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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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再演 part.4

「――喰らいな!」


 バライバが動く。


 即座に忍ばせていた折り畳みナイフを抜き、自らの指先に傷を刻む。

 滴り落ちた血は、足元に展開された魔法陣へ吸い込まれていった。


「――血よ。呪われし鎖よ。我が敵を捕縛せよ!」


 呼応するように、赤黒い鎖が意思を持ったかのように伸び、雪那の後ろ姿へ絡みつく――かに見えた。


 ――ぎゅ、ぎゅぎゅぎゅ……!

 拘束されたのは、一体の大きな兎のぬいぐるみ。

 典型的な身代わり術だった。


「――んな、身代わりだとぉぉぉ!?」


 パンっ!

 哀れな兎のぬいぐるみは、鎖の圧力に耐えきれず腹部が弾け、中から綿が溢れ出す。


「こちらですよ、皆様」


 声が響く。


「ここは幻想の箱庭。どうぞ、存分にお楽しみくださいませ」


 木々の間から、次々と声が反響する。

 逆風に乗るように、その声は庭園全体へ広がっていく。


「まずはご挨拶からですね。私はこの幻日の箱庭を管理しております、雪那と申します」


 ハーブガーデンを抜けた先にあるガゼボ。

 そこに雪那は静かに立っていた。


 湯気を立てる茶器。焼き菓子から漂う甘い香り。色とりどりに咲き誇る花々。


 何もかもが穏やかすぎて――だからこそ、違和感しかなかった。


「リヒェンツァさん……どうするの……」


 カレンデュラが、不安げに問いかける。


「――さあ、こちらへ。もう準備は整っておりますわ」


 雪那は微笑む。


「今日は沢山のお客様においでいただきましたので、飛び切り美味しいハーブティーを淹れましたの」


 その口元には、満ち足りたような笑みが浮かんでいた。


 エフィムも。カレンデュラも。ライツォフィオナも。リュディオールも。そして、バライバまでもが言葉を失う。


 これではまるで、エフィム達の方が悪党ではないか。


「……己が貴様を切り捨てる前に、その首を差し出す気はないか」


 あまりにも唐突な一言。

 重苦しい空気すら意に介さず、その男は無慈悲に言い放つのであった――。

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