嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.3
シャリシャリシャリ……。
小さな手に握られたペティナイフ。
膝の上には、螺旋を描くリンゴの皮。
「……ヴォルーツォさん、食べられる?」
小さく切り分けたリンゴの一片をフォークの先に突き刺し、エフィムはゆっくりとヴォルーツォの口元へ運ぶ。
「おいち〜♡」
ヴォルーツォは、差し出されたリンゴを無邪気に一口頬張る。
心配させまいと振る舞うその姿が、痛々しく映る。
「……ごめんなさい、わたしのせいで」
「エフィムくん!」
ピシャリと、叱咤が飛ぶ。
「それ以上、言うの禁止!」
エフィムは、思わず口を噤んだ。
「謝罪は、もうたくさん受けたよ」
「でも……」
ヴォルーツォの頭髪はほとんど焼け落ち、再生にはかなりの時間を要している。
「で……も」
エフィムは、彼の頬に触れてみる。
焼け爛れた皮膚が、微かに脈打っている。
「エフィムくん」
ヴォルーツォの口調が、少しだけ強くなる。
「僕はね、別に怒ってないよ。君は確かに無謀なことをした。そこは確かに悪い。でもね――」
頬に触れていた小さな手に、ヴォルーツォの手がそっと添えられる。
「僕は、嬉しいんだ」
真っ直ぐな眼差し。
けれど、それはエフィムにとって、時に残酷なものだった。
「それが、僕を思ってくれた末の行動だってことだからね」
「ヴォルーツォさん……」
エフィムの瞳に、涙が浮かぶ。
「だから、僕ももう君を悲しませない。誓うよ」
「……はい」
泣きそうな声で、それでも必死に返事をする。
「君は、一人じゃない」
その言葉に、涙が溢れ落ちる。
二人の影が重なる――そう、思われた。
「ふぁぁ……」
だが――唐突な欠伸。
ヴォルーツォの足元を見れば、一匹の犬が寝ている。
「お爺ちゃん、いたの……」
「己は、任務遂行に集中するのみである」
空蝉は、そっけなく言い放つ。
「故に、それ以外の事柄に関しては、基本的にどうでもよいと考えている」
「もう……」
エフィムは、呆れと安堵が入り混じったような、複雑な顔を見せた。




