ななしのジョン・ドゥ part.10
「――何か、言ったらどうなんですか」
あの後、どうやって帰ってきたのかも朧気で、記憶も断片的だった。
それでも、何とかフェイルツィーオは協会へ戻ってきていた。
「エフィム会長」
夜半。
庭のベンチに座っていたエフィムは、その人物を見るなり硬直した。
「……ごめんなさい」
「謝罪ではなく、答えを」
いつもと変わらない、冷めた声。
「どういうことなんですか。あれは、どう説明するんですか」
「ごめん、なさい」
「あれは、あれは……一体、誰なんですか!!」
風の音が止んだ。
それなのに、静寂とは程遠い。怒りの咆哮が、夜の空へ迸る。
「あれは、なんだったんですか」
感情を必死に押し殺しながら、フェイルツィーオはエフィムの肩を掴んで揺さぶる。
「ウィリディアス」
エフィムがそう告げると、フェイルツィーオは一瞬、動きを止めた。
「それは、誰、なん、ですか」
エフィムが、フェイルツィーオを見上げる。
その目には、驚愕と混乱と――諦念の色が混じっていた。
「ヴォルーツォさんの弟です」
「はは、ははは……面白くないですよ、その冗談」
受け入れられない。到底、信じられるはずがない。
「そんなはずない。だって、だってだって……」
言いかけて、フェイルツィーオは口を噤んだ。
「――ごめんなさい」
エフィムは、何十度目かの謝罪を口にする。
「バライバ理事長から、口止めされたんです」
「なぜ」
「危ないことに、首を突っ込むからって」
その言葉に、フェイルツィーオは歯噛みした。
「……もう、いいです」
エフィムの肩を掴んでいた手を離し、その場を去ろうとする。
「どこ行くんですか」
「寝るんですよ。何時だと思ってるんですか」
「仮眠室へ向かうんです」――そう言い捨てて、フェイルツィーオは立ち去っていった。




