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追憶の辺獄  作者: 香取 仙狐
第二章 幻日の箱庭
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一匹狼 part.1

 ダークウェブ。

 それは、通常の検索エンジンでは辿り着けない、裏社会の情報が集まる闇市場だ。


 人身売買、違法薬物、違法魔術具……。

 法に触れるあらゆる品が売買される、決して表には姿を現さない世界。その存在を知っていても、容易に辿り着ける場所ではない。


 入口は秘匿され、一般人が偶然見つけられることも、誰かに教えられることもないとされている。


 ……だが、唯一の例外があるとすれば、それは――。


「『イル・マット』の連中が、運営・管理していた『アバロン』を閉鎖してから、もう随分経つな。奴らが違法魔術具で荒稼ぎした金は、どこへ消えたやら」


 薄暗い部屋で、派手なスーツに身を包んだ老人が愉快そうに嗤った。


 その傍らでは、黒衣の男が静かに頷く。黄金の瞳だけが妖しく光を宿し、主人の言葉を咀嚼するように細められた。


「リヒェンツァ・デ・ゲシュケ・メグミを失った今、『イル・マット』は崩壊を待つばかりでしょう。『アバロン』を運営していたのも彼女なら、組織を実質的に支えていた参謀も彼女でした。彼女を欠いた時点で、あの組織の命運は尽きています」

「クックック……そうだろう、そうだろう」


 老人は満足げに何度も頷き、口元を歪めた。


「あの娘の過去は知らん。だが、敵だった魔術師育成協会へ寝返ったとなれば、ウィリディアスとの仲は相当こじれていたのだろうな」


 老人は肩を震わせる。


「腹いせに古巣を捨てた、と考えれば実に滑稽だ」


 ひとしきり笑ったあと、不意に笑みを引っ込める。


「さて……追い詰められたウィリディアスがどう動くか」


 老人の目が細くなる。


「もっとも、あの男のことだ。碌な手は打てまい」


 そして、老人はさらに深い闇へ踏み込むように、黒衣の男へ視線を向けた。


「お前はどう思う、ヴィンセントよ。聞かせてみろ」


 試すような口調だった。

 ヴィンセントは一拍置き、淡々と口を開く。


「ウィリディアスと数名の幹部だけでは、『イル・マット』を維持するのは難しいでしょう。リヒェンツァが離反した今、組織はいずれ瓦解します」

「ククッ……」


 老人は満足げに頷く。


「奴ら、新しい店を構えたそうだな。よりにもよって協会のお膝元、ダワイカとは。ウィリディアスも、ずいぶんと愚かな真似をしたものだ」


 喉の奥で愉快そうに笑いながら、老人は椅子にもたれかかった。


「『シャルトルーズ・ドゥ・パルム』……だったか」


 その名をゆっくりと口にすると、ヴィンセントへ鋭い視線を向ける。


「動向を監視しろ。些細なことでも構わん。変化があれば逐一報告しろ」

「承知しました」

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