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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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ななしのジョン・ドゥ part.10

「――何か、言ったらどうなんですか」


 あの後、どうやって帰ってきたのかも朧気で、記憶も断片的だった。


 それでも、何とかフェイルツィーオは協会へ戻ってきていた。


「エフィム会長」


 夜半。

 庭のベンチに座っていたエフィムは、その人物を見るなり硬直した。


「……ごめんなさい」

「謝罪ではなく、答えを」


 いつもと変わらない、冷めた声。


「どういうことなんですか。あれは、どう説明するんですか」

「ごめん、なさい」

「あれは、あれは……一体、誰なんですか!!」


 風の音が止んだ。

 それなのに、静寂とは程遠い。怒りの咆哮が、夜の空へ迸る。


「あれは、なんだったんですか」


 感情を必死に押し殺しながら、フェイルツィーオはエフィムの肩を掴んで揺さぶる。


「ウィリディアス」


 エフィムがそう告げると、フェイルツィーオは一瞬、動きを止めた。


「それは、誰、なん、ですか」


 エフィムが、フェイルツィーオを見上げる。

 その目には、驚愕と混乱と――諦念の色が混じっていた。


「ヴォルーツォさんの弟です」

「はは、ははは……面白くないですよ、その冗談」


 受け入れられない。到底、信じられるはずがない。


「そんなはずない。だって、だってだって……」


 言いかけて、フェイルツィーオは口を噤んだ。


「――ごめんなさい」


 エフィムは、何十度目かの謝罪を口にする。


「バライバ理事長から、口止めされたんです」

「なぜ」

「危ないことに、首を突っ込むからって」


 その言葉に、フェイルツィーオは歯噛みした。


「……もう、いいです」


 エフィムの肩を掴んでいた手を離し、その場を去ろうとする。


「どこ行くんですか」

「寝るんですよ。何時だと思ってるんですか」


「仮眠室へ向かうんです」――そう言い捨てて、フェイルツィーオは立ち去っていった。

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