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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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Grand Guignol part.4

「……そんな……」


 ――『Finger Tutting』は静まり返っていた。


 BGMのレコードだけが、空虚にくるくると回り続けている。


「……嫌だ……」


 リヒェンツァは、呆然と天井を這い回る配管を見つめていた。


 血の滲んだソファ。

 そこには、居合わせただけの無関係な女たち。


 そしてリヒェンツァ自身もまた、下着を剥ぎ取られたまま、ただ呆然と天井を見上げている。


「……そんな……」


 何が起きたのか。

 いや――分かっている。

 これは策略だったのだ。


 彼女はまんまとエカチェリーナたちの仕掛けた罠に嵌まり、こんな結果を招いてしまった。


「そんな……」


 ただ、茫然と天井を見上げ続ける。


 絶望の中で、リヒェンツァは何かに縋るように、壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返していた。


 ――“女同士の愛こそが至高にして真理”。

 かつてウィリディアスが高らかに掲げていたお題目。

 その言葉を、エカチェリーナは冷めた瞳で見つめていた。


「――うぐ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッ!! 嫌だ、やめてくれッッッ!!」


 リヒェンツァの魂の叫びが、劇場中にこだまする。

 それを待っていたかのように、観客たちは一斉に拍手喝采を浴びせた。


 そう、ここはグラン・ギニョール。


 非道とも言える惨劇を、娯楽として楽しむ者たちが集う見世物小屋なのだから。


 割れんばかりの拍手と、湧き上がる歓声。

 舞台上で繰り広げられているのが、如何なる苦しみ、如何なる悲劇であっても、彼らにとってはただの“ショー”でしかない。


「さあ、お集まりの皆様! 楽しい時間も残りわずかとなりました! どうか盛大な拍手をお願い致します!!」


 ウィリディアスが恭しく頭を下げるや否や、客席からスタンディングオベーションが巻き起こった。

 悲鳴を上げ、悶え苦しむリヒェンツァの姿さえ、彼らにとっては最高のエンターテインメントに他ならないのだから。

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