再演 part.2
『幻日の箱庭』とは、反魔術師組織『イル・マット』が管理する薔薇園であり、そのアジトの一つでもある。
"幻日"の名が示すように、誰もが立ち入れる場所ではなく。誰の目にも映る場所でもない。
「――つまり」
ライツォフィオナが小さく呟く。
「この薔薇園は、一般人の目に触れないよう結界で守られている。そして、この園に入れるのは『イル・マット』に関わる者だけ……そういうことですね」
「そういうことになるのであろうな」
空蝉が感情の読めない声で答えた。
一行が訪れたのは、ヤアタマナ山の麓に広がる広大な薔薇園。
その名を、『幻日の箱庭』という。
「……え、薔薇園? どこにもないよ?」
「見えないんです? そこからあそこまで煉瓦造りの塀が続いていて、真ん中には立派な門が見えませんか?」
「煉瓦……?」
カレンデュラの視界には、風にそよぐ草原が、見渡す限り広がっているだけだった。
「ここは、一定水準以上の魔力がなければ視認できないんす」
リュディオールが鋭い口調で付け加える。
「なるほど、それで……」
エフィムはスマートフォンを片手に、『アルラト七不思議』なるウェブサイトを眺めながら、一人頷いた。
「アルラトに伝わる七不思議。そのひとつ、『幻の薔薇園』か――」
「おい、お前ら。こっち来い」
いつの間にか門の傍まで移動していたリヒェンツァが、一行を手招いた。
「ここに結界があるの、見えるだろ」
リヒェンツァが軽く手を翳した先。
カレンデュラの目には、何の変哲もない草原が広がっているだけだった。
「壊せば、感知されるだけじゃ済まねえぞ」
そう言うと、彼女は指先で空間をちょん、と突く。
次の瞬間――バチッ!
鋭い音とともに火花が散った。
「結界って、そんなに危ないものなの……!?」
カレンデュラは思わず大きく後ずさる。
「安心しろ。こういうもんには手薄になってる場所がある」
「なるほど。それが結界を回避する方法の二つ目、というわけですね」
エフィムが興味深そうに顎へ手を添えた。
「お婆ちゃん、さっきから黙ってるけど……どこか悪いの?」
バライバの顔には、怒りとも悲しみともつかない表情が浮かんでいた。
「……ああ、別に何もないよ。ただ、少し気になることがあるだけさね」
「気になる?」
カレンデュラが小首を傾げる。
「気にしなくていいよ。単なる戯言だから」
そう言って、バライバは気怠そうに首を左右へ振った。
「てめぇら、行くぞ」
リヒェンツァは小さく息を吐くと、煉瓦壁に沿って歩き出す。
その後を、一同もぞろぞろと追った。
しばらく歩いた先で、リヒェンツァは足を止める。
「……ここだ」
目の前の空間には、先ほどまで感じなかった揺らぎがあった。
正門ほどの威圧感はない。
しかし、そこには重厚な扉が一枚、周囲を見回しても人影はない。
「普段は搬入口として使ってる。薔薇園つっても、肥料やら何やら運び入れる必要があるからな」
「まあ……いちいち入るたびに解除してたら、面倒で仕方ねーすよ」
「そーいうこと」
リヒェンツァは扉へ手を伸ばす。
「おい、てめぇら。準備はいいか?」




