ななしのジョン・ドゥ part.9
終演、終焉。
焼け尽くされ、焦土と化した箱庭。
「そんな……」
ヘルタは、焼け落ちて鉄骨だけになったガゼボの下で、なすすべもなく項垂れていた。
四季を彩っていた花々。
みんなで植えたチューリップ。
そのどれも、もう見当たらない。
焦げた大地だけが、黒々と広がっている。
「酷いよ」
涙さえ出ない。
ただただ、悔しくて、悲しくて。
唇を噛めば、口の中が血の味で満たされる。
「ヘルタ」
いつもよりも、優しい声だった。
「円花」
「帰りましょう」
円花は、啜り泣く雪那の背中を撫でながら、現れた。
「……うん」
納得したわけじゃない。
それでも、ヘルタは一つ頷いた。
「大丈夫。ここが潰されても、まだ救いはあるんだから」
「それでも、また襲撃されるかも」
裏口へ続く小道を、三人はゆっくりと進んでいく。
「……リヒェンツァが、知ってるから」
ヘルタは、それ以上何も言えなかった。
「分かってるわ」
否定も、肯定もしない。
ただ、円花は静かに、ヘルタの背中を優しく押す。
「……分かってたの。いつか、こうなるなんて」
誰よりも一番辛いはずなのに、まるで他人事のように呟いた。
「あの娘は、もう死んだのよ」
敗北の味。かつての恋人。
裏切りと、復讐と、そして奪還。
「……だから、アンタまで背負わなくていいの」
ただそれだけを残して、彼女たちは霧の中へ消えていった。




