ななしのジョン・ドゥ part.7
「はあ、はぁ……!」
熱い。
肺が焼かれ、熱気と魔力が身体の内側まで侵してくる。
それでも、フェイルツィーオは、ただひたすらに走った。
――そこにいる、中央にいる。
フェイルツィーオの義眼は、そう告げていた。
「――リヒェンツァ!」
一行は焔に囲まれながら、『幻日の箱庭』の中心部へ辿り着いた。
そこにいたのは、魔術師育成協会の面々。
空蝉、カレンデュラ、リュディオール、ライツォフィオナ――そして、リヒェンツァ。
「……支部長、なんでここに」
リュディオールが、信じられないものを見るように目を見開いた。
「リヒェンツァ!!」
フェイルツィーオが駆け出す。
「貴様という奴は、本当に本当に本当に……!」
思わず手を振り上げる。
だが――それは、途中で止まった。
「……何か言ったらどうなんだ!」
リヒェンツァは、変わらず膝を抱えたまま。
その様子からは、いつもの覇気も、凛とした強さも感じられない。
ただ、静かに泣いていた。
「――愚か者が……」
フェイルツィーオは、リヒェンツァの肩を掴み、揺さぶる。
「理事長、リヒェ姐を責めないでやってください」
「そうだよ。今はそんなこと言ってる場合じゃ……」
カレンデュラが、それぞれフェイルツィーオを宥めようと声をかける。
「……そんな場合かどうか、貴様らが決めることではない!!」
怒りは確かにあった。
だが、それ以上に焦りがあった。
「一体ここはなんなんだ。何が起きている」
矢継ぎ早に疑問を投げつけるが、誰も口を開かない。
その沈黙に、フェイルツィーオはさらに苛立ちを募らせた。
「とにかく、早く脱出するぞ……――ヴォルーツォさん!」
一陣の風が吹き抜けた。
徐々にではあるが、黒い焔の勢いが弱まっている。
だが――そこにいるはずの男の姿がない。
「……ヴォルーツォさんは、どこだ」
フェイルツィーオが辺りを見回す。
誰も答えなかった。
そもそも、一行はヴォルーツォを探すために、こんな危険を冒してまでここへ来たのだ。
それなのに――「……どうして」
その言葉の続きを、フェイルツィーオは持ち合わせてはいなかった。




