再演 ending
「……それで? 誰も止めなかったのですか」
魔術師育成協会の会議室は、いつにも増して冷え切っていた。
「え、ええ……その……」
ボフマン・アンタレスは、しどろもどろになりながら言葉を濁す。
「曲がりなりにも、組織として動いているのでしょうに。勝手に動いて、勝手に騒ぎを起こして――それを咎めもしないというのは、どういうことですか」
フェイルツィーオ・マクシミリアン・チェンは、目の前で小さくなっている本部役員たちを見据えたまま、声を荒らげることはなかった。
だが、その声音には明らかな怒気が滲んでいる。
「貴殿は納得できないであろうが、これは理事長の――」
「へぇ。理事長が」
ボフマンの言葉を遮るように、フェイルツィーオはその一言だけを意味深に繰り返した。
「……まあ、いいでしょう。今さら言ったところで始まりませんし」
そう言うと、フェイルツィーオは手元の資料へ視線を落とした。
「――では、報告をお願いできますか」
「ですから……『イル・マット』のアジトの一つである、『幻日の箱庭』という名の薔薇園へ向かったとの報告がありまして」
ボフマンは一度言葉を切り、慎重に続ける。
「その後の状況については、まだ詳しい報告が――」
「――全く。情けない組織ですわね」
カツン、とヒールの音が響いた。
次の瞬間、重厚な扉が勢いよく開かれる。
そこに姿を現したのは、金髪の女だった。
整った美貌とは裏腹に、その眼差しには威厳と侮蔑が入り混じっている。
彼女は室内を一瞥するだけで、その場にいた誰も彼もを射抜くように見据えた。
「こんな体たらくで、よくもまあ組織を運営しているものですわね。恥を知るべきです」
「ア、アフェルディータ様……!」
ボフマンが慌てて声を上げる。
だが、アフェルディータと呼ばれた女は、ただ指先を軽く上げるだけで彼を制した。
「アフェルディータ。貴様は黙っていろ」
フェイルツィーオは、呆れたように小さく息を吐く。
「……あら?」
アフェルディータはそこで初めて兄の存在に気づいたかのように、彼へ視線を向けた。
「兄様、いらしたのですか? 余計な口出しをしてしまったようですわね」
そう言って肩を竦める。
しかし、その顔には反省の色など微塵も浮かんでいなかった。
「ですが、ワタクシが来たからにはご安心くださいませ! この賢妹アフェルディータが、一肌脱いで差し上げますわ〜〜〜〜〜!!」
勢いよく宣言したアフェルディータは、兄の腕を掴む。
「おい、貴様――」
「さあ、参りましょう兄様!」
抵抗するフェイルツィーオを席から引き摺り下ろすと、そのまま意気揚々と引きずりながら、会議室を飛び出していった。
残された幹部たちは、しばし無言で顔を見合わせる。
やがて、誰に聞かせるでもなく、ボフマンが低く呟いた。
「……あの問題児が、余計なことをしでかさなければ良いのですが」
誰も、それを否定することはできなかった。
ただ一人、これから起こるであろう惨劇を予感して、ボフマンは小さく肩を震わせる。
――その予感が、決して杞憂ではないことを。




