ななしのジョン・ドゥ part.5
「どうして……どうして、どうして……」
「雪那ちゃん」
雪那は、『幻日の箱庭』の中心にいた。
黒い焔。濁った魔力。
そのすべてが雪那を中心に、螺旋を描くように天へと昇っていく。
一分一秒でも、こんな場所にはいたくない。
それが、円花の率直な感想だった。
周囲を満たしているのは、濁り切った魔力。魔術の根源となる、純粋な魔力ではない。
本来の澄んだ姿からは、あまりにもかけ離れている。
この魔力に触れているだけで、身体の内側まで侵されてしまいそうだった。
その中心で、雪那は頭を抱え、蹲っている。
「どうして……どうして……」
同じ言葉を、何度も繰り返している。
「雪那ちゃん……」
円花は、ゆっくりと手を伸ばした。
そして――そっと包み込むように、雪那を抱き締める。
「もう、大丈夫よ」
そうでもしなければ……そうでもしなければ、このままでは、この子が壊れてしまう。
だから、円花は離せなかった。
「――お庭が……」
雪那の身体が、小さく震える。
「みんなで作り上げた、わたくし達の薔薇園が……っ」
慟哭が空気を揺らし、嗚咽が溢れ出す。
「大丈夫。大丈夫だから」
そう繰り返しながら、円花は雪那の身体を強く抱き締める。
「少しずつ、また直せばいいわ」
優しく、言い聞かせるように。
「薔薇は、冬に休眠して、春に芽吹く。そうでしょう?」
冬の寒さの中で眠り、やがて春が来る。
だから――希望も、きっと巡ってくる。
「私達で、また作ればいいだけよ」
円花は、雪那の背中をそっと撫でた。
「今度こそ、邪魔されない楽園にしましょう」
その言葉に応えるように。
黒い焔の勢いが、徐々に弱まっていく。
溢れ出していた魔力も、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
円花の腕の中で、雪那が小さく震えている。
「どうして……どうしてですの、リヒェンツァさん……」
その言葉を、円花は否定しなかった。
「雪那ちゃん……私たちのリヒェンツァは死んだの」
そこまで口にして、円花は黙した。
それ以上、何も言えるはずがなかったから。




