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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.4

「……それで、どうだった、アフェルディータ」

「え、ええ。リヒェンツァは元気でしたわよ。病室でタバコを吸って、怒られていたくらいですもの」


 チェン兄妹は、魔術師育成協会と提携しているロティリス中央病院の廊下を歩いていた。


「リュディオール様は、どうでしたの?」

「ずっと、譫言を吐きながら徘徊していた」

「なんですの、それ……」


 アフェルディータは、悲しげに目を伏せた。


「二人とも怪我は大したことなかったが、心的外傷を抱えているようだ。会長閣下の指示で、入院が決まった」

「それで、リュディオール様はどうなるんですの?」

「今の状態では、復帰しても使い物にならんだろう。しばらく隔離だ」

「そん、な……」


 その言葉に、アフェルディータの足が止まる。

 兄の背中を見上げたまま、言葉を失った。


「仕方ないだろう。実際に、壊れてしまったのだから」

「バライバ会長は、まだ?」

「ああ。意識不明のままだ」


 それ以上、会話は続かなかった。

 それでも、課題は山積みだった。


『幻日の箱庭』の制圧に成功したとはいえ、失ったもののほうが大きい。


 リュディオールとリヒェンツァは負傷し、心的外傷によって療養中。

 ヴォルーツォは、一命を取り留めたものの、全身に大火傷を負って治療中。

 バライバは、未だ意識を取り戻していない。


 魔術師育成協会は今、大きな岐路に立たされていた。


「……兄様は、大丈夫ですの?」

「何がだ」


 左目だけで、妹をキッと睨みつける。


「ですから、もう二日もまともに休息を取られていないではありませんか」

「はぁ……」


 またそれか、とフェイルツィーオは深々と溜息をついた。


「ボクは平気だ。そんなことより、揃いも揃ってあんな状態では、いつ魔術師育成協会が崩壊してもおかしくはなかろう」


 そう言いつつ、フェイルツィーオはそっぽを向いてしまう。


「ですが……」

「……なんなんだ、さっきから」


 アフェルディータは、堪え切れなくなったようにフェイルツィーオの腕を強く掴んだ。


「兄様も、ちゃんとお休みするべきですわ! こんなに……こんなに無理をされて、お父様だって、きっと……」


 アフェルディータの声が、そこで震える。


「……父上は関係ないだろう。それに、ボクがやらなければ、誰が魔術師育成協会を守ると言うのだ」

「ですが……」


 反論しようとして、しかし、言葉にならない。


「用がないのなら、先にジャンパカダへ帰れ。目障りだ」


 そう冷たく突き放し、フェイルツィーオは一人、歩き去ってしまう。

 残されたアフェルディータは、力なく俯いた。


 手に残った、微かな温もりだけを握りしめて。

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