嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.1
開け放たれた窓から、風が舞い込む。
バサバサと音を立てて踊るカーテン。風に煽られ、舞い上がる書類の束。
「……んもぅ、リヒェったら」
見上げた空は、苛つくくらいの青空で。
ズィビレット・カタリマ・ナーヴァル・エリシェラは、ベッド横のテーブルに肘をついたまま、頬を膨らませた。
「早く帰れよ、お前」
リヒェンツァは眩しそうに、手で顔を覆ったまま目を閉じている。
「呼んでくれれば、ズィビーだって……」
「はいはいはい」
リヒェンツァは、溜息を漏らした。
「お前が来ると、余計に話が拗れるだろ」
そう言うなり、リヒェンツァは横を向いてしまった。
「んもぅ、冷たいんだから」
ズィビーは、つまらなそうにベッド脇へ足を投げ出す。
「これでも、ズィビーだってリヒェのためを思って――」
文句を言いかけた、その時だ。
「リヒェ姐、おはようござ……」
まるで、幽鬼のようだった。
扉が開き、ゆらりと姿を現したのは、リュディオールだった。
寝ていないのか、目の下には深いクマが刻まれ、髪はボサボサ。服も皺だらけだ。
「……そちらのお方はお友達っすか?」
リュディオールの視線が、ズィビレットへ向く。
「あらぁん?」
華奢な体躯、煌めく銀のツインテール、宝石のような翠の瞳――まるで、お人形のような容姿。
「ふふふ、お兄さん素敵ですねぇ……ん」
あからさまに戸惑うリュディオールを、ズィビレットは怪しげな笑みを浮かべながら、じっくりと値踏みする。
「ズィビー」
ピシャリと、リヒェンツァが制す。
「……何の用だ、リュディ」
リヒェンツァは、一瞬、その男の名前を呼ぶことに戸惑った。
名を呼ばれても、当のリュディオールの表情は翳り、瞳はさらに虚ろさを増した。
「すいませんでしたごめんなさいオレがわるいんです」
ぶつぶつと、譫言のように呟くリュディオール。
「もうやめろ」
その瞬間、リヒェンツァの身体が反射的に震え出した。
途端に、あの情景がフラッシュバックする。
震えが止まらない。
ガタガタガタガタ――自分でも止められないほど、全身が小刻みに震えていく。
「――っ!?」
それに気づいたリュディオールが、ハッと我に返り、駆け寄ろうとする。
「いいから、二人とも出てけ」
それでも、毅然として振る舞おうとする。
震える身体を止めるように、己を抱きしめる。
そんな自分の弱さが、悔しくてたまらなかった。




