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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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嵐の中、船を漕ぐ者は誰か part.1

 開け放たれた窓から、風が舞い込む。

 バサバサと音を立てて踊るカーテン。風に煽られ、舞い上がる書類の束。


「……んもぅ、リヒェったら」


 見上げた空は、苛つくくらいの青空で。

 ズィビレット・カタリマ・ナーヴァル・エリシェラは、ベッド横のテーブルに肘をついたまま、頬を膨らませた。


「早く帰れよ、お前」


 リヒェンツァは眩しそうに、手で顔を覆ったまま目を閉じている。


「呼んでくれれば、ズィビーだって……」

「はいはいはい」


 リヒェンツァは、溜息を漏らした。


「お前が来ると、余計に話が拗れるだろ」


 そう言うなり、リヒェンツァは横を向いてしまった。


「んもぅ、冷たいんだから」


 ズィビーは、つまらなそうにベッド脇へ足を投げ出す。


「これでも、ズィビーだってリヒェのためを思って――」


 文句を言いかけた、その時だ。


「リヒェ姐、おはようござ……」


 まるで、幽鬼のようだった。


 扉が開き、ゆらりと姿を現したのは、リュディオールだった。


 寝ていないのか、目の下には深いクマが刻まれ、髪はボサボサ。服も皺だらけだ。


「……そちらのお方はお友達っすか?」


 リュディオールの視線が、ズィビレットへ向く。


「あらぁん?」


 華奢な体躯、煌めく銀のツインテール、宝石のような翠の瞳――まるで、お人形のような容姿。


「ふふふ、お兄さん素敵ですねぇ……ん」


 あからさまに戸惑うリュディオールを、ズィビレットは怪しげな笑みを浮かべながら、じっくりと値踏みする。


「ズィビー」


 ピシャリと、リヒェンツァが制す。


「……何の用だ、リュディ」


 リヒェンツァは、一瞬、その男の名前を呼ぶことに戸惑った。


 名を呼ばれても、当のリュディオールの表情は翳り、瞳はさらに虚ろさを増した。


「すいませんでしたごめんなさいオレがわるいんです」


 ぶつぶつと、譫言のように呟くリュディオール。


「もうやめろ」


 その瞬間、リヒェンツァの身体が反射的に震え出した。

 途端に、あの情景がフラッシュバックする。

 震えが止まらない。


 ガタガタガタガタ――自分でも止められないほど、全身が小刻みに震えていく。


「――っ!?」


 それに気づいたリュディオールが、ハッと我に返り、駆け寄ろうとする。


「いいから、二人とも出てけ」


 それでも、毅然として振る舞おうとする。

 震える身体を止めるように、己を抱きしめる。


 そんな自分の弱さが、悔しくてたまらなかった。

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