驚いた part.2
「……さてと、夕飯にすっか」
派手な格好にはまるで似つかわしくない、可愛らしいアヒル柄のエプロン。
「──プッ!」
思わず、カレンデュラは吹き出した。
その反応を見たリヒェンツァは、怒るでもなく、呆れたように頭を掻く。
「……うるせぇな。仕方ねぇだろ」
アリカとエミルのお節介の延長線上で、こんな支給品まで渡されてしまったのだ。
二人がどういう意図でこれを選んだのかは容易に想像がつく。
だが、今さら文句を言ったところで、どうにもならないのも事実だった。
「というより、副会長ってすっごく偉い立場ですよね? 自分でご飯も作るんですか?」
「お前は作ってもらう側だから分かんねぇと思うが……」
また小言が始まりそうな気配を察し、カレンデュラは素早く話題を逸らした。
「あの、魔術師になるためには試験があるって聞きました」
カレンデュラは話題を変えようと努めて、明るい声を出す。
「なんか色々条件とか、規則とかあるんですよね? やっぱり難関なんですか?」
リヒェンツァは手際よく人参を刻みながら、ちらりとこちらへ目を向けた。
「そうだな……難しいっちゃ難しいな」
素っ気ない返事だったが、少なくとも機嫌を損ねた様子はない。
「まず前提として、実技だけじゃなく座学も必要になる。歴史とか、法規制とかな」
人参を切り終えると、今度はジャガイモを手に取る。
「それと、最低限の身体能力も必須だ。戦闘系じゃなくても、現場じゃ何が起こるか分からねえ。体力勝負になった時、動けねえ奴は役に立たねぇからな」
次の瞬間、手の中のジャガイモの皮が熱に浮かされるようにするりとめくれ、そのままひとりでに剥がれ落ちた。
「……つまり、何を勉強すればいいんですか?」
カレンデュラは話を元に戻すように問いかけた。
「それを考えるのがてめぇの仕事だろ。今のところ無職同然なんだし、勉強以外にやることがあるなら言ってみな」
その冷たい一言が、カレンデュラの胸に突き刺さる。
「……うぅ、やっぱりそっかぁ」
半ば予想はしていた。だが、実際に言葉にされるとやはり堪える。
「本来なら魔術師育成学校に入学して、そこで基礎から学ぶのが第一関門なんだもん。スタートラインが全然違う。同世代のみんなが何年もかけて積み上げてきたものを、あたしはゼロから積み上げなきゃいけないんだよね……」
頭の中でぼんやりとしていた不安が、少しずつ輪郭を持ち始める。
──時間の壁。
それがどれほど高いのか、今の自分にはまだ見当もつかない。
けれど、確かに目の前へ立ちはだかっている。
「しゃーねーって。魔力が元々極端に……ん?」
リヒェンツァは不意に鍋の火を止め、カレンデュラへ視線を向けた。
「……てめぇ、魔術師になるつもりなん?」
「え? そうですけど?」
今さら何を言い出すのかと思えば、あまりにも当然の問いだった。
しかし、リヒェンツァの目は違うものを見ている。
「そうか、お前――」
言いかけたところで口をつぐみ、鍋に水を注ぐ。
続けてルーを一欠片放り込み、静かにかき混ぜた。
「あのウィリディアスを蹴散らしたって話は、本当だったのか」
独り言のような呟きだった。
だが、その声には妙な重みがあった。
「えっと、つまり……」
カレンデュラは少しだけ言葉を選び、それでも結局、率直に尋ねることにした。
「リヒェンツァさん的には、反対なんですか? あたしが魔術師になること」
「いいや、別に?」
返事は拍子抜けするほどあっさりしていた。
「……いやぁ、アイツも舐めてかかったんだろうが、あんなあっさり引き下がるタマじゃねぇし……なんか妙だな」
鍋をゆっくりとかき混ぜながら、リヒェンツァは視線を落とした。
思考はまだ別の場所にあるようだった。
リヒェンツァは何を作っているでしょうか
1カレー
2シチュー
答えは……!
知らん(クソ)




