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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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終演 part.1

 風に揺れるガーランドのフィラメントが、チカチカと点滅を繰り返す。


 そんな長閑な光景とは裏腹に、ドス黒い焔はすべてを飲み込まんと、『幻日の箱庭』を覆い尽くしていた。


「――まずいぞ、これは」


 空蝉は薔薇の木々の隙間から、じっと焔の蠢きを伺う。


 その炎は、ただ燃え広がっているだけではない。

 まるで意思を持つかのように、ゆっくりとこちらへ迫っていた。


「空蝉さん!」


 カレンデュラが薔薇の中から顔を出した。

 その後ろから、バライバが叫ぶ。


「早く逃げるよ! もう、近くまで迫って来てる!」


 見れば、すでに薔薇園の三分の一が、黒い炎に呑み込まれている。


「くっ……」


 これ以上は、とても敵わない。

 空蝉は後ろを振り向き、それから肩を落とした。


「そうしよう。ここにいては、己らの命も危うい」


 その声には、いつもの飄々とした調子は微塵もなかった。


「逃げるなら、こっちから! ちょうど、この道が出口に向かってる!」


 カレンデュラが指差した先には、薔薇を縫うように敷かれた石畳の小径があった。


 三人は、一言も交わさず、小径へと飛び込んだ。


「行くぞ!」


 空蝉を先頭に、バライバ、カレンデュラが続く。

 薔薇の木々が視界を遮り、後ろの二人の姿が見えたり消えたりする。


「カレン、大丈夫かい!? はぐれるんじゃないよ!」

「ぜぇ、はぁ……お婆ちゃん、もうちょっと、ゆっくり……!」


 バライバが後ろを振り返り、カレンデュラの手を取る。


「エフィム達はもう、外か?」


 立ち止まった空蝉の着流しの裾が、焔に触れる。

 ジリッと布の焦げる匂いが鼻をつき、空蝉の思考が切り替わった。


「分からない。まだ中にいるかも……」


 焔の勢いは、衰えるどころか、さらに増している。


 しかし――そのとき。


「あ――」


 突然、三人の目の前に、あの女の姿が現れたのだ。

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