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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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再演 ending

「……それで? 誰も止めなかったのですか」


 魔術師育成協会の会議室は、いつにも増して冷え切っていた。


「え、ええ……その……」


 ボフマン・アンタレスは、しどろもどろになりながら言葉を濁す。


「曲がりなりにも、組織として動いているのでしょうに。勝手に動いて、勝手に騒ぎを起こして――それを咎めもしないというのは、どういうことですか」


 フェイルツィーオ・マクシミリアン・チェンは、目の前で小さくなっている本部役員たちを見据えたまま、声を荒らげることはなかった。

 だが、その声音には明らかな怒気が滲んでいる。


「貴殿は納得できないであろうが、これは理事長の――」

「へぇ。理事長が」


 ボフマンの言葉を遮るように、フェイルツィーオはその一言だけを意味深に繰り返した。


「……まあ、いいでしょう。今さら言ったところで始まりませんし」


 そう言うと、フェイルツィーオは手元の資料へ視線を落とした。


「――では、報告をお願いできますか」

「ですから……『イル・マット』のアジトの一つである、『幻日の箱庭』という名の薔薇園へ向かったとの報告がありまして」


 ボフマンは一度言葉を切り、慎重に続ける。


「その後の状況については、まだ詳しい報告が――」

「――全く。情けない組織ですわね」


 カツン、とヒールの音が響いた。

 次の瞬間、重厚な扉が勢いよく開かれる。

 そこに姿を現したのは、金髪の女だった。


 整った美貌とは裏腹に、その眼差しには威厳と侮蔑が入り混じっている。

 彼女は室内を一瞥するだけで、その場にいた誰も彼もを射抜くように見据えた。


「こんな体たらくで、よくもまあ組織を運営しているものですわね。恥を知るべきです」

「ア、アフェルディータ様……!」


 ボフマンが慌てて声を上げる。

 だが、アフェルディータと呼ばれた女は、ただ指先を軽く上げるだけで彼を制した。


「アフェルディータ。貴様は黙っていろ」


 フェイルツィーオは、呆れたように小さく息を吐く。


「……あら?」


 アフェルディータはそこで初めて兄の存在に気づいたかのように、彼へ視線を向けた。


「兄様、いらしたのですか? 余計な口出しをしてしまったようですわね」


 そう言って肩を竦める。

 しかし、その顔には反省の色など微塵も浮かんでいなかった。


「ですが、ワタクシが来たからにはご安心くださいませ! この賢妹アフェルディータが、一肌脱いで差し上げますわ〜〜〜〜〜!!」


 勢いよく宣言したアフェルディータは、兄の腕を掴む。


「おい、貴様――」

「さあ、参りましょう兄様!」


 抵抗するフェイルツィーオを席から引き摺り下ろすと、そのまま意気揚々と引きずりながら、会議室を飛び出していった。


 残された幹部たちは、しばし無言で顔を見合わせる。

 やがて、誰に聞かせるでもなく、ボフマンが低く呟いた。


「……あの問題児が、余計なことをしでかさなければ良いのですが」


 誰も、それを否定することはできなかった。

 ただ一人、これから起こるであろう惨劇を予感して、ボフマンは小さく肩を震わせる。


 ――その予感が、決して杞憂ではないことを。

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