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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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ななしのジョン・ドゥ part.5

「どうして……どうして、どうして……」

「雪那ちゃん」


 雪那は、『幻日の箱庭』の中心にいた。


 黒い焔。濁った魔力。

 そのすべてが雪那を中心に、螺旋を描くように天へと昇っていく。


 一分一秒でも、こんな場所にはいたくない。

 それが、円花の率直な感想だった。


 周囲を満たしているのは、濁り切った魔力。魔術の根源となる、純粋な魔力ではない。

 本来の澄んだ姿からは、あまりにもかけ離れている。


 この魔力に触れているだけで、身体の内側まで侵されてしまいそうだった。


 その中心で、雪那は頭を抱え、蹲っている。


「どうして……どうして……」


 同じ言葉を、何度も繰り返している。


「雪那ちゃん……」


 円花は、ゆっくりと手を伸ばした。


 そして――そっと包み込むように、雪那を抱き締める。


「もう、大丈夫よ」


 そうでもしなければ……そうでもしなければ、このままでは、この子が壊れてしまう。


 だから、円花は離せなかった。


「――お庭が……」


 雪那の身体が、小さく震える。


「みんなで作り上げた、わたくし達の薔薇園が……っ」


 慟哭が空気を揺らし、嗚咽が溢れ出す。


「大丈夫。大丈夫だから」


 そう繰り返しながら、円花は雪那の身体を強く抱き締める。


「少しずつ、また直せばいいわ」


 優しく、言い聞かせるように。


「薔薇は、冬に休眠して、春に芽吹く。そうでしょう?」


 冬の寒さの中で眠り、やがて春が来る。

 だから――希望も、きっと巡ってくる。


「私達で、また作ればいいだけよ」


 円花は、雪那の背中をそっと撫でた。


「今度こそ、邪魔されない楽園にしましょう」


 その言葉に応えるように。

 黒い焔の勢いが、徐々に弱まっていく。

 溢れ出していた魔力も、少しずつ落ち着きを取り戻していった。


 円花の腕の中で、雪那が小さく震えている。


「どうして……どうしてですの、リヒェンツァさん……」


 その言葉を、円花は否定しなかった。


「雪那ちゃん……私たちのリヒェンツァは死んだの」


 そこまで口にして、円花は黙した。

 それ以上、何も言えるはずがなかったから。

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