↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
71/93

終演 part.9

「――そ〜れ、それそれそれそ〜れ!」


 ウィリディアスとヴォルーツォは、激しい攻防を繰り広げていた。


 拳がぶつかり、魔術が飛び交う。

 互いに一歩も譲らず、獣のような身のこなしで相手の懐へ潜り込んでは、次の瞬間には距離を取る。


「――いい加減、降ろせ! ウィリディアス!!」


 その最中でさえ、エフィムはウィリディアスの腕に抱かれたままだった。


「やだよぉ。僕の大事なお嫁さんなんだからぁ♡」

「誰がお嫁さんだ!」


 エフィムが必死にもがく。その足元へ、漆黒の焔が迫っていた。


「よっと!」


 ウィリディアスは軽快なステップで横へ跳び、紙一重で炎を躱す。


「ちょこまかと……小賢しいぞ」


 ヴォルーツォが追撃する。

 拳がウィリディアスの頬を掠める。


 しかし――「おっと」


 ウィリディアスは身を捻り、紙一重で躱した。

 そのまま懐へ潜り込む。


「――アグッ!?」


 ヴォルーツォの脇腹に、何かが突き刺さった。

 銀色に光る――ペティナイフ。

 皮剥きに使うような、どこにでもある小さな包丁だった。


「ンッフフ」


 ウィリディアスは嬉しそうに笑う。

 エフィムを抱えたまま、ヴォルーツォの懐から軽やかに飛び退いた。


「ヴォルーツォさん……!」


 脇腹から引き抜かれたペティナイフが、乾いた音を立てて地面に転がる。

 途端、傷口から血が溢れ出した。

 いつもなら、とうに塞がっているはずの傷。

 しかし――今回は、違った。


 血は止まらない。

 傷口も、ゆっくりとしか塞がっていかない。


「――ほらぁ、お兄ちゃん」


 ウィリディアスが笑う。


「仕返ししてきなよ♡ 得意でしょ?」


 次の瞬間。


「――そぉれ!」


 無詠唱の鎌鼬が走った。

 ヴォルーツォは咄嗟に身を引く。

 それでも避けきれず、肩口が深く斬り裂かれた。


「……っつ!」

「ヴォルーツォさん!!」


 また、血が滴り落ちる。

 ウィリディアスは、それを眺めながら愉しそうに目を細めた。


 ヴォルーツォには、その意図が分かっていた。

 小さな傷を刻み続けることで、魔力を再生能力へ消費させる。

 そして、それと同時に――心までも削っていく。


「あはははははは! 次はこちら〜♡」

「クソっ……!」


 ヴォルーツォの太腿に、小型ナイフが突き立てられる。

 引き抜く。傷が塞がる。

 だが、その直後にはまた新たな傷が刻まれる。

 その繰り返しだった。


「ほらほらぁ、まだまだいけるよねぇ? おかわりどうぞ♡」

「……ッ!」


 だが――「――影よ、我が敵を捕らえろ!」


 ヴォルーツォの足元に落ちていた影が、突然、縦へ大きく伸びた。


「おわっ!?」


 影は蛇のように蠢き、ウィリディアスの身体へ絡みつく。

 腕を、脚を、胴を。

 無数の影が、その身を一瞬で拘束した。


「エフィムくんを離せ!」

「ンッフ――」


 ――パチン!


 直後、乾いた音が響いた。

 何の変化球もない。真正面から、ヴォルーツォの平手がウィリディアスの頬を打ち据える。


「……っ!」


 不意を突かれ、ウィリディアスの腕から力が抜けた。

 その一瞬を、エフィムは逃さなかった。


「ヴォルーツォさん!!」


 腕から抜け出し、エフィムが駆ける。

 そして、そのままの勢いでヴォルーツォへ抱きついた。


「……エフィムくん」


 ヴォルーツォは一瞬だけ目を見開く。

 それから、両腕でエフィムをしっかりと受け止めた。


「ごめんね、遅くなって」


 その声は、先ほどまでの苛烈な戦闘からは想像もつかないほど優しかった。

 まるで幼子をあやすように、エフィムの背へ手を添える。

 そして、もう一方の腕を腰へ回すと、その身体を軽々と抱き上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。