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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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一匹狼 part.6

 ギィ……。古びた床板が、重たい音を立てて軋む。


「さあ、みんなおいで。ご飯にしよう」


 トレーには、硬く乾いたパンと、具のない汁物。それに、申し訳程度の果物が添えられていた。


 それが、この家で与えられる餌だった。


 五歳から十歳ほどの少年たちは、それぞれ無言でトレーを受け取り、自分の席へ戻っていく。


 だが、一人だけ動こうとしない子供がいた。


「おや、一人分余っているよ。誰か持って行ってない子はいるかい?」


 少年はテーブルの下に身を縮めたまま、ぴくりとも動かない。


「……ほら、出ておいで。ご飯だよ」


 恐る恐る顔を上げた少年を見て、男は目を細める。


 まるで、怯える様子さえ愉快でたまらないとでもいうように。


「いらないなんて言わせないよ。僕が言うことは絶対だからね。ありがたく受け取るんだ」


 穏やかな口調とは裏腹に、その声音に拒絶を許す余地はなかった。


 次の瞬間、少年の腕が乱暴に掴まれる。

 細い身体は抵抗する間もなく、テーブルの下から無理やり引きずり出された。


「ほら、あーん。食べなきゃ大きくなれないよぉ?」


 硬く乾いたパンが少年の口元へ押し当てられる。


 唇を閉ざしても、男は構わない。無理やり口をこじ開け、味気ないパンを押し込む。


 少年は苦しげに首を振る。

 その反応を見て、男の口元が嬉しそうに歪んだ。


「へぇ、嫌なんだ。僕のこと嫌い? そうなんだ。僕のこと嫌いなんだ、君は」


 興奮を隠しきれない声で呟きながら、男は少年を床へ押し倒す。


 逃げようと身をよじる細い身体を、軽々と押さえつける。


「ああ、いいよ。好きなだけ嫌っていいんだよ。自分の意思で未来を潰すっていうなら、僕は止めないさ。そんなに今がつらいなら、ここで終わらせてあげちゃおうかな」


 その声は、どこまでも優しかった。

 だからこそ、なおさら恐ろしい。


 憎い。苦しい。怖い。憎い。憎い――。


 その一部始終を、冷め切った目で見つめる視線があった。


 ここは楽園だった。黙って耐えていれば、いつかは報われる。

 そんな甘い幻想を抱いてはいけないことも知っている。


 やがて、硬いパンを喉に詰まらせた少年は、もがく力すら失っていく。


 男は恍惚とした表情で、その頬をそっと撫でた。


「――あーあ、壊れちゃった」

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