再演 part.3
最初に感じたのは、香りだった。
ほのかに甘く、それでいて爽やかな香りが、身体を包み込む。
次いで視界に飛び込んできたのは、見上げるほど鮮やかな彩。
――赤。白。黄色。紫。
「……ここが」
目が覚めるとは、まさにこのことか。
カレンデュラは眼前に広がる光景に、しばし言葉を失っていた。
「え……ここが本当に『イル・マット』のアジトなんですか……?」
エフィムもまた、思わず驚嘆の声を漏らす。
「ふむ……匂うな」
空蝉は鼻をひくつかせながら、一歩踏み出す。
「ちょっ! お爺ちゃん! 勝手な行動は――」
エフィムが慌てて制止しようとした、その時。
「――お待ちしておりました」
左右に広がる槐の並木が、一斉にざわめき始める。
まるで夢の中へ迷い込んだかのような、幻想的な光景だった。
庭園の中央にあるのは、細長い池。
その水面の中心に、一人の女が浮かんでいる。
「雪那……」
リヒェンツァが、苦々しげにその名を呟いた。
「皆さま、よくぞいらっしゃいました。歓迎いたしますわ」
水面に佇む女――雪那は、柔らかく微笑むと、優雅なカーテシーで一行を迎えた。
「リ、リヒェンツァさん……」
カレンデュラは思わず、リヒェンツァのジャケットの裾を掴む。
拍子抜けとは、まさにこのことだった。
てっきり、リヒェンツァのような荒々しい女たちが、棍棒でも担いで迎え撃ってくるものと思っていた。
だが、蓋を開けてみれば――そこに現れたのは、まるで磁器人形のように美しい女性だったからだ。
「――注意しな。ああ見えて、あの女の魔力は桁違いだよ」
バライバが小声で囁き、何気ない動作でカーゴパンツのポケットへ手を入れる。
「ここに、ウィリディアスに瓜二つの馬鹿な男が来なかったかい? ヴォルーツォっていうんだけどね」
ポケットの中には、折り畳み式のナイフと、高等魔術用の触媒がいくつか収められていた。
「ヴォルーツォ……様、ですか? ウィリディアスさんにそっくりな方がお見えになったことはありませんわ」
嘘を吐いている様子はない。
雪那は池の上を静かに歩き、水面を渡りながらこちらへ近づいてくる。
「まあまあ、立ち話は何ですから、お茶にでもしましょう。花々もきっと喜びます」
「――は、はい?」




