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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.3

 シャリシャリシャリ……。


 小さな手に握られたペティナイフ。

 膝の上には、螺旋を描くリンゴの皮。


「……ヴォルーツォさん、食べられる?」


 小さく切り分けたリンゴの一片をフォークの先に突き刺し、エフィムはゆっくりとヴォルーツォの口元へ運ぶ。


「おいち〜♡」


 ヴォルーツォは、差し出されたリンゴを無邪気に一口頬張る。

 心配させまいと振る舞うその姿が、痛々しく映る。


「……ごめんなさい、わたしのせいで」

「エフィムくん!」


 ピシャリと、叱咤が飛ぶ。


「それ以上、言うの禁止!」


 エフィムは、思わず口を噤んだ。


「謝罪は、もうたくさん受けたよ」

「でも……」


 ヴォルーツォの頭髪はほとんど焼け落ち、再生にはかなりの時間を要している。


「で……も」


 エフィムは、彼の頬に触れてみる。

 焼け爛れた皮膚が、微かに脈打っている。


「エフィムくん」


 ヴォルーツォの口調が、少しだけ強くなる。


「僕はね、別に怒ってないよ。君は確かに無謀なことをした。そこは確かに悪い。でもね――」


 頬に触れていた小さな手に、ヴォルーツォの手がそっと添えられる。


「僕は、嬉しいんだ」


 真っ直ぐな眼差し。

 けれど、それはエフィムにとって、時に残酷なものだった。


「それが、僕を思ってくれた末の行動だってことだからね」

「ヴォルーツォさん……」


 エフィムの瞳に、涙が浮かぶ。


「だから、僕ももう君を悲しませない。誓うよ」

「……はい」


 泣きそうな声で、それでも必死に返事をする。


「君は、一人じゃない」


 その言葉に、涙が溢れ落ちる。

 二人の影が重なる――そう、思われた。


「ふぁぁ……」


 だが――唐突な欠伸。

 ヴォルーツォの足元を見れば、一匹の犬が寝ている。


「お爺ちゃん、いたの……」

「己は、任務遂行に集中するのみである」


 空蝉は、そっけなく言い放つ。


「故に、それ以外の事柄に関しては、基本的にどうでもよいと考えている」

「もう……」


 エフィムは、呆れと安堵が入り混じったような、複雑な顔を見せた。

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