終演 part.1
風に揺れるガーランドのフィラメントが、チカチカと点滅を繰り返す。
そんな長閑な光景とは裏腹に、ドス黒い焔はすべてを飲み込まんと、『幻日の箱庭』を覆い尽くしていた。
「――まずいぞ、これは」
空蝉は薔薇の木々の隙間から、じっと焔の蠢きを伺う。
その炎は、ただ燃え広がっているだけではない。
まるで意思を持つかのように、ゆっくりとこちらへ迫っていた。
「空蝉さん!」
カレンデュラが薔薇の中から顔を出した。
その後ろから、バライバが叫ぶ。
「早く逃げるよ! もう、近くまで迫って来てる!」
見れば、すでに薔薇園の三分の一が、黒い炎に呑み込まれている。
「くっ……」
これ以上は、とても敵わない。
空蝉は後ろを振り向き、それから肩を落とした。
「そうしよう。ここにいては、己らの命も危うい」
その声には、いつもの飄々とした調子は微塵もなかった。
「逃げるなら、こっちから! ちょうど、この道が出口に向かってる!」
カレンデュラが指差した先には、薔薇を縫うように敷かれた石畳の小径があった。
三人は、一言も交わさず、小径へと飛び込んだ。
「行くぞ!」
空蝉を先頭に、バライバ、カレンデュラが続く。
薔薇の木々が視界を遮り、後ろの二人の姿が見えたり消えたりする。
「カレン、大丈夫かい!? はぐれるんじゃないよ!」
「ぜぇ、はぁ……お婆ちゃん、もうちょっと、ゆっくり……!」
バライバが後ろを振り返り、カレンデュラの手を取る。
「エフィム達はもう、外か?」
立ち止まった空蝉の着流しの裾が、焔に触れる。
ジリッと布の焦げる匂いが鼻をつき、空蝉の思考が切り替わった。
「分からない。まだ中にいるかも……」
焔の勢いは、衰えるどころか、さらに増している。
しかし――そのとき。
「あ――」
突然、三人の目の前に、あの女の姿が現れたのだ。




