再演 part.4
「――喰らいな!」
バライバが動く。
即座に忍ばせていた折り畳みナイフを抜き、自らの指先に傷を刻む。
滴り落ちた血は、足元に展開された魔法陣へ吸い込まれていった。
「――血よ。呪われし鎖よ。我が敵を捕縛せよ!」
呼応するように、赤黒い鎖が意思を持ったかのように伸び、雪那の後ろ姿へ絡みつく――かに見えた。
――ぎゅ、ぎゅぎゅぎゅ……!
拘束されたのは、一体の大きな兎のぬいぐるみ。
典型的な身代わり術だった。
「――んな、身代わりだとぉぉぉ!?」
パンっ!
哀れな兎のぬいぐるみは、鎖の圧力に耐えきれず腹部が弾け、中から綿が溢れ出す。
「こちらですよ、皆様」
声が響く。
「ここは幻想の箱庭。どうぞ、存分にお楽しみくださいませ」
木々の間から、次々と声が反響する。
逆風に乗るように、その声は庭園全体へ広がっていく。
「まずはご挨拶からですね。私はこの幻日の箱庭を管理しております、雪那と申します」
ハーブガーデンを抜けた先にあるガゼボ。
そこに雪那は静かに立っていた。
湯気を立てる茶器。焼き菓子から漂う甘い香り。色とりどりに咲き誇る花々。
何もかもが穏やかすぎて――だからこそ、違和感しかなかった。
「リヒェンツァさん……どうするの……」
カレンデュラが、不安げに問いかける。
「――さあ、こちらへ。もう準備は整っておりますわ」
雪那は微笑む。
「今日は沢山のお客様においでいただきましたので、飛び切り美味しいハーブティーを淹れましたの」
その口元には、満ち足りたような笑みが浮かんでいた。
エフィムも。カレンデュラも。ライツォフィオナも。リュディオールも。そして、バライバまでもが言葉を失う。
これではまるで、エフィム達の方が悪党ではないか。
「……己が貴様を切り捨てる前に、その首を差し出す気はないか」
あまりにも唐突な一言。
重苦しい空気すら意に介さず、その男は無慈悲に言い放つのであった――。




