風の語り部 part.6
「おはよーさん。眠れたか?」
大きな欠伸を噛み殺しながら、リヒェンツァが声をかける。
「俺は絶賛寝不足で、最低最悪の気分だけどな」
「……ごめんなさい……」
昨夜、あれから女子寮へ泊めてもらえるよう、深夜にもかかわらず各所へ掛け合ってくれたらしい。
その結果、どうにか一室を確保できたのだという。
「で、どうだった? 新築の俺ん家は。まだあそこで寝たことねぇんだけど」
「むむっ……! そういう聞き方、ずるいですよ」
少しだけ頬を膨らませる。
「それにしても、深夜なのによく部屋が見つかりましたね」
その言葉に、リヒェンツァは「ああ」と低く唸る。
「……そこなんだよな。女子寮なんざ、いつも速攻で埋まるはずなんだが……」
言いかけて、ふと口を閉ざした。
「ここ数か月は妙に空きが目立つらしい」
つまり、短期間で退寮する者が相次いでいるということだ。
もっとも、その理由までは誰も教えてくれなかった。
「……何かあるんですかね、その女子寮」
カレンデュラが不安げに呟く。
「だろうな」
リヒェンツァはあっさり頷いた。
「だが、俺も詳しい話は聞かされてねぇ。挨拶ついでに現場を見てくる」
そう言って軽く肩をすくめると、ぽん、とカレンデュラの肩を叩いた。
「お前は飯でも食っとけ。責任は俺が持つ」
そう言って、リヒェンツァは硬貨を数枚、カレンデュラの手に握らせた。
「――あ、あの! 副会長さん!」
「リヒェンツァでいい。じゃ、また後でな」
そう言って、早く行けとでも言うようにカレンデュラの背を軽く押す。
「――リヒェンツァさん!」
呼び止めるように声を張る。
もう、その背中は廊下の向こうへ遠ざかり始めていた。
「ありがとうございます!」
届いたかどうかも分からない。
それでもリヒェンツァは振り返らない。
ただ片手を軽く掲げ、ひらりと振って応えた。




