一匹狼 part.6
ギィ……。古びた床板が、重たい音を立てて軋む。
「さあ、みんなおいで。ご飯にしよう」
トレーには、硬く乾いたパンと、具のない汁物。それに、申し訳程度の果物が添えられていた。
それが、この家で与えられる餌だった。
五歳から十歳ほどの少年たちは、それぞれ無言でトレーを受け取り、自分の席へ戻っていく。
だが、一人だけ動こうとしない子供がいた。
「おや、一人分余っているよ。誰か持って行ってない子はいるかい?」
少年はテーブルの下に身を縮めたまま、ぴくりとも動かない。
「……ほら、出ておいで。ご飯だよ」
恐る恐る顔を上げた少年を見て、男は目を細める。
まるで、怯える様子さえ愉快でたまらないとでもいうように。
「いらないなんて言わせないよ。僕が言うことは絶対だからね。ありがたく受け取るんだ」
穏やかな口調とは裏腹に、その声音に拒絶を許す余地はなかった。
次の瞬間、少年の腕が乱暴に掴まれる。
細い身体は抵抗する間もなく、テーブルの下から無理やり引きずり出された。
「ほら、あーん。食べなきゃ大きくなれないよぉ?」
硬く乾いたパンが少年の口元へ押し当てられる。
唇を閉ざしても、男は構わない。無理やり口をこじ開け、味気ないパンを押し込む。
少年は苦しげに首を振る。
その反応を見て、男の口元が嬉しそうに歪んだ。
「へぇ、嫌なんだ。僕のこと嫌い? そうなんだ。僕のこと嫌いなんだ、君は」
興奮を隠しきれない声で呟きながら、男は少年を床へ押し倒す。
逃げようと身をよじる細い身体を、軽々と押さえつける。
「ああ、いいよ。好きなだけ嫌っていいんだよ。自分の意思で未来を潰すっていうなら、僕は止めないさ。そんなに今がつらいなら、ここで終わらせてあげちゃおうかな」
その声は、どこまでも優しかった。
だからこそ、なおさら恐ろしい。
憎い。苦しい。怖い。憎い。憎い――。
その一部始終を、冷め切った目で見つめる視線があった。
ここは楽園だった。黙って耐えていれば、いつかは報われる。
そんな甘い幻想を抱いてはいけないことも知っている。
やがて、硬いパンを喉に詰まらせた少年は、もがく力すら失っていく。
男は恍惚とした表情で、その頬をそっと撫でた。
「――あーあ、壊れちゃった」




