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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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再演 part.1

 腹を裂かれ、一人の女が倒れている。


 微動だにしないその姿は、糸の切れたマリオネットのように、力なく地面へ投げ出されていた。


「ああ……やっと、終われる」


 霞む視界の向こうで、女は静かに悟る。

 痛みは、とっくの昔に薄れていた。

 死がすぐそこまで迫っているというのに、不思議と恐怖はない。


「……これで、いいの。あの子さえ……無事なら」


 胸に残る未練は、たった一つだけ。

 あの子の未来。


「私のせいで……」


 ――あの子は、不幸になってしまう。


 それが自分の罪なのか。それとも、あの子自身の運命なのか。

 そんなことさえ、もう判らなくなっていた。

 けれど、それももう終わる。


 意識が闇へ沈もうとした、その瞬間だった。


『お嬢さん、助けはいるかな?』

「……だ、れ……?」

『ジョン・ドゥ、とでも名乗っておきましょうかねぇ。しがない暇人にございます』


 声は聞こえる。だが、姿は見えない。


「私はいいから……お願い。あの子を、どうか」

『ええ、任せて下さい』


 ジョン・ドゥ(名なしの権兵衛)は優しく答え、女の額へそっと手を翳した。


 深い、深い、意識の底へ落ちていく。

 女には確信があった。


 ――これで、大丈夫だと。

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