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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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ななしのジョン・ドゥ part.9

 終演、終焉。

 焼け尽くされ、焦土と化した箱庭。


「そんな……」


 ヘルタは、焼け落ちて鉄骨だけになったガゼボの下で、なすすべもなく項垂れていた。


 四季を彩っていた花々。

 みんなで植えたチューリップ。


 そのどれも、もう見当たらない。

 焦げた大地だけが、黒々と広がっている。


「酷いよ」


 涙さえ出ない。

 ただただ、悔しくて、悲しくて。

 唇を噛めば、口の中が血の味で満たされる。


「ヘルタ」


 いつもよりも、優しい声だった。


「円花」

「帰りましょう」


 円花は、啜り泣く雪那の背中を撫でながら、現れた。


「……うん」


 納得したわけじゃない。

 それでも、ヘルタは一つ頷いた。


「大丈夫。ここが潰されても、まだ救いはあるんだから」

「それでも、また襲撃されるかも」


 裏口へ続く小道を、三人はゆっくりと進んでいく。


「……リヒェンツァが、知ってるから」


 ヘルタは、それ以上何も言えなかった。


「分かってるわ」


 否定も、肯定もしない。

 ただ、円花は静かに、ヘルタの背中を優しく押す。


「……分かってたの。いつか、こうなるなんて」


 誰よりも一番辛いはずなのに、まるで他人事のように呟いた。


「あの娘は、もう死んだのよ」


 敗北の味。かつての恋人。

 裏切りと、復讐と、そして奪還。


「……だから、アンタまで背負わなくていいの」


 ただそれだけを残して、彼女たちは霧の中へ消えていった。

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