一匹狼 part.1
ダークウェブ。
それは、通常の検索エンジンでは辿り着けない、裏社会の情報が集まる闇市場だ。
人身売買、違法薬物、違法魔術具……。
法に触れるあらゆる品が売買される、決して表には姿を現さない世界。その存在を知っていても、容易に辿り着ける場所ではない。
入口は秘匿され、一般人が偶然見つけられることも、誰かに教えられることもないとされている。
……だが、唯一の例外があるとすれば、それは――。
「『イル・マット』の連中が、運営・管理していた『アバロン』を閉鎖してから、もう随分経つな。奴らが違法魔術具で荒稼ぎした金は、どこへ消えたやら」
薄暗い部屋で、派手なスーツに身を包んだ老人が愉快そうに嗤った。
その傍らでは、黒衣の男が静かに頷く。黄金の瞳だけが妖しく光を宿し、主人の言葉を咀嚼するように細められた。
「リヒェンツァ・デ・ゲシュケ・メグミを失った今、『イル・マット』は崩壊を待つばかりでしょう。『アバロン』を運営していたのも彼女なら、組織を実質的に支えていた参謀も彼女でした。彼女を欠いた時点で、あの組織の命運は尽きています」
「クックック……そうだろう、そうだろう」
老人は満足げに何度も頷き、口元を歪めた。
「あの娘の過去は知らん。だが、敵だった魔術師育成協会へ寝返ったとなれば、ウィリディアスとの仲は相当こじれていたのだろうな」
老人は肩を震わせる。
「腹いせに古巣を捨てた、と考えれば実に滑稽だ」
ひとしきり笑ったあと、不意に笑みを引っ込める。
「さて……追い詰められたウィリディアスがどう動くか」
老人の目が細くなる。
「もっとも、あの男のことだ。碌な手は打てまい」
そして、老人はさらに深い闇へ踏み込むように、黒衣の男へ視線を向けた。
「お前はどう思う、ヴィンセントよ。聞かせてみろ」
試すような口調だった。
ヴィンセントは一拍置き、淡々と口を開く。
「ウィリディアスと数名の幹部だけでは、『イル・マット』を維持するのは難しいでしょう。リヒェンツァが離反した今、組織はいずれ瓦解します」
「ククッ……」
老人は満足げに頷く。
「奴ら、新しい店を構えたそうだな。よりにもよって協会のお膝元、ダワイカとは。ウィリディアスも、ずいぶんと愚かな真似をしたものだ」
喉の奥で愉快そうに笑いながら、老人は椅子にもたれかかった。
「『シャルトルーズ・ドゥ・パルム』……だったか」
その名をゆっくりと口にすると、ヴィンセントへ鋭い視線を向ける。
「動向を監視しろ。些細なことでも構わん。変化があれば逐一報告しろ」
「承知しました」




