれば、自発的に話をしていただければ嬉しいのですが」


「やれやれ」


 面倒なヤツが来たと、ヴォルーツォは肩を落とした。


「勿体ぶらないでおくれよ。僕だって、そんなに暇じゃないんだから」

「お暇でしょう。ただ、ひがな一日こうやってベッドの上で寝ているだけなのですから。こちらはこちらで、色々と事情があるのです」


 そう言うなり、フェイルツィーオは近くにあった椅子を引っ張ってきて、ベッド脇に腰を下ろした。


「率直にお伺いします」


 一拍。


「ヴォルーツォさんは、一体何なのですか」

「何??」


 目を瞬かせ、言葉を濁す。


「人間……かなぁ?」


 チラリと、エフィムの方へ視線を移す。

 こくりと、一つ。


「……そういうことをお聞きしているわけではありません。貴方はどこから来て、何のために魔術師育成協会に入ったのか、ということをお聞きしたいのです」

「へぇ。そんなことも知らないのに、よく支部長が務まるよねぇ?」


 フェイルツィーオは、ヴォルーツォの皮肉にピクリと眉を動かす。


「お言葉ですが、支部長の仕事は探偵ではありませんので」


 負けじと、張り合うフェイルツィーオ。

 二人の視線が静かに交わり、空気が張り詰める。


「さて、なんだろうねぇ? 当ててご覧よ」


 挑戦的な眼差し。


「それならば――ヴォルーツォさんは、『イル・マット』の一員なのではありませんか?」

「……んな!」


 思わず、黙って聞き役に徹していたエフィムが椅子からガバッと立ち上がる。


「……おや、エフィム会長。どうかしましたか」

「いえ」


 エフィムは小さく咳払いをする。


「続けてください」

「『イル・マット』、ねぇ?」


 ヴォルーツォは、フェイルツィーオに意味深な視線を送る。


「ウィリディアス」


 その名前をフェイルツィーオが口にした瞬間、ヴォルーツォの瞳が小さく動いた。


「……貴方の弟だそうですけど」


 その一手が、決め手だった。


 エフィムが口を半開きにしたまま、あんぐりと固まってしまう。


「ははは、そこまで知ってるんだ。そうだよ」


 あっさりと――ヴォルーツォは、認めたのだ。


「ウィリディアスは僕の弟」


 ニヤリと、不敵に笑う。


「『イル・マット』の、ね?」


 エフィムは、まだ口をあんぐりと開けたまま固まっている。


「……なっ……ん、で……」


 ようやく、フェイルツィーオがその一言だけを吐き出す。


「――どういうことなんですか!?」


 フェイルツィーオの声が、廊下まで響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。