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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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再演 part.5

「――く、首、ですか? わたくしの首に何か付いてましたか?」


 雪那は言葉の意味が理解できないのか、自らの首元へ手を添え、困惑したように首を傾げた。


「ええい、エフィムよ! この小娘、話にならん! 茶会を始めるぞ! 全員、こっちへ来い!」

「――なっ!?」


 なんで勝手に決めてるんだ、この爺さんは……!


「もう、空蝉お爺ちゃん! 勝手に話を進めないでください! わたしたちの目的はヴォルーツォさんの捜索であって、お茶会に興じることじゃないんですよ!?」

「エフィム会長」


 凛とした声が、その場の空気を切り裂く。ライツォフィオナだった。

 彼女は空蝉へ向き直ると、小さく頷く。


「ここは、空蝉さんに従いましょう」

「は? 何言って――」

「エフィムくん、いいから。ここは従った方がいいと思う」


 今度はカレンデュラが、エフィムの肩を軽く押しながら空蝉の後を追う。


「いや、ちょっと! 何してるんですか、みんなして! どう考えても――」


 リュディオールが、ちらりとエフィムを振り返る。


「諦めたら、楽になるっすよ。会長」


 ――結局、エフィムは彼らに押し切られる形で席へ着かされてしまうのだった。


「改めまして、お客様方。ようこそ、幻日の箱庭へおいでくださいました」


 雪那は優雅に一礼すると、茶器へ黄金色の茶を並々と注ぎ入れる。


「リヒェンツァさん、バライバさんも、どうぞお席へ。とびきり美味しいフェンネルティーを淹れましたの」


 甘く豊かなフェンネルの香りが、庭園いっぱいに広がった。


「――……どーすんの、リヒェンツァ」

「どうもこうも、潰すに決まってんだろ」


 二人は席には着かず、少し離れた場所から雪那を見据える。

 リヒェンツァは拳を打ち合わせ、静かに臨戦態勢を取った。


「なら、早い方がいい。万が一、ウィリディアスが来たら面倒になる」

「言われなくても分かってら」


 バライバの警告に応えるように、リヒェンツァはさらに濃い殺気を雪那へ向ける。

 だが、当の本人はまるで意に介した様子もない。


「あら、フェンネルがお嫌いでしたか? それでしたら――」

「うぇえ……なにこれ。甘ったるいカレー味……」


 エフィムが思わず顔をしかめた。


「――ちょちょちょ!! な、何やってんすか、会長!?」


 リュディオールが思わず声を張り上げる。


「え、ええええ!? だって……」

「あ、テメェ!? 馬鹿かよ!!」

「毒が入ってたらどうするんですか、エフィム会長!!」

「危ないから、早く吐いて!」


 次々と浴びせられる仲間たちの非難に、エフィムは困惑したままカップをそっと置いた。


「ああ、ありゃ天然物の馬鹿だ。……そら、ヴォルーツォと馬が合うわけさね」


 頭を抱えるバライバの横で、リヒェンツァは思わず吹き出す。


「――ちっ、緊張感の欠片もねえな」

「そう言う割には、随分楽しそうだね、リヒェンツァ」

「ば、馬鹿野郎! アイツのせいで場の空気ぶち壊しだろうが!」

「あれじゃ、あの娘も気が削がれちまうんじゃないかね?」


 バライバが視線を向ける。

 その先では、雪那が何故か、しゅん……と肩を落としていた。


「お口に合いませんでしたか? それでしたら、カモミー――」

「もういいよ、雪那」


 いつの間にか、リヒェンツァは雪那の背後へ回り込んでいた。

 その手には、鎌状のナイフ――カランビット。


「リ、リヒェンツァさん……?」


 細い首筋へ添えられた刃先を見つめ、雪那は困惑したように振り返る。


「悪いな。茶に付き合ってやれなくて」

フェンネルはカレー味。



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