終演 part.4
「はあ、はぁ……は、あっ……!」
振り返らず、ただひたすらに走る。
見事なまでの遁走。敗北の味。
「エフィム会長を一人にして、大丈夫だったんでしょうか……」
ライツォフィオナが、もっともらしい不安を口にする。
「しゃーないだろう。あの子言い出したら聞く耳持たないんだから」
答えるバライバの顔には、珍しく神妙な色が浮かんでいた。
「それに、危なくなったら空間転移で逃げろって言ってある」
前だけを見て、足を動かす。
一歩。また一歩。
リヒェンツァは俯いたままだったが、それでもちゃんと着いて来ている。それだけが救いだった。
「とにかく、今は一刻も早く薔薇園から離れることさね。それから――円花はどこ行ったんだい」
焔の勢いは、なおも増している。
もはや円花どころの騒ぎではない。
一歩でも前へ。
今はただ、それだけに集中するしかなかった。
「……円花」
だからこそ、バライバの問いに、カレンデュラは一瞬だけ足を鈍らせた。
「どうして、あの人たちはあんなにもあたしを恨んでるんだろ」
黒く煤けた薔薇園。
焔に呑まれていく植物たちが、悲鳴を上げている。
パチパチと、乾いた音が響く。
焼かないで。殺さないで。枯らさないで――そんな声まで聞こえてくるようだった。
「恨んでないさね」
バライバは、前を向いたまま答える。
「単に、報酬のない仕事を続けてるだけだい」
あまりにも単純な答えだった。
「……そうなんだ」
カレンデュラは、それ以上何も言わなかった。
「おい、貴様ら! あそこを抜けたら、もう一度全員の人数を数える! 己の元へ、一人として欠けることなく辿り着けるよう努めるぞ!」
空蝉の声が、焔の熱気を裂いて響き渡る。
「円花……」
カレンデュラは、もう一度その名を口にした。
「ううん。今は集中しなきゃ」
ぎゅっと拳を握る。
「考えるのは、全部終わった後でいい」
足を動かす。肺を動かし、心臓を鳴らし、全身を使って。
燃え盛る箱庭を、ひたすらに突っ切る。
その時だった。
「――雨よ、絶え間なく降り注ぎ、大地を満たせ!」
女の声と共に――蒼い光が、視界を覆った。




