驚いた part.7
「――あれ、リヒェ姐……?」
振り返ると、そこにはシンプルなシャツにスラックス姿のリュディオールが立っていた。
腰には上質そうな刀を佩き、力の抜けた立ち姿にもかかわらず、一切の隙がない。
「あ? お前かよ。何の用だ」
リヒェンツァは露骨に眉をひそめる。
「何の用って……それはこっちの台詞っすよ。リヒェ姐こそ何してんすか」
「あぁん? ……体力づくり。見りゃ分かんだろ」
ジャージにタオル。髪は後ろでひとまとめ。
どう見ても、トレーニングの真っ最中だった。
「いや、それは見りゃ分かるんすけど……何でカレンデュラと一緒にいるんすか」
「だから、コイツの付き添いだっつの」
リヒェンツァは親指で背後のカレンデュラを指し示す。
「……そうじゃない」
リュディオールは一拍置き、真顔で口を開いた。
「リヒェ姐、カレンデュラと住み始めたって本当なんすか?」
「――本当だったら、なんなんだよ。言ってみろや」
リヒェンツァとリュディオールのやり取りには、一切の遠慮がない。
軽口を叩き合っているようでいて、その言葉の端々には、互いに薄い刃を突きつけ合うような鋭さがあった。
「お前に関係あるのか? ん? 俺が誰とどこでどう過ごそうが、関係ねーだろ」
「いや、そりゃそっすけど……」
「文句あんなら、はっきり言えよ」
リュディオールはきっとリヒェンツァを睨みつける。
「――なら、この際、言わせてもらうっす」
一度、大きく息を吸い込む。
「……この前の件、忘れたとは言わせないっすよ」
「あ? 知らねぇよ。んな昔のこと」
あまりにもあっけらかんとした返事だった。
リュディオールは呆れたように目を細め、深いため息をつく。
「はぁ……相変わらずっすね。その無責任なところ。反省とかしないんすね」
「――反省?」
リヒェンツァは首を傾げると、くるりと体ごとカレンデュラの方を向いた。
「俺、なんかしたか?」
「え、いや、その……」
突然話を振られ、カレンデュラは困ったように視線を泳がせる。
「詳細を知らないので……何とも言えないです」
その返事を聞くと、リヒェンツァは面倒くさそうに肩をすくめた。
「だよなぁ。じゃ、この話は終わりにしようぜ」
「――ちょっ!?」
「はい。終わり、終わり。おつかれしたー!」
そう言いながら、リヒェンツァはカレンデュラの手を軽く引き、そのまま背を向ける。
「……お前、そんなんだから女できねぇんだぞ」
リヒェンツァの口から、あっけらかんと放たれたその一言に、リュディオールの眉間がぴくりと震えた。
「――人の気持ちも知らないくせに……」
悔しさを押し殺したような呟きには、力がなかった。
それでも、その一言だけは飲み込めなかったのだろう。
遠ざかる背中に一つだけ、呪いを放つ。
「あんたには、一生分かんねぇよ」




