嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.2
『幻日の箱庭』の制圧、およびヴォルーツォ救出作戦。
その結果は、決して完璧なものではなかった。
当初の予想を遥かに上回る規模。想定を超えた被害。そして、作戦に参加した魔術師たちにも、多数の負傷者が出た。
それでも――……それでも、反魔術師組織『イル・マット』のアジト、『幻日の箱庭』を制圧することには成功した。
その事実だけを見れば、魔術師育成協会にとって大きな前進であり、確かな功績と言えるのだろう。
少なくとも、記録の上では。
「……だからって」
魔術師育成協会の庭。
その片隅に置かれたベンチに、カレンデュラは一人で座っていた。
両足をぶらぶらと揺らしながら、ぼんやりと地面を見つめている。
「こちらにいらしたのですか」
ふいに、頭上から声が降ってきた。
気遣うような、静かな声。
見上げれば、そこにはアルキンドラネスが立っていた。
「アルキンさん」
カレンデュラは立ち上がりながら、ぐっと伸びをする。
「……病院からの電話待ってるの。お婆ちゃん、まだ意識戻らないから」
カレンデュラは明るく努めようと、笑顔を作る。
けれど、アルキンドラネスの表情は陰ったままだった。
「そうでしたか」
いつになく、その声音には力がない。
「エフィム会長から、話は聞きました。大変な目に遭われたそうですね」
「大変だったのは、あたしなんかじゃなくて、他の人たちだと思うけど」
カレンデュラは、空を仰ぐ。
「……リヒェンツァさんとか」
その名を口にした瞬間、アルキンドラネスの顔に、さらに深い翳りが差した。
「エフィム会長くん、元気なかったね。ただでさえ仕事があるのに、ヴォルーツォさんのお見舞いと両立なんて」
「ええ、まったく」
「……そう、ですよね」
結局、『幻日の箱庭』とは何だったのか。
リヒェンツァが、どうしてあんな状態になってしまったのか。
その理由は、今も分からない。
ただ、一つだけ確かなことがある。
――自分は、また『知る』ことができなかった。
カレンデュラは、改めて己の無力さを噛み締める。
「……あ、そろそろお見舞い行かなきゃ」
「お一人で、大丈夫ですか」
アルキンドラネスが、珍しくそんな言葉をかけてきた。
「……ありがとう」
カレンデュラは、少しだけ笑った。
「その言葉は、エフィム会長くんに言ってあげてよ」
「ええ。そうですね」
アルキンドラネスは、それ以上、何も言えなかった。




